経済産業委員会(平成11年6月1日)

質問テーマ

[我が国のエネルギー政策・原子力政策]原子炉等規制法改正法案・参考人質疑

質問のポイント

  • 原子力発電を使用しないデメリットは何か。 原子力発電のメリット・デメリットをはかりにかけた上で、 我が国の今後のエネルギー政策上どのような原子力の比率配分が必要になってくるか。
  • 六ヶ所村の再処理工場の5度にもわたる計画の延期であるとか、 今回の中間貯蔵施設のような、 途中からの計画延期や変更は国民に不安感を与えてしまうが、 もう少し余裕をもった計画というのは立てられないものか。
  • 原子力のみならず、様々なプロジェクト全てについてリスクはつきものである。 よって、リスクマネジメントをすることはプロジェクトの基本である。 しかし日本の国民性としてリスクについては語らないという現実がある。 そうした日本ならではのメンタリティーの中で、 本当に国民に資する原子力のリスクマネジメントのあり方とは何か伺いたい。
  • 「原発施設がなぜ過疎地にあるのか、大都会にあってもいいのではないか」 という村上参考人(東海村村長)の御意見はもっともであり、 そういう形でコンセンサスを形成していかなければ、 「どんなに安全だと言っても説得力に欠ける」という指摘に返す言葉がない。 村上参考人にもう少し具体的な御要望があれば伺いたい。 また、「もんじゅ」等の事故が相次いだ際、 行政の長としてどのような説明をして地元住民に納得してもらったのか、 御苦労のほども含めて伺いたい。
  • 緊急事態への対策の実行性を高めるために、 国と地方自治体と事業者の三者が一堂に会して対策本部をつくる 「オフサイトセンター構想」 という考え方が原子力安全委員会の部会での報告書にも提示されているが、 この構想及び連携の強化の必要性について伺いたい。

<参考人>

  • 全国原子力発電所所在地市町村協議会副会長(茨城県東海村村長) 村上達也
  • 東京大学大学院工学系研究科教授  近藤駿介
  • 明治大学理工学部講師  市川富士夫

質疑要旨

畑 議員

 通常私どもが一般国民として原子力ということを見聞きするのは、 事故などが起きて報道されるような場合に限られてしまっている。 本日のこの委員会のように、エネルギー政策全般の中での原子力の位置づけ、 貢献度、必要性ということを伺う機会はなかなかない。
 まず近藤先生に伺いたいが、 原子力発電がなかったらどういう事態になってしまうのか。 原子力発電を使わないデメリットを指摘していただいて、原子力発電のメリット、 デメリットをはかりにかけた上で、 我が国の今後のエネルギー政策上どのような原子力の比率配分が必要になってくるのか、教えていただきたい。

近藤 参考人

 「原子力発電がなかったら」ということについては、 総合エネルギー調査会で報告書をとりまとめているので、ぜひ読んで頂きたいと思う。
 現在の日本のエネルギー供給構造について、 我々はベストミックスであると思っているので、 この構造の中で「もし仮に突然原子力がなくなったら」 ということを考えるのはやや非現実的であるが、 そういう仮定をすると様々な問題が考えられる。 まず、エネルギー資源の輸入依存度が増加するに違いない。 そうなると、日本のエネルギー供給システムはますます不安定になるかもしれない。 それから環境問題に関して言えば、もちろん太陽エネルギーを使えばいいのだが、 もし使わないとすれば炭酸ガスの放出量が増えて、 国際約束を果たせなくなるかもしれない。 逆に、太陽エネルギーを使って国際約束を果たそうとすれば、 エネルギー価格全般が上がって、 経済成長の観点で望ましくないことが起こるかもしれない。 エネルギー政策の目標、環境保全、 適切な経済成長などの観点で様々な齟齬を来たすことになる。
 では、「原子力がいかほどの割合であれば適切であるか」ということはなかなか難しい問題であるが、 様々な方々の努力の結果としての現状がある意味でベストな状態になっていると私は考えている。
 ただ2010年の国際約束を果たすということを考えると、 総合エネルギー調査会需給部会等でも検討されたように、 最大限の省エネルギーに努めるということは当然の前提であるが、 ある程度の原子力発電所を増設することが望まれる。

