行財政改革・税制等に関する 特別委員会(平成11年12月3日)

質問テーマ

[21世紀における国家機能のあり方]省庁改革施行関連法案(独立行政法人個別法案等)質疑

質問のポイント

1. 独立行政法人

  • 今回の日本の独立行政法人の雛型になったのは、 英国のエージェンシー制と聞いている。英国においてエージェンシー制が、機能し、 成功している背景には、政策の策定機関と執行機関を完全に分離し、 また民営化できる所は既に民営化しているという前提があったからであると思われる。 しかし、日本のように漸次移行していく過程での独立行政法人というのは、 果たして英国のように成功するのかという危惧を抱いているが、 どのようにこれを成功させようという考えなのか伺いたい。

2. 政策評価制度

  • 今回の中央省庁再編・改革の中で最もその成果を期待していることは、「評価」 という考え方や制度が導入されることである。 これは日本の行政に関して誠にエポックメイキングなことだと思う。 しかし、自分の省庁のパフォーマンス評価を、官僚が自分たちで行って、 果たして客観的で厳格な評価が実行されうるのか。実行されるとすれば、 厳密かつ具体的な評価基準やマニュアルを設定し、 裁量の介入する余地を極力少なくする必要があると思うがいかがか。
  • 米国連邦政府にはGPRA法(Government Performance and Results Act)がある。 各省・各部局は自らの存在の目的、 あるいは個々の施策の目的が国民にとってどういう意味があるのかを示し、 また同時にどんな成果を達成しようとしているのかを数値目標の形で示した 「戦略計画」をまず立て、それに続いて「業績計画」、「業績報告」 を設定しなければならない、ということから定めている。 行政サービスを受ける国民を「顧客」とみなし、 民間企業の経営ノウハウを最大限行政に導入する仕掛けを実現している。 このGPRA法とこれから日本で策定していく行政評価法とを比較して、 どのような相違があるのか。
  • GPRA法が有効に機能するために欠かせないのが、 各行政庁の効率的経営の推進状況を監督している“GAO(米国会計検査院)”の存在。 “Table of Reviewing”といった何項目もあるチェックリストを使って、 各項目における各行政庁の対応状況を記入し、 最終的に100点満点で得点づけを行っている。 このような大規模で厳格なチェック体制を整備するためにはわが国にも日本版 “GAO”の設置が必要だと思うがいかがか。
  • 米連邦政府の行政改革は、クリントン、ゴアが行った National Performance Review をはじめ、自治体での改革事例が参考になっている。 自治体レベルでの様々な実験やノウハウが、 連邦レベルに集大成されてGPRA法のような法律になり、さらに全米各地に浸透した。 また英国でもサッチャー首相が就任直後に「強制競争入札制度」を導入した。 これは大変なショック療法だったわけだが、 わが国としても日本なりの大胆な措置を是非断行すべきだと考えるが、 大臣なりの改革案について伺いたい。
  • サッチャー首相の後に続いたメージャー首相も、 基本的な行政サービス業務について単に評価をするだけではなく、 通信簿のような形で得点づけをして公表するという仕組みを導入した。 このように評価結果をいかに効果的に公表するかという問題も重要と思うが、 大臣の考えを伺いたい。

質疑要旨

畑 議員

 続大臣は既に東京都政で行政改革に関して手腕を発揮された御経験があるので、 大きな期待を持って今日の質問に臨ませていただく。
 まず、独立行政法人についてその理念、 大枠を今一度確認させていただきたいと思う。 今回の日本の独立行政法人のいわばお手本になったのは英国のエージェンシー制と聞いている。 英国のエージェンシー制の創設に当たっては、大規模官僚組織の末端で硬直化し、 非効率を余儀なくされてきた執行組織に、一定の「権限」と「独立性」を与え、 また潜在的競争状態に置くことで、 国民のニーズによりきめ細やかに応えられるよう業務の質の向上と効率化を実現しようとした。
 この点については日本の独立行政法人も目指しているところは確かに同じであると理解しているが、 ただ、英国におけるエージェンシー制が導入されたときの背景を調べてみると、 まずエージェンシー制を導入する以前に英国では既に民営化できるものは民営化しており、 規制緩和できるところはかなりドラスティックな規制緩和を実行した後、 そのネクストステップとしてエージェンシー制が導入されたと聞いている。
 英国において、エージェンシー制が問題点を幾つか指摘されながらも機能し、 また成功している背景には、政策の策定機関と執行機関を完全に分離し、 改革できるところは完全に改革されているという前提があったからだと思われる。
 日本のように民営化へと漸次移行していく過程での独立行政法人化というのは、 果たして英国のように成功するのかという若干の危惧を抱いているが、 続大臣はどのような手法でこれを成功させようという考えなのか。

