質問テーマ
[わが国産業の効率性の向上及び競争力の強化]産業活力再生特別措置法案
質問のポイント
I. 新規事業創出
1.資金支援
今回の法案、資金面での支援は高く評価できる。 無利子融資や債務保証の対象を拡充し、 また要件を大幅に緩和することにより新興の企業をより幅広くサポートしてくれ、 特に創業支援ではこれからスタートアップする個人事業者から創業五年以内の企業まで「創業者」と定義して支援してくれる。
各支援内容の具体的な金額と、それに充てられる全体予算規模はどのくらいか。
2.税制
資金面の支援もさることながら、やはりベンチャー育成の要は税制。 特に「個人投資家への優遇税制」を切望する声は至るところで聞く。
(1)エンジェル税制の拡充
現在ベンチャーに投資して株式損失が発生した場合、翌期以降の三年間、 株式譲渡益との損失通算のみを認めている。
この点に関しては是非、所得との損失通算も認め、 ベンチャーへの個人投資を促進すべきと思う。 この要望はこれまでも繰り返し出されているが、 結局今回の法案にも盛り込まれなかった。 これは単なる年末への積み残しと思っていて良いのか、それとも更に前途は多難なのか。
(2)キャピタルゲイン課税の軽減
キャピタルゲイン課税について、米国では1978年に35%の最高税率を28%に下げ、 更に81年には28%から20%まで下げている。 ベンチャー企業への投資の促進に寄与してきた軽減措置であるわけだが、 このことについてわが国ではどのように考えているのか、 今後の見通しも含めて伺いたい。
(3)留保金課税の撤廃
ベンチャー企業の経営者から、 「寝食の時間さえ削りに削って仕事をしてやっと上がった利益を、 さて事業拡大に投資しようと思った瞬間、 『留保金』という名のもとに課税されて税務署にもって行かれる、 これでどうやって会社を大きくしろと言うのか」と、悲痛な訴えを受ける。
新規事業育成を掲げるのであれば、留保金課税は即時撤廃すべきと思うがいかがか。
3.日本版SBIRの拡充
生産性向上と雇用創出の両面で多大な効果を発揮するSBIR制度だが、 平成11年度のわが国の目標額は、わずか110億円。 片や米国は平成9年度の実績が既に約1400億円(11.8億ドル)で、 しかも83年からの累積だと一兆円を越え、日本の25倍に達している。
この様な話をすると必ず、米国でもSBIRが始まった当初は同じ程度の予算規模からスタートしたのだからと言う政府答弁が返ってくるが、 現在の日本はいかに速く彼らにキャッチアップするかを問題にしているわけだから、 ただでさえ累積額で25倍もの差がついてしまっていることを思えば、 米国を大幅に上回る年額予算を日本版SBIRに初年度から投入するのは当然ではないかと思うがいかがか。
II. 技術革新支援
グローバル化が進展する現在、 知的財産権の確定を日本国内のみで行っていては不充分ではないだろうか。
やはり国際的に認知され保護されて、 はじめて知的財産としての学問的%商品的価値を発揮すると思うが、 先日日本も承認したマドリッド条約のように商標だけでなく、 知的財産権全般が日本に居ながらにして世界的に承認されるようなシステムの一刻も早い構築が望まれるが、そのような構想は進んでいるのか。
質疑要旨
畑 議員 加速度的な速さでグローバル化%情報化が進展する昨今、 国際的な経済競争にサバイバルすべくわが国の産業再生をはかるとするならば、 そのための最も重要なポイントは、あのGE(ジェネラル%エレクトリック社) のジャック%ウェルチが言う通り、スピードとDecisiveness(決断力)である。
そうした意味で、 今回この法案の対応の速さは大いに評価されるべきところだと思う。 しかしながらそのように対応を急ぐ分、 積み残された部分も幾つかあったのではないかと思う。
特に私のように若い世代からすると、 ベンチャーなど新規事業の創出に関してもう一段、 二段の思いきった「決断」が頂きたかった。
確かに「選択と集中」をスローガンに掲げ、 生産性の低い部門から高い部門へ経営資源をシフトさせるようと、 事業再構築のため取られた様々な措置は、 過剰債務%過剰設備%過剰雇用という所謂「過剰三兄弟」の清算をかつての米国並にぐっと加速させるという意味で、 かなりの決断であったことと思う。