畑 議員

 原子力の発電の必要性を今非常に痛感しているが、 それを踏まえても素人として少し合点がいかないというか疑問に思うことは、 近藤先生のような専門家の方々が知恵を絞って計画を綿密に立てておられるはずなのに、 例えば六ヶ所村の再処理工場の5度にもわたる計画の延期であるとか、 今回の中間貯蔵施設を設置することについても、 原子力長期計画の中にその必要性というのは盛り込まれていたのに、 何故今になって制度整備をこの委員会で審議しなければいけないのか。
 最初から、「もしかすると延びてしまうかもしれない」 ということを見越して計画を立てた方がよいのではないか。 途中から計画が延びたり、 変更したりするとかえって国民に不安感を与えてしまうので、 もう少し余裕を持った計画を立てられないのかと思うが、如何か。

近藤 参考人

 ご指摘のとおり、政策の一貫性というのは大変美しい姿ではあるが、 政策というのは将来についての選択であり、 将来の選択には必ず我々が今確定し得ない問題が含まれる。 したがって、計画はむしろ変更されるために立てることがあるというのが計画論の教科書に書いてあることである。
 よって、30年間計画が一定するということはほとんどあり得ないことであり、 計画というものは本来そういう性質を持っているものであるということを正しく国民に伝えることが重要である。
 したがって、計画を変更した理由、どのような環境認識、 市場条件の変化が起こったかを説明し、変更の手続きを正しく行うことが重要である。 例えばオイルショックの時、 現在石油がこのような値段になるとは多分誰も予想していなかったので、 その時立てた計画というのは、 ありとあらゆるエネルギー技術を最大限開発しようというもので、 みんなエネルギー研究開発を行ったわけである。 しかし今日、むしろその結果としてと言うべきか、 これだけ大変廉価な石油価格を享受している。潮力発電も使おうと思っていたが、 使わなくてすんでいるという状況は喜ぶべきことである。
 しかし大事なことは、環境条件の変化によって政策変更が決定される過程において、 国民との対話を通じて理解してもらえるような意思決定がされることである。 政策決定のプロセスが透明であり、 国民に対して説明がきちんとされるということにむしろ重点を置いて、 計画が変わったからけしからぬというよりは、 計画を変えることに国民の賛同を得られるという環境をつくっていくことが政策当事者に対して要求されていることではないかと私は考えている。

畑 議員

 確かに結局は“アカウンタビリティー”という問題になってくると思う。 非常に貴重な御意見で、 これは私ども政治家の責任であるので努力をさらに一層重ねていきたいと思う。
 ただ、国民性というか民族的な文化の違いなのかもしれないが、 日本人はなかなか腹を割って話し合おうとしない。 とりわけ安全保障の問題については、その難しさを実感している。
 原子力のみならず、エネルギー政策全般、 様々なプロジェクトの全てについてリスクはつきものである。 よって、リスクマネジメントをすることはプロジェクトの基本である。 欧米型のいわゆるグローバルスタンダードのリスクマネジメントというのは、 発生する確率のプロバビリティー(Probability)と、 発生した場合の事態の影響度というシリアスネス(Seriousness)を掛け合わせて状況を分析、 判断するのだが、日本の場合は、 シリアスネスを語った途端にプロバビリティーが最大であるかのようにに目盛りが振り切れてしまい、 余りにもセンセーショナルに騒がれ、パニックさえ起きかねないということで、 想定されるリスクについて何も話さなくなってしまう。 例えば原子力発電の問題にしても、 様々な事態を想定した安全保障のシミュレーションさえなかなか行うことができないというのが実態だが、 私はそういう状況が一番危険であると思っている。
 そうしたある意味で日本ならではのメンタリテイーの中で、 本当に国民に資する原子力のリスクマネジメントのあり方について御所見があれば、 ぜひ近藤先生と市川先生に伺いたい。