続 総務庁長官

 畑議員は長年マスコミ界に籍を置かれ、 大所高所からいろいろなことを見聞してこられたことと思う。 英国のエージェンシーの問題についても、まさにしかりである。
 ただ、日本と英国とは実は相当な行政上の違いがある。 したがって、英国流のエージェンシーが必ずしも私どもの日本になじむものではない。 そういう意味で、特殊法人の弊害を除去し、 行政と独立行政法人とが相携えて国民の期待に応えるような制度が今回の独立行政法人であると思う。

畑 議員

 もう一つの大きなテーマとして、 今回の中央省庁再編・改革の中で私が一番期待していることは、 「評価」という制度や考え方が導入されることである。 これは日本の行政に関してまさにエポックメイキングなことだと思う。
 ただその中にも心配される点がある。 一般には、各省庁に政策評価を担当する「課」を作って評価に当たり、 また複数の省庁が関係する政策や国策上非常に重要な政策については、 総務省に担当の局を設置して担当させると聞いているが、 自分の省庁のパフォーマンス評価を官僚が自分たちで行って、 果たして客観的で厳格な評価が実行されうるのか。 同じ役所の官僚が一方で政策を作って、 他方で評価するわけだから、「お手盛り評価」となる危険性は十分にある。 果たして本当に同僚や先輩が行った仕事を正当に評価できるのか。 できるとすれば、余程、厳密かつ具体的な評価基準やマニュアルを設定し、 裁量の介入する余地を極力少なくする必要があると思うがいかがか。

続 総務庁長官

 御指摘の政策評価というのは重要な課題である。 したがって、今民間有識者の知恵を借りて、評価基準のあり方、 評価の公表の仕方等々について研究している。 おそらく来年(2000年)の七月には答申が出され、 それを踏まえながら適切な対処をする。
 「自分の政策を自分で評価する、お手盛りであっては困る」との御指摘は、 私もまさにその通りだと思う。 このことについて衆議院の特別委員会でも同様の質問があり、 「今までの考え方は、まず省庁が自分で政策評価を行い総務省がそれをチェックする、 そういう経過をたどってしかる後に法律を作るというものであったが、 それではダメだ。 国民の批判に耐えられるような客観的な評価基準作りと同時並行して法律も作るということを前倒しで行う」と答弁した。 その準備を今進めているところである。

畑 議員

 私自身も質疑に立ったが、中央省庁等改革関連法案を前国会で審議した際、 行政評価法については速やかに検討着手をすると衆参両院で附帯決議がなされたが、 今、続大臣から行政評価法に関し前倒しで取り組むという言葉が伺え大変心強い。
 米国連邦政府には’93ウイリアム・ロス議員から提案され法制化されたGPRA法(Government Performance and Results Act)がある。 もちろん、この法律とそっくり同じものをわが国でも作るというわけにはいかないとは思うが、ある程度参考することは有効だと思う。
 今特別委員会にも先日公述人としておいでいただいたマッキンゼー・アンド・カンパニーの上山氏は、 地方自治体の職員や民間の方々更に私のような政治家などと、 行政評価や行政マネジメントについて「行政経営フォーラム」という勉強会を主催し、 非常に熱心に活動を行っている。このフォーラムでは、顔を合わせての会議もするが、 毎日何十通ものEメールがサイバースペース上を飛び交っている。 もしよろしかったら続大臣にも、 一度こうしたインターネット上での活動ぶりをのぞいていただけるとありがたいのだが、 膨大な情報量をベースに質の高い研究が進んでいる。
 このフォーラムの定例会で米国の国防省高官のレイ・オマーンという方からGPRA法についての話を伺ったことがあるが、 このGPRA法は、各省・各部局は自らの存在の目的、 あるいは個々の施策の目的が国民にとってどういう意味があるのかを示し、 また同時にどんな成果を達成しようとしているのかを数値目標の形で示した 「戦略計画」をまず立て、それに続いて「業績計画」(Performance Plan)、 「業績報告」(Performance Report)を設定しなければならない、 ということから定めている。行政サービスを受ける国民を「顧客」と見て、 民間企業の経営ノウハウを最大限行政に導入する仕掛けを実現している。  さて、日本でこれから策定される「行政評価法」はGPRA法と比べどのようなものになるのかなという思いでレイ・オマーン氏の話を聞いていたが、 先ほど英国のエージェンシーについても日本の独立行政法人とは違うという話が大臣からあったが、 このGPRA法とこれから日本で作っていく行政評価法とを比較して、 どのような同異があるのか。

