質問テーマ
[自己責任原則と市場原理に基づいた自由で活力ある経済社会の実現]独占禁止法改正法案
質問のポイント
- 近年、トップ企業同士の合併や連携が数多く行われ、 産業界の大再編があらゆる業界で一気に断行されているが、このような中、 公正取引委員会は合併審査にどのような体制で当たっているか。
- 独禁行政業務はその質・量ともに厳しさを増し、 国際競争を生き残る為には一刻一秒を争う迅速な処理が求められる。 今こそ公正取引委員会の大幅な人員増強が急務であると思う。 現在の公正取引委員会の人員配置及び業務内容・業務体制はどのようになっているか。
- 被害者自身が取引妨害行為の差し止めを直接裁判所に求められる「私訴制度」は、 規制緩和で多発する紛争をより迅速に処理する上で非常に有効な手段で、 早期の導入が望ましいと思うが、公正取引委員会の見解はいかがか。
- 民民規制は、戦後復興期から経済成長を続けている発展途上の間は、 業界を挙げて追いつき追い越せという意味で一定の役割を果たしたと思うが、 今となっては既得権の温床そのものものであり、 競争を阻害して高コストを消費者に強いるなど、 全般的にマイナスの側面が目立っているのではないか。
- さまざまな種類、さまざまな業種で民民規制が行われており、これに対して法的措置が執られることも年間20件を下回ることがないと伺っているが、公正取引委員会がこれまでに行ってきた取り組みの状況と、今後目指すべき民民規制への対処のあり方について伺いたい。
- 総理の諮問機関である経済審議会の民民規制作業部会がまとめた報告書の中に、 官民双方から独立して、かつ法によって定められた第三者監視機関である 「国内版OTO(市場開放問題苦情処理体制)」の設置が提唱されているが、 こうした官民双方から独立した機関が設置された場合、 公正取引委員会はこれに対しどのような協力体制をとるのか。
質疑要旨
畑 議員 わが国の経済再生をはかるに当たって、 今、抜本的な構造改革こそが喫緊の課題であり、これまでの護送船団方式から、 自己責任原則と市場原理に基づいた自由で活力ある社会を実現し、 一日も早く国際競争に打ち勝つことのできる体制を整えなくてはならないと日ごろより認識している。
そうした視点から見た場合、今法案の「事業者間の公正かつ自由な競争を制限し、 消費者利益を損なう恐れのある独禁法適用除外制度を厳正に見直そう」という趣旨は、 国際競争・協調時代を迎えたわが国が目指すあるべき姿に誠に合致したものといえ、 大いに賛同するものである。
昨日、トヨタとGMの共同開発という非常に大きな話が舞い込んできたが、昨今、 国内国外を問わずにトップ企業同士の合併や連携の話題が毎日のごとく報じられている。 昨年の通常国会で、 合併の基準緩和などを盛り込んで改正された独禁法も今年1月1日から施行され、 先日は日本石油と三菱石油の大型合併も発表された。 この合併によって生まれる新会社の販売シェアは当然業界1位で全体の25%に達する。 しかしそれ以前からビッグな合併は目白押しで、 例えばおととし10月の三井東圧と三井石油化学、 昨年10月の日本セメントと秩父小野田、 昨年12月のKDDと日本高速通信など枚挙にいとまが無く、 産業界の大再編があらゆる業界で一気に断行されていることがひしひしと感じられる。
このように社会状況が激変を迎えている中、 公正取引委員会はこうした合併審査にどのような体制で当たっているのか。
ご指摘のとおり、 今、大型の合併とか戦略的な提携と言われるものが大変増加しており、 昨年の独禁法改正においても、経済のグローバル化に伴い、 すべての会社の合併について義務付けていた届け出を、 総資産100億円超の企業が総資産10億円超の企業を取得するような合併に限定する一方、 国内の企業の合併だけではなく、 外国企業同士の合併でも我が国市場に影響を及ぼすものも規制の対象にするようにしたので、 合併の審査の業務量が非常に増大してきている。
審査体制であるが、公正取引委員会事務総局の下に経済取引局があり、 その中に企業総合課という課がある。現在の定員は19名であり、 その19人で石油業界から自動車業界まであらゆる業種について取り組んでいる。