しかし真に産業再生を図るつもりならば、たとえスタート時は規模が小さくとも、 また当たりはずれが大きくとも、 自分は世の中をこうしたいという夢や志やそして独創的な発想を容易に形にできる環境整備を促進し、 「創業」や「起業」こそを後押しして、 現在の開業率と廃業率の逆転状態を少なくとも解消すべきではないか。
従来の発想から大きく飛躍して、 これまで様々な規制で封じ込められていた民間や個々人の知恵やエネルギーが解き放たれるという政策がいささか足りないから、 せっかくの産業再生法案がともすると「リストラ法案」 などという後ろ向きの汚名を着せられてしまうのではないかと思う。 そこで、今日は「新産業育成」「創業支援」とについて主に伺って行きたい。
新規事業創出の一番目の点として、資金の支援の話をまず伺いたい。
今回の法案において、資金面での支援は高く評価できる。 無利子融資や債務保証の対象を拡充し、 また要件を大幅に緩和することにより新興の企業をより幅広くサポートしてくれ、 特に創業支援ではこれからスタートアップする個人事業者から創業五年以内の企業まで「創業者」と定義して支援する。 そういう意味での支援の拡大は大変評価できるが、各支援内容の具体的な金額と、 それに充てられる全体予算規模はどのくらいになるのか。
創業者向けの信用保証制度、 無利子融資制度を本法案の中に盛り込ませているが、 特例保証制度についてはご承知のように20兆円の残枠を活用する。 具体的にその裏打ちとなる一般会計予算については、1兆円を前提に考えている。 信用保証協会には2000億円の補助金を既に出している。
もう一点の無利子融資制度は設備近代化資金貸付制度であるが、 今回創業者を対象に加え、償還期間を5年から7年に延ばした。 また貸付金額については4000万円を6000万円に引き上げるべく財政当局と検討しているところである。 設備近代化資金制度全体として約500億円の規模があるが、 我々の見込みではこのうちの200億円を貸付に回せるのではないかと見積もっている。
昨日加納議員から非常に効果があったという指摘がされたが、 さらに増額が必要というときには遅滞のない形で進めていただきたいと思う。
次に税制の話を伺いたいが、エンジェル税制の拡充、キャピタルゲイン課税の軽減、 留保金課税の撤廃という三項目を今回なぜ盛り込まなかったのか、 是非盛り込んでほしかったという思いがする。
先ほど渡辺議員のご質問に与謝野通産大臣は 「中小企業についてはやるべきことはすべてやっている」というお答えであったが、 これは、「やるべき努力はすべてやっているが、 なかなか結果がそう全部出るわけではない」と私は解釈させていただいたが、 是非なるべく早い時期に結果も出していただけるようお願いをしたい。
エンジェル税制の拡充については、株式譲渡益等との損失通算のみではなく、 所得との損益通算を是非認めていただきたい。 さきほど審議官(林洋和通産大臣官房審議官)より、 源泉分離課税の廃止とあわせて検討するという答弁があったが、 私はここで年末の税制改正に向けてエンジェル税制拡充についての通産大臣の力強い一言を是非いただきたいと思う。
私が先ほど渡辺議員に答弁したのは、 「こういうことをやらなくてはいけないと気が付いたことは今までできる限りやってきたつもりだが、 何か見落としている点はないかということをいつも念頭に置きながら中小企業政策を行っていきたい」ということで、 今まで行ってきたことが万全であるとは決して思ってはいない。
エンジェル税制は所得税制全体の中で考えなくてはならないことで、 所得税の体系の公平性が維持されるということが大事である。 もちろん私ども通産省としては、税制当局にエンジェル税制の拡充を要求するが、 税制の仕組みは複雑なのでその中で整合的に当てはまるような税制を目指していきたいと思っている。
エンジェル税制の拡充を一方で求めながら、 その一方で源泉分離課税の廃止はダメというようないいとこ取りはできないので、 大臣が言われるように一本化がいかに難しいか、 それに向けて通産省の方が表でも裏でもどれだけの努力をしているのかよく理解している上でのさらなるお願いであるが、 このように税体系の整合性をとるための苦労があるからエンジェル税制の拡充がなかなかうまくいかないということを、 もう少し公表した方がよいのではないか。 源泉分離課税の問題は一般の方々にはなかなか理解されていないところがあり、 突き上げはある意味で私どもも受けるので、 エンジェル税制拡充の戦略を年末に向けて考えていただきたいと思う。
