経済産業委員会(平成11年4月15日)

質問テーマ

[デジタルコンテンツの保護]不正競争防止法改正法案

質問のポイント

  • 本来、知的財産権侵害であるコピープロテクト除去という問題を取り締まるのに、 なぜ不正競争防止法の改正で当たらねばならないのか。
  • 企業の利益を著しく損ねる機器やプログラムの提供を不正競争と見なし罰するとなると、 米国の裁判所の判断とは見解を異にすることとなり、 またエミュレーターのような画期的な技術の開発自体を阻害しかねないのではないかと危惧されるがいかがか。
  • デジタル社会に特化した大きな法律の枠組み、 基本法のようなものを新たに設定することが必要ではないか。
  • 被害者が差止請求をしても、仮処分が認められるまでに、 不正業者は自分たちの商品を相当数売りさばいて、 いわゆる売り逃げをしてしまうのではないか。
  • 民事訴訟では、不正行為を繰り返したところで罪が重くなるということはない。 民事救済で、果たして被害者を十分に救済できるのか。
  • デジタルコンテンツの流通形態は、今後ノンパッケージ型に移行し、 それが主流となっていくであろうが、そこで問題となるのが不正コピーである。 その防止方法で、「電子透かし」という手法が注目されているが、 この可能性・将来性についてどのように評価しているか。
  • 日本のベンチャー企業である、エム研では、 インターネット上を自動的に巡回し電子透かしのチェックを行うプログラムを開発し、 電子透かしを埋め込んだコンテンツが不正利用されていないかどうかを随時チェックするサービスを提供していると聞く。 このように世界的にも高い技術力を持ったベンチャー企業たちが、 貸し渋り等でその成長や発展を阻害されないよう通産省としてもしっかりバックアップを行って欲しい。
  • その放送サービスのあり方が、はたして著作権法上の「放送」 に当たるかどうかが争点となっている「スターデジオ」 をめぐる訴訟は依然膠着状態のままで、 デジタルコンテンツのオンライン流通が定着するにはまだまだ紆余曲折が予想される。 こうした問題の解決に向け通産省はどのような取り組みを行っているのか。

質疑要旨

畑 議員

 今回、不正競争防止法を改正することにより、 デジタルコンテンツのコピー管理技術やアクセス管理技術を無効にすることを目的とする機器やプログラムの提供行為について、 民事上の差し止め請求や損害賠償請求が行えるようになることは非常に朗報である。
 また法を執行する上で、 不正競争防止法という法律が実務的に大変強力でかつ利用価値の高いものであることも法律家の方々から聞いているので、 その実効性には大いに期待させて頂くが、今日はそれを前提に、 なお残る幾つかの疑問と不安について伺って参りたい。
 まず今回、コピープロテクト除去という問題を取り締まるのに、 なぜ不正競争防止法の改正で当たらなければならなかったのかという点について伺いたい。 この法律はそもそもの目的が、その第一条にあるように 「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の適確な実施を確保するため」 に作られたものである。 ところが、コピープロテクト解除は明らかに知的財産権の侵害の問題である。 もともと競争関係にある者が、 不正な行為を行ってその競争を有利にしようとすることを禁止する不正競争防止法によって、 プロテクト外しのハードやソフトといった違法な物件を提供・販売する行為を取り締まるというのは、 いささか論理的に飛躍があるように思われるが、 今回何故このような措置を取ったのか。