ご指摘のとおり、量的な増加だけではなく質的にも大変難しい事案が増加しており、 昨年成立した独禁法改正が今年1月1日より施行されるに伴い、 事業者にとってもできるだけ判断の予測性、 可能性が高まるように合併に関するガイドラインを策定した。 このガイドラインに照らして、市場の実態や市場の変化を十分勘案しながら、 合併等の審査の効率的、機動的な処理に努めているところである。
19人という人数を聞いて、 恐らく多くの方々がかなり驚いているのではないかと思う。 今、各業界で一斉に大きな合併、連携というのが進んでいる中で、 よくその人数で多くの案件を処理されていると、 その健闘ぶりには心から敬意を表するが、 それにしても人数が少な過ぎるのではないか。
ちなみにアメリカで日本の公正取引委員会と同様の仕事をしている、 米国司法省の反トラスト局と連邦取引委員会(FTC)の人員は約1800人である。 これに比して、日本の公取委は550人余りと、人数だけ比べても3分の1以下である。
近年、独禁行政業務はその質・量ともに一段と厳しくなっている上、 国際競争に生き残る為には一刻一秒を争う迅速な処理が何より求められる。 今こそ公取委の人員増強、それも大幅な増員が急務ではないかと思う。
現在の公取委全体の人数と人員配置および業務内容・業務体制をご報告頂くと共に、 審査や調査に当たっている現場からの率直な意見をお聞かせ願いたい。
規制緩和の推進と競争政策の積極的な展開ということは一体的なものであると考えており、 人員については、平成11年度予算で審査部門を中心に9人の新規増員が認められ、 事務総局全体では558人となった。
これを部門別に見ると、官房が75人、経済取引局が144人であるが、 この経済取引局のうち、 下請法や景品表示法というような消費者保護であるとか下請事業者の保護を行っている部門である取引部の人員が84人である。 それから、違反事件の審査に当たっている審査局が199人、地方事務所に135人、 このような陣容である。
企業結合関係は19人ということだが、 アメリカでは400人ぐらいの規模で当たっているということで、 少し揶揄的な批評があるというのも事実ではないかと思っている。
全体を見ても、非常に少ない人数の中でやりくりしているという感が否めない。 平成8年、9年、10年の審査件数と処理件数の統計を見ても、 審査件数が処理件数をかなり上回っている。要するに、 毎年毎年処理できずに繰り越されていく案件が積み重なっていくわけであり、 業務量が公取委の限界を明らかに超えていることを痛感する。
こうした傾向は今後規制緩和が進み、 本格的な自由競争が進展すればするほど強まるものと思われる。 ということは、いくら公取委を増強したとしても、 やはり公取委だけではさばけないものが出てくるのではないか。
そこで現在導入が検討されている「私訴制度」について伺いたい。 被害者自身が取引妨害行為の差し止めを直接裁判所に求められる「私訴制度」は、 規制緩和で多発する紛争をより迅速に処理する上で非常に有効な手段で、 早期の導入が望ましいと思うのだが、公取委の見解はいかがか。 また、これまで検討されていると伺っているが、 今回も導入を見送ったという経緯について伺いたい。
私訴制度の導入は、通産省の懇談会と公取委の研究会において、 採用するという方向で進んでいる。
ただ、今の独禁法というのは公的な秩序を維持する法律であり、 そこへ私的な要素を加味するというのはいかがなものかということや、 私訴を認めるにしても訴権者をどうするかという極めて細かい問題が山積みされている。
一方、独禁法には私人の損害賠償請求を認める制度があるが、 この損害賠償の請求制度と私訴制度は裏腹のような関係にある。 ところが、損害賠償請求事件というのは、法律ができてから50年以上経つが、 また10件前後しか事例がないと言われている。
このようなことから公取委の研究会において、私訴制度を導入するにしても、 この損害賠償請求制度をより活発化するにはどうしたらいいかということを検討しており、 希望としては平成11年度中に何とか結論を出して、 それから法律を立案して国会に提出したいと考えている。
先日の特許法の法案審査の際にも、 司法体制の整備が追いついていないのではないかという指摘を私の方からさせていただいたが、 方向性としては私訴制度を導入するということなので、 司法の整備を進めなくてはいけないということをよく認識しながらぜひ応援をさせていただきたい。