税制の問題の二番目は、キャピタルゲイン課税の軽減についてであるが、 米国では1978年に35%の最高税率を28%に下げ、 更に81年には28%から20%まで下げている。 ベンチャー企業への投資の促進に寄与してきた軽減措置であるが、 このことについてはどのように考えているのか、今後の見通しも含めて伺いたい。
我が国は26%の申告分離課税が原則であるが、 譲渡代金の1.05%を徴収する源泉分離課税を選択することもできるようになっている。 また、公開前の企業に投資した場合、公開前3年以上保有した株式についていは、 その株式を公開1年以内に売却する際には源泉分離課税の選択は認められないが、 申告分離課税の対象となる譲渡益の2分の1相当額を非課税とするいわゆる創業者利得の特例がある。
先ほどのエンジェル税制と源泉分離というのが同様に問題になるわけだが、 この源泉分離の経過措置を見きわめつつ、 引き続きキャピタルゲイン課税についても適正な税率になるよう検討していきたいと思っている。
譲渡益課税の一本化にについて、 是非年末の税制改正に向けて頑張っていただきたいと思う。
3番目の税制の問題は、留保金課税の撤廃である。 これも俎上には上るがなかなか認められていない。
ベンチャー企業の経営者たちと話をすると、 「政府は新規事業を育成するとは言っているが、 自分たちが寝食の時間さえ削りに削って、 汗水たらして上げた利益を『留保金』という名のもとに課税して税務署にもって行ってしまう。 それは『留保』ではなく『投資』のためのお金なのだが、 これでどうやって事業拡張ができるのか」という悲痛な訴えをよく受ける。 新規事業育成を掲げるのであれば、 留保金課税は即時撤廃すべきであると思うがいかがか。
中小企業者の苦渋に満ちた御発言があるということだが、 留保金課税の制度自体は間接的に配当支出を誘引するという効果を持っている。 法人形態による税負担と個人形態による税負担の差を調整して、 税負担の公平を図る観点から昭和36年に設けられた措置である。
本制度のあり方については、中小企業庁としても昨年要望を出しており、 また今後についても中小企業の自己資本の充実という観点をも踏まえた検討がされていくと考えている。
昭和36年に設けられた措置ということだが、 私は37年生まれなのでいかに古い制度であるかということがよくわかる。 当時は「ベンチャー」という言葉もなく、 本当に家内工業的に経営していたところも多く、 そのような観点から考えれば確かに”留保#と言われても仕方がないことかもしれないが、 すでに時代は変わっているので是非即時撤廃をお願いしたい。
次に日本版SBIRの拡充について伺いたいと思う。
鴇田中小企業庁長官が言われたように、 日本版SBIRが創設されたというのは確かにエポックメーキングなことであると思う。 しかし、米国との彼我の差は非常に大きく、米国での1997年度の実績は約1400億円、 83年からの累積では1兆円を超えている。ところが日本は、 この制度ができた初年度である平成11年度の要求額は110億円である。 米国も制度ができた当初はこの位の額であったという答弁を何度か頂いたが、 米国にキャッチアップするために日本版SBIRを創設したのに、 何故初年度要求額が何年も前の米国の額と同じなのか。 米国はSBIRに今までの累積で1兆円もの予算を費やしているので、 米国にキャッチアップするためには米国以上の年額予算を日本版SBIRに初年度から投入してしかるべきではないか。
畑議員はSBIRに大変造詣が深くかつ多大な関心を抱いていただいて、 感謝申し上げたいと思う。
ご指摘の通り、米国のSBIRの制度は82年に法律ができ、 日本より約15年先行している。120億円の規模でスタートし、 15年かけて98年には約1400億円の規模にまで達している。
我々としても早急に米国にキャッチアップしようと努力しているが、 中小企業がある程度担えるような分野の研究開発予算は、 当然のことながら最初から潤沢にあるわけではない。