近藤 参考人

 「リスクマネジメント」という言葉は、 横文字であることが証明しているように、 なかかな国民の皆様の日常の会話に出てこない言葉である。 しかし最近、規制緩和の中でそのような言葉が徐々にマスコミ等にも登場するようになり、 また「自己責任」という言葉も使われるようになってきた。
 責任を自らとるような社会環境が整備されてくると、 恐らくそれぞれ各自でリスクを勘定して行動するということになるのではないかと思っている。 私はそのような社会環境を踏まえつつ、原子力の問題について先ほど、 全てのエネルギー技術にはある種健康と環境に影響を与えるので、 そのようなデータを開示しつつエネルギー選択について議論を深めていくのがよいのではないかということを述べたのである。
 また学会も積極的にそうした情報を提供していくべきである。 私はたまたまインターナショナルなリスクマネジメントの学会も行っており、 国際会議を来年大阪で開催し、リスクマネジメントというものが世の中にあって、 日常生活に非常に深く関係しているということを伝えたいと思っている。 原子力についても当然のことながらリスクマネジメントという考え方を大いに使っていただくよう宣伝をしているところである。

市川 参考人

 私は基本的に、 原子力あるいは原子力施設者側に対する国民の不信感が基礎にあって、 対話やお互いの意思疎通が難しくなるというような問題が生じてきているのではないかと思う。

畑 議員

 市川先生の今のお話を伺うと多くは語られなかったが、信頼醸成というか、 もっとお互いきちんと説明をし合ったり質問をし合ったりする状況をつくっていかなければいけないということを実感した。
 次は村上参考人にぜひ伺いたいが、 先日東海村の第二発電所を経済・産業委員会の視察で訪ねたが、 大変明るく清潔な街並みに、視察員一同、恐らく一様に感銘を受けたことと思う。 ただ、今日非常に率直な御意見を伺って、 いろいろな御苦労がある中でこうした街づくりが行われたことがわかり、 改めてわが国のエネルギー政策を皆様方が支えて下さっていることに心より感謝するとともに、 私ども政治家は村上参考人の本人の主張に応えうるような政策を行っていかねばならないことを痛感した。
 私は国会議員になる以前パリに住んでいたことがあるが、 パリからハイウェーに乗って15分も走ると、 確かセーヌ川沿いに非常に大きな原子力発電所が見えて来たと記憶している。 「あぁ、こういうところに原子力発電所はあってもいいものなのだな」と、 正直な感想としてそう思い、ある意味で認識を新たにした。 そしてこれが原子力発電所のある意味で正しいあり方であるのだとすれば、 翻って自分の国がなぜこうではないのかとその理由を考えていた。
 「原発施設がなぜ過疎地にあるのか、大都会にあってもいいのではないか」 という村上参考人からの話を伺って、私自身も確かにその通りだと感じ、 そういう形でコンセンサスを形成していかなければ、 「どんなに安全だと言っていても説得力に欠ける」という指摘には返す言葉がない。
 すでにお話を頂いているが、なおもう一声、 そうした努力に対してより具体的な御要望があればお伺いしたい。 また、そういう厳しい状況の中でも、例えば「もんじゅ」等の事故が相次いだときに、 恐らく地元の住民からいろいろな意見が出たことと思うが、そういうときに、 行政の長という地方自治をまとめる責任者として、 どのような説明を地元住民に行い納得してもらったのか、 御苦労のほども含めて伺いたい。