「公取委の人員増強」と「私訴制度の導入」という2点について要望の意味を込めて伺ったが、 それらを実現し、さらに是非全力で取り組んで頂きたいのが、 「民民規制への対処」である。
民民規制は、戦後復興期から経済成長を続けている発展途上の間は、 業界を挙げて追いつき追い越せと言う意味で一定の役割を果たしてきたとは思うが、 今となっては既得権の温床そのものであり、 競争を阻害し高コストを消費者に強いるなど、 全般的にマイナスの側面が目立っているのではないか。 この問題については政府の第二次規制緩和推進3ヶ年計画にも、 公取委による監視の強化という項目が盛り込まれているが、 まず代表的な民民規制の事例を幾つかご紹介願いたい。
規制緩和推進委員会等では、 民民規制について公取としてもしっかり取り締まれということを言っている。 民民規制を類型化すると、 一つは、公的規制を背景として競争制限行為が行われるような事例で、 例えば、専門的職業団体については法律上会則を定めることができ、 基準となる報酬を決められることになっているが、 実際にはその団体で構成員が収受する額を決め、それを制限している。
二つ目は、規制の緩和に伴って競争制限行為が行われていたような事例であって、 例えばタクシー運賃の規制緩和後に、 ゾーン運賃制によって値下げをした一部の組合員に対し、 共通乗車券の手数料を引き上げたり、 駅構内のタクシー乗り場の使用をさせないようにしたというような事例である。
三つ目としては、検査機関等の認定を利用して競争者を排除するような事例であって、 医療用食品についてこのような事例が行われた。
四つ目は、行政指導を背景にして行うような事例。
五つ目は、事業者団体が行う自主基準とかあるいは認定制度等を使いながら新規参入を妨害するというような事例。
以上のような事例があろうかと思われる。
さまざまな種類、さまざまな業種で民民規制が行われてしまっているが、 これに対する法的措置が執られることは、20件を下回ることがないと伺っているが、 今挙げられた事例も含め、 公取委がこれまでに行ってきた取り組みの状況と今後目指すべき民民規制への対処のあり方について伺いたい。
根來 公取委員長 業務の推進上、民民規制も一つの問題であるということで、目を光らせている。 しかし、民間の方々が必ずしも独禁法違反ということを念頭に置いて規制しているわけではない部分が大いにある。 これは独禁法マインドが欠けるというところがあり、 今までの過去の経過から民民規制を行っているというところがあるので、 公取委としては、 民民規制は独禁法違反の恐れがあるということをよく広報する必要があると思う。
一方、行政指導を背景とした民民規制というものもあるので、 そういうものにも十分配慮しながら厳正な対処をしたいと思っている。 これは政府全体としても、 規制緩和推進三ヵ年計画の改定計画にも「民民規制の対処」ということをうたっているので、 その方針に従って行っていくつもりである。
確かに、悪いことをしているという感覚が全くなしに、 いわゆる日本のムラ社会的な考え方の中で当然の慣行ではないかということで一線を超えかけてしまうということはたくさんあると思う。 ぜひ広報、啓蒙活動、そして恐らくこうした認識を深める、 自覚させるような幼いころからの教育のあり方というのが必要ではないかと思う。
公取委から民民規制について対処していただくのはもちろんであるが、 総理の諮問機関である経済審議会の民民規制作業部会がまとめた報告書の中に、 官民双方から独立して、かつ法によって定められた第三者監視機関である、 「国内版OTO(市場開放問題苦情処理体制)」の設置が提唱されているが、 こうした官民双方から独立した機関が設置された場合、 公取委としてはこれに対しどのような協力体制をとるのか。
当然のことながら、公取委としては、 そうした機関ができたときには密接な連携をとり、 齟齬のないようにやっていきたいと思っている。
なおつけ加えて申し上げると、先ほどご指摘のあったように、 公取は職員の人員が極めて少ない役所である。 これからは民間の方々の協力を得るということも大変必要なことであり、 今までも消費者モニターとか下請関係の協力員など、 そういう民間の方々の協力を得ているところなので、 国内版OTOのような機関ができたら、なお密接に連携してやっていきたいと思っている。