江崎格 産業政策局長

 今回の改正案は、 コピーの管理技術やアクセス管理技術を無効化する機器やプログラムの販売などを不正競争行為として位置づけて、 民事救済の対象とするものである。
 まず、今御指摘の著作権との関係であるが、 コンテンツを見たり聞いたりするといういわゆるアクセスは、 これだけならば著作権の侵害には当たらないと従来位置づけられている。 したがってアクセスだけをするような、 例えば不正の機器を作ってそれを販売するということは、 著作権の侵害の問題にはまずならないと思う。
 しかし、それらのコピーを作るということになると、 これはもちろん著作権の問題になる。 ただ、今回の改正ようにコピーの管理技術を無効化する機器を作ってそれを販売するという段階だと、 機器を売っているだけなので、 まだ特定の著作権が侵害されたということにはなっていない。 そうすると、侵害された著作権者が特定していないので、 著作権に基づく民事救済の対象にはできない。 しだかって、著作権法ではこの点では対応ができないということになると思う。
 一方、不正競争防止法は昭和9年に制定されて以来、 不正競争の防止ということで事業者の経営上の利益を保護するとともに、 これを通じて公正な競争秩序の維持を図るということを目的とした法律である。
 今回のコピーの管理技術やアクセスの管理技術というのは、 無断コピーや無断アクセスを防止するもので、 料金を支払ってきちんとコンテンツを提供してもらうという契約内容の実効性を確保するためにそうした技術が施されているのである。 こうした実態を踏まえると、 管理技術を無効化する機器やプログラムを提供する行為を公正な取引秩序を阻害する行為として不正競争防止法上の「不正競争行為」と位置付け、 これに民事上の救済を与えるということで、 通産省としてはこの不正競争防止法の法目的に合致していると思っている。
 御指摘のように、法目的に「事業者間の公正な競争」という文言は確かにあるが、 この不正競争防止法は従来から経済の実態あるいは取引の実態に照らして不断に見なおしをしてきている。 現に、営業秘密の不正な開示とかにせのブランドを使って商売するというような場合の従来の判例を見ると、 必ずしも当事者が直接競争関係にないというケースがある。 例えば、「シャネル」という名前で貸しおしぼりの商売をするとか、 「ディズニー」という名前のパチンコ店を開くというようなことは、 それぞれのブランドと直接競争関係にはないが、 こうしたケースも法律改正をして民事救済の対象にしてきた。 つまり、直接競争関係にない者の行為であっても、 公正な競争秩序の維持を害するというものは不正競争行為ということで、 事業者間の公正な競争というものを広く解釈するようになってきているということである。

畑 議員

 そういう論理展開によって今回不正競争防止法が適用されたという前提で伺いたいのが、 今米国で大論争になっているMP3の問題である。 MP3という新しい技術が生まれることによってコンテンツを提供しようとする企業が、 本来予定していた管理方法を無視され、 ユーザーが「MP3を使ってコンテンツを楽しむ」という予定外の行動をした為に、 より安価な方法でそのコンテンツを楽しむことが可能となり、 その結果として“企業の利益が著しく侵害された”という現象が、 今デジタルネットワークの進展の中、起きている。
 私としては、このMP3の問題とコピープロテクト外しとの間に大きな違いが見出せないので、 日本で米国のようなMP3の問題が起きた場合、 やはり不正競争防止法が適用されることになるのかと、推測するところである。
 しかしながら結局米国では、従来のCD市場を崩壊させる可能性さえあるとレコード業界上げて大騒ぎしたにもかかわらず、 このファイルを作るソフトもまたそれを機能させるハードも、 それ自体は違法では無いという裁判所の認定がなされた。 つまり新たな技術によって“企業の利益が著しく侵害されたにもかかわらず”、 違法なのはそうしたファイルを著作権者の承諾なく配布する行為だとされ、 あくまで著作権問題として措置されたのである。
 この問題に関しては現在もソニーが、 同社のプレイステーションを買うこと無くマックなどのパソコンでゲームソフトを楽しめることを可能にしたソフト(プレイステーション・エミュレーター) を販売している米国のソフト会社を相手取って差止め請求を行っているが、 既に差止め請求の仮処分が棄却されてしまった状況なので、 今後勝訴に持ち込むことは難しいという見方がされている。
 企業の利益を著しく損ねる機器やプログラムの提供を不正競争と見なし罰するとなると、 我が国ではこの米国の裁判所の判断とは見解を異にすることになるのか、 またエミュレーターのような画期的な技術の開発によってユーザーの利便性がより高まるということを阻害しかねないのではないかと危惧されるがいかがか。