持永和見 総務政務次官

 米国ではGPRA法で戦略計画や業績計画を立てて、 民間企業の経営ノウハウを最大限に活用しながら実績評価を行っている、 ということは御指摘のとおりである。
 我が国の今回の政策評価だが、 行政評価法という法律でこの問題の全政府的な枠組みを設定していくことも大変大事ではあるが、 まずそのためには検討作業を十分していかなくてはいけないと思う。
 各分野においてそれぞれの特徴なり政策手法があるので、 政策評価の類型にもいろいろな形があろうかと思う。 GPRA法では実績と評価という手法をとっているが、 その他にもコストベネフィットを中心としたプロジェクト評価、 あるいは政策評価というプログラム評価等々いろいろな類型があるかと思う。
 総務庁において研究会を設けて、 来年の夏ぐらいを目途に鋭意作業を行っているところである。 畑議員御指摘の米国のGPRAも有力な参考の一つであり手がかりであるので、 それも勉強しながら作業をできるだけ早く進めていきたいと思っている。

畑 議員

 持永政務次官から、 様々な類型があるので細かく検討しているという答弁を頂いたが、 これは非常に大切なポイントであると思う。一つだけマニュアルを作って、 とにかくそれに従って評価をし、 結果も評価表に書き込めばそれで終わりというように、 評価することそのものが目的化されてしまうことが一番怖い。戦略評価、 コストパフォーマンス的評価、国民のニーズにどれだけかなっていたかという顧客満足度的な評価等々、 細やかな類型を作り、適材適所で評価が行われることが最も肝要であると思う。 もう既にそれに取り組まれているということなので安心したと同時に、 大いに期待している。
 日本でも準備が進んでいる行政評価法であるが、 米国ではGPRA法が機能するための非常に大きな支えとなっているのは、 通称GAOと言われる会計検査院である。 この会計検査院が各行政省庁の効率的な経営の推進状況をかなり厳しくチェックしているので、その存在価値は非常に大きい。
 先ほどのオマーン氏の講演で伺った話だが、テーブル・オブ・レビューイング (Table of Reviewing)といった何項目もあるチェックリストをきめ細かく使って、 各項目における各行政庁の対応状況を記入し、 最終的に100点満点で得点づけを行いそれを公表している。
 チェック機能がないと、ただ評価をしておしまいということになりかねない。 このように大規模で厳格なチェック体制を整備するために、 わが国でも日本版“GAO”の設置が必要だと思うがいかがか。

続 総務庁長官

 米国はご承知のように大統領制であり、 会計検査院は大統領制が十全の機能を果たすための制度であると理解している。
 日本でも会計検査院的な機関を設置し、 国民の眼で厳しくチェックすべきであるという議論があることも承知はしているが、 今回の省庁再編では、まず各省庁で政策評価あるいは業務評価をきちんと行い、 そして総務庁が最終的にそれをチェックするという仕組みを構築するものである。 しかしながら、 税金をいかに効率的に使うのかということは最大の課題であると認識しているので、 畑議員の発言を参考にしながら対応させていただきたいと思う。