今後、各省庁の新規予算も含め、あるいは既存の予算も中小企業が使えるように、 分野、テーマを広げていくという過程を経ながら徐々に増額していくよう努力したいと思う。
今、鴇田長官から各省連携という話があったが、 この制度はほとんどの省庁にまたがって予算を出さなければならないものなので、 政治家のお立場から通産大臣の日本版SBIRに対する意欲のお言葉を是非一言いただきたい。
与謝野馨 通商産業大臣小さく産んで大きく育てるという方法もあるので、 是非期待していただきたいと思う。
畑 議員 是非大きく育てていただきたいと思う。
最後に技術革新支援について一言触れさせていただきたい。
今回、国の委託研究から派生する特許権などの帰属を受託者に認める、 所謂日本版バイ・ドール法が盛り込まれたが、これは非常に画期的で、 以前より私どもも要望を出し続けてきて、 ようやく実現がかなうということで期待している。 また、TLOの特許料の軽減も同時に盛り込まれたが、 いずれも研究開発の大切な成果である発明や発見を知的財産としてしっかりと規定することを支援することにより、 一層の研究開発意欲を掻き立て、 また実用化も促進され産業が活性化することを目的として取られた措置と思う。
このように国内の体制は着々と整ってきているが、グローバル化が進展する現在、 知的財産権の確定を日本国内のみで行っていては不充分ではないだろうか。 やはり国際的に認知され保護されて、 はじめて知的財産としての学問的%商品的価値を発揮すると思うが、 先日日本も承認したマドリッド条約のように商標だけでなく、 知的財産権全般が日本に居ながらにして世界的に承認されるようなシステムの一刻も早い構築が望まれるが、 そのような構想は進んでいるのか。
現在の国際的な特許制度は100年ほど前のパリ条約に基づいたものである。 パリ条約においては、特許制度そのもの及び運用は各国に委ねることになっており、 出願の制度や保護の要件等はそれぞれの国の法制度に拠っているため、 国ごとに違いが生じているのが実情である。
畑議員御指摘のとおり、現在はパリ条約締結時とは国際経済全体の環境が一変し、 グローバル化が進み、それに合わせて貿易面、 投資面では世界的なハーモナイゼーションが進んでいる。知的財産権、 特に特許制度をもう少し実態に即した制度に組み替えるべきではないかとの御指摘は、 私どももそのとおりであると思っている。
一つの成果として、1995年から始まっているWTOのTRIPSがあるが、 ここで制度のハーモナイゼーションが十分実現されているとは言い難いので、 これを一つのベースとして現実的な対応をすることによって、 制度面、運用面でせめて主要国間で共通のものにならないかと工夫をしている。
具体的に言うと制度面においては、アメリカには公開制度を採用していないが、 先発明主義を直ちに変えることができないのであれば、 せめて公開制度ぐらいは主要国間で共通のものにすべきである。 さらに対象の範囲についても、 バイオテクノロジーのような先端技術分野では各国によって若干の差があるので、 この点についてもハーモナイゼーションの必要がある。
運用面においては、今日の企業家は通常日本で特許を取る場合にはアメリカでもヨーロッパでも特許を取っている。 つまり各国が同じような制度を設けて、 一つのことを別個に時間をかけて審査し料金を取っている。 この点についてもう少し工夫の余地があるのではないかと思い、 欧米に積極的に声をかけて先行技術をサーチしたり、 あるいは特許性の審査について審査官同士が情報を交換し合ったり、 同じデータベースを使用することによって時間の短縮、経費の節減になるので、 これを是非実現させようと議論している最中である。
テストケースも昨年から始まっておりかなり良い成果が出ているので、 これを一つの励みとして国際的な場において、 特許制度のハーモナイゼーションの実現に向けて努力していきたいと思っている。
国際舞台で伊佐山長官がリードして進められているようなので、 是非頑張っていただきたいと思う。
2010年に日欧米の三極で相互認証ができるようになるという話を伺ったが、 いろいろ困難なこともあるとは思うが、是非促進し続けていただきたい。 それまでの間は、日本の国家戦略にとって重要と思われる特許については、 補助金を出すなどの手当てをして国が特許申請をサポートするということも考えていただきたい。