広瀬勝貞 機械情報産業局長

 今回の不正競争防止法の改正は、 これはまさに先端的な技術分野に係る企業活動に関することであるので、 場合によってはその技術開発を阻害するようなことにもなりかねないという面もある。
 MP3という圧縮技術あるいはエミュレーターという特定のプラットホームで運用するソフトウェアを他のプラットホームでも運用できるようにするような技術など、 今後いろいろな新たな技術が開発される可能性が高い先端的な分野であると思う。
 従って通産省としては、 そういう先端分野の技術開発を阻害することがあってはならないということは十分に気をつけている。 今回の改正案でも、コピーを防止するためにコンテンツに信号をつけ、 その信号をコンテンツを再生する機械が読み取ってそれを無効化することや、 暗号化されたコンテンツを解読するような機器をつけることを禁止する、 ということに限定している。従って、MP3やエミュレーターの話というのは、 今回の規制の対象にはならないと考えている。
 また、その保護の対象となる技術の試験研究のための開発というようなことであれば、 それはこの法律の規制の対象にならないということも念のため規定し、 技術開発の阻害にならないように十分に配慮をしている。

畑 議員

 技術開発の阻害が起こらないように配慮していることは条文の中からも非常によく読み取れるが、 MP3のような問題は、ごく近い将来日本でも起こってくることである。 既存の法律の延長線上で物事を処理しようとすると、 状況が変化するたびにもぐらたたき的に法改正や解釈の変更を繰り返さねばならず、 常に法の体制としては後手後手に回ることになるのではないか。 特にサイバースペースは変化の速度も速く、 またエミュレーターのように一つの新技術の出現で世の中が一変してしまう、 つまり市場が崩壊してしまうとか、 業界ごとなくなってしまうという状況さえ起こり得るので、 デジタル社会に特化した大きな法律の枠組み、 つまり基本法のようなものを新たに設定することが必要ではないかと思う。
 基本法をつくるのがいいのか、あるいは他の方法がいいのか、 いろいろな方法が考えられるが、少なくとも、 何か問題が起きてからその度に応急処置的にばんそうこうを張るような形ではなく、 デジタル社会ということを大きく包み込む法体系を新たに設定すべきではないかと思うが、 この点について通産大臣に一人の政治家としての御意見を伺いたい。

与謝野馨 通商産業大臣

 法律をつくるとどうしてもその法律の網をくぐり抜ける人が出てくるので、 完全に社会的な悪を除去するような法律というのはなかなか考えつかないものである。
 畑議員御指摘のように、 今日の情報通信関連の技術というのは本当に日々進歩していて、 あっという間に我々の考えつかないようなことが出てくるわけである。 我々は、情報通信の分野が革命的な進歩を遂げていると思っているので、 こうした新しいものに対応していくための必要な制度あるいは法律というものが、 次々に必要になってくるという状況はいたし方のないことだろうと思っている。
 こうした急速な環境の変化に対しては、 既存のさまざまな制度を適用して対応するということも必要であるし、 また、新しい制度あるいは法律の整備、既存の法律の修正、条文の追加等、 いろいろなことを行って新しい時代に対応していく必要があると思っている。
 通産省としては、技術的、社会的な要請の高い本法による知的財産の保護を初め、 間もなく法案として提出される予定であるコンピューターへの不正アクセスの禁止、 また、電子認証・署名、消費者保護などのあり方などについても具体的な方向性を検討する必要があると認識している。 これらについては、政府内では、郵政、法務、 通産で事務的には相談が始まることになっている。
 しかしながら、これは日本国内だけで解決できる問題ではないので、 ある種の国際的な整合性を持つ必要がある。 また、デジタル社会にける変化のスピードに役所も追いついていくようにしなければならないし、 国会審議における状況もまたそのような変化のスピードに対応しなくてはいけない。

畑 議員

 国際協調という面もあるので、 各省庁の所管の中でバラバラに細切れになって後手後手に回るということのないように、 国際的な整合性をとりながら大きな枠としてデジタル社会を捉えて、 法律の整備に全省庁を挙げて取り組んでいただきたい。 そのリーダとして通産省が活躍することを期待している。