村上 参考人

 まず最初の都会地でも原子力発電所はできるのではないかという質問だが、 東海村には33,700人の住民がいて、住宅地に極めて隣接したところに発電所がある。 これは基本的には日本の現在の原子力発電所の立地方針とは合致していないはずである。 さらに東海村は、ひたちなか市、水戸市、 日立市と茨城県で一番人口が集中している地域にあり、 このようなところに原子力発電所があるということは、 日本の中では特異な立地であると思われる。
 しかしながら、政府も事業者も非常に臆病で、 都会地に原子力発電所を作るという発想はなかなか出てこない。 それは、人口が多いところに作ればその多くの住民を相手にしなければならなくなるからであると思われるが、非常にその点では不満に思っている。
 まして中間貯蔵施設は今まで30数年間、 サイト内にあれだけ貯蔵してきても何ら事故も起きていないし、 もちろん臨界に達するということは考えられない。 理論的には有り得るかもしれないが、現実には起こっていないので、 やはり政府や事業者の考え方というのは、 どうも逃げているのではないかという気がしてならない。 国民的合意形成とかコンセンサスが必要というならば、 今回はそれに向けて一歩進んでいただきたいというのが私の考えである。
 次に事故時についての件であるが、平成9年3月に動燃における事故があり、 現在旧動燃の方が再処理工場の再開に向けて大変努力されている。 私はその努力を評価している。
 住民の生命と生活を守るというのが私ども自治体の立場である。 したがって、原子力事業者がいかに懸命に、今まで自分たちが起こした事故、 それから不信感を起こしたことに対して反省し努力しているかという姿勢を見せていただき、 それをもって私は住民と話をし、行政を行いたい。 根本に反省と努力がなければとても前には進めないという気がする。

畑 議員

 非常に貴重な御意見とまた御叱正をいただき、ありがとうございました。 今後の原子力政策に十分に活かしていきたいと思う。
 参考人の各先生に質問に答えていただいたが、 結局はよくお互いに連絡を取り合い説明をし合って、 信頼関係を醸成していくということに尽きると思う。さて、そういう中で、 もしもの事態への対策の実効性を高めるために考えられていることだが、 オフサイトセンター構想という考え方が原子力安全委員会の原子力発電所等周辺防災対策専門部会の報告書に先日出されていた。 国と地方自治体と事業者の三者がそれぞれに一堂に会して対策本部をつくるというものである。
 緊急事態になったときだけではなく、 通常のときから緊密に連携をとれる体制を強化してゆかなければならないということを、 参考人の先生方の話を伺って痛感したが、このオフサイトセンター構想、 および連携体制の強化について更にプラスアルファの御所見があればぜひ伺いたい。

村上 参考人

 私どもの「全国原子力発電所所在市町村協議会」、 通称「全原協」は原子力防災については国の一元的責任で行ってほしいとかねがね要求している。 さらに「原子力災害特別措置法」の制定も要求している。 原子力の事故が起きたとなるととても地方自治体の手におえるものではないという考えが原点にある。
 「石油コンビナート等災害防止法」というのがあるが、 それに類似して「原子力災害特別措置法」をぜひ制定していただきたい。 原子力安全委員会でオフサイトセンターを検討していることには大変心強く思っているので、 ぜひ実現させていただきたくお願いしたい。

近藤 参考人

 オフサイトセンターについては、 原子力安全委員会原子力防災対策専門部会で地方自治体の方から防災対策の強化について長らく様々な御提言をいただいたものである。
 私はその委員でもあるので議論に参加した立場で申し上げるが、 災害対策基本法によると、 防災対策は当該地域の様々な情勢に最も精通しているあるいは行政権限を持っている地方自治体が所管すべしとなっている。 そういう観点と高度の専門的判断を必要とするところとの調和をどう図るかということで様々な議論があった。 そうした事態が発生した場合、国、地方自治体、専門家が集まる場をまず考えること、 権限争議は置いておいて、 そういう場で情報交換を行って情報を共有して危機管理に当たるということが非常に重要ではないか、 という発想からこのオフサイトセンター構想が出てきて、 報告書の中に取り込まれたものである。
 それが地方自治体の方々が常々希望されていることと全て合致しているとは思わないが、 国も前へ出て行けば地方自治体の方もその意義を評価していただけると思うので、 そういう意味で私は大いなる一歩であると考えている。

市川 参考人

 オフサイトセンターの具体的な構想については、 どのよう運営されていくのかということが非常に重要なのではないかと思う。
 施設者側からあるいは国の側からの情報の公開がどの程度住民側に伝えられるのかという問題がある。 また、住民側の対応は科学的理論だけに基づいて決まるものではなく、 それぞれの生活環境からいろいろな意見がでてくるので、 そのことに十分配慮した運営がなされなければ押し付けになりかねないということを懸念している。