畑 議員

 大統領制である米国の制度をそのまま日本に持ってくるというのは、 英国の制度を持ってくる以上に難しいものがあるのはある程度理解できる。現に以前、 党派を超えて若手議員の間から日本にもGAOを設置すべしとの意見が沸き起こったときにも、 そのことが非常に大きな問題になった。
 実は米国でも、 行政改革の波というのは国政レベルからではなく地方自治体から起きている。 クリントン、ゴアが行ったNational Performance Review をはじめとする連邦政府の行政改革は、自治体での改革事例が参考になっている。 自治体レベルでの様々な実験やノウハウが、連邦レベルに集大成されて、 GPRA法のような法律となり、全米各地に浸透した。
 また英国でもサッチャー首相が就任直後に「強制競争入札制度」を導入した。 これは自治体の仕事のうち民間企業でもできる業務については、 例外なく民間企業と自治体内部の組織の両方にオープンな入札をかけなくてはならないという制度であり、 この結果、自治体の水道業務をフランスの民間企業に移管することになったり、 ある町の都市計画に関する事業が隣町の都市計画部門に落札されそうになったりといった競争が発生した。
 これは大変なショック療法だったわけだが、 わが国としても日本なりのエポックメイキングな措置を是非断行すべきだと考える。 「強制入札制度」に対する御所見とともに、 自治体での御経験を踏まえての大臣なりの改革案について伺いたい。

続 総務庁長官

 英国の強制入札制度はサッチャー時代の話であると思うが、 確かに傾聴すべきテーマではある。 しかし、米国の大統領制のもとの会計検査院や英国のエージェンシーの問題等々、 わが国と他国では行政のシステムの違いがあるので、 米国あるいは英国で通用している制度が直ちに日本の制度になじむとは限らない。
 しかしながら、この入札制度は全世界的な課題であり、いかに透明性を高めて、 効率的で画一的な制度を構築するかということは、 行政の分野における永遠のテーマである。地方団体においても研究をし、 それなりの成果を収めていると思う。いずれにせよ、この課題に対して、市民の皆様、 国民の皆様の期待に応えるような制度を構築すべきであるので、 その意味では英国の強制入札制度も参考にしたいと思っている。

畑 議員

 是非、各国に先んじたオープンで透明性の高い「入札制度」を実施していただきたい。
 最後の質問になるが、サッチャー首相の後に続いたメージャー首相も、 基本的な行政サービス業務について単に評価をするだけではなく、 通信簿のような形で得点づけをして公表するという仕組みを導入した。 これによって、通常ならば競争原理が働かないはずの行政活動の中にも、 擬似的な競争原理が働くことになった。
 先ほど大臣も言われたと思うが、 評価した結果を公表する方法にはかなり工夫を凝らす必要があると思う。 ただ通信簿的に優劣を比較して尻をたたくというような方法は、 日本の文化に必ずしもなじむかどうかいささか疑問だが、 この点について大臣のお考えを伺いたい。

続 総務庁長官

 この問題について、民間の有識者の知恵を借りて議論しているところである。 いずれにせよ、通信簿的な評価が国民の目に触れ、批判を仰ぐような制度、 手法が作れればよいと思っている。これは是非実行しなければならないテーマである。
 行政、特殊法人、独立行政法人のいずれにせよ、 その目的がきちんと果たされているのか、 効率的に国民の期待に応えているのかどうかを公表するのは当然のことである。 したがって、一番いい方法で評価が行えるようなシステムを今考えているので、 期待していただきたい。

畑 議員

 先ほど少し触れさせていただいたが、「行政経営フォーラム」という会がある。 行政に携わっている者、シンクタンクに籍を置く者、私のような政治家、 学生などいろいろな人々が、本当に日本を良くしよう、 世界を良くしようという志だけで情報・意見交換を行っている会だが、 この会に是非一度、大臣に来ていただいてお話を賜れればと思う。
 法律が成立することは、あくまでも“はじめの一歩”であり、今後、 その法の精神が実際に機能し、効果を生むように、 よりよいシステムが構築されることを心から期待している。