質疑の持ち時間が少なく、準備していた質問を全てすることはできませんでした。 以下の項目は委員会終了後、 通産省機械情報産業局情報処理振興課より回答を頂きました。

畑 議員

 ただ理想的な形でデジタルコンテンツが守られるまでには、 かなりの時間を要するし、 それまでの間はやはり何かしらの措置で保護して行かなくてはならない。 そこで今回の法律を執行した場合に、 はたしてコンテンツが確かに保護されるのか伺いたい。
 AV機器のように足の速い商品の場合、 その機器に対するコピープロテクト除去装置や解除プログラムを提供しようとする不正業者側も、 長い期間かけてその機器やプログラムを販売するとは考えられない。 つまり被害者が差し止めを請求したとしても、 その請求事項について裁判所が訴状の審査を行い、口頭弁論の期日を設定し、 裁判所で審理が行われ、最終的に確定判決が出るまでに、 不正業者は自分たちの商品を相当数売りさばいて、 いわゆる売り逃げをしてしまうのではないか。 (不正業者側の弁護人が審理の引き延ばしを計った場合は、 訴状の提出から差し止めが行われるまで少なくとも一ヶ月、 下手をすればそれ以上かかってしまうのではないか。 不正業者が裁判所から差止めを受けてもその時だけ解除装置等の提供を中止し、 しばらくしてほとぼりが冷めたらまた提供を始めるということを続けた場合どうなるのか。

通商産業省機械情報産業局情報処理振興課

 今回の不正競争防止法の改正により、公然たる妨害装置の販売はなくなり、 改正の目的は達成されるものと考える。
 また、事業者に著しい損害が発生するおそれがある場合には、差止請求と同時に、 差止を命ずる仮処分を申し立てることも可能であり、 訴訟中に妨害装置を売りさばこうとしている場合にも、 速やかに仮処分が認められることになると考えている。
 更に、差止請求に違反する者に対しても、 裁判所が民事執行法に基づき強制力をもってその実行を確保することとなっている。

畑 議員

 民事訴訟では、 同じような不正行為を何度繰り返しても機器やプログラムがわずかでも違っていれば、 それはまた別の案件として審理され、 しかもそうした度重なる行為が刑事事件のように再犯とは見なされないので、 別段何度くりかえしたところで罪が重くなるということも無い。 民事救済で、果たして被害者を十分に救うことができるのか。

通産省情報処理振興課

 どのような装置等が営業上の損害をもたらすかは、 事業者自身が最もよく知り得、また、不正行為の態様に応じて、 差止の仮処分や設備除去などの救済を求めることも可能であるから、 差止請求等の民事救済制度を導入することで効果が上がると考える。
 また、刑事罰の導入は、 事業者の利益保護のメリットよりむしろ事業活動に過剰な萎縮効果を与えかねず適当ではないと考える。

畑 議員

 いくら法律で取り締まってもアンダーグラウンドに潜ってしまった場合、 それを摘発し取り締まるにはただでも膨大な労力とコストが生じる。 しかもネットワーク関連商品は、 口コミで瞬時にかつ広範囲にその情報が伝わってしまうので、 その取り締まりはより困難をきわめることが予想される。
やはり根本的な解決のためには、 プロテクト技術を限りなく進化させて行く以外に無いのだと思うが、 こうしたデジタルコンテンツの不正利用防止技術の開発にあたり通産省はどのような支援を行っているのか。

通産省情報処理振興課

 昨年実施した提案公募等による技術開発事業においても、 デジタル・コンテンツの不正利用を防止する技術を開発するプロジェクトを採択している。

畑 議員

 若干話はそれるが、 このように法案審議をおこなっている間にも、デジタル技術は日進月歩、 いや秒進分歩で発展し続けている。デジタルコンテンツの流通形態も近い将来、 現在のようなパッケージ型から、 インターネットや衛星放送などを利用しオンラインでコンテンツをやり取りするノン・パッケージ型に移行しそちらが主流となって行くことだろう。
 何故ならノン・パッケージ流通になれば、 24時間いつでもどこでも自分の欲しいコンテンツが「必要な分だけ」手に入る。 この必要な分だけというのが味噌で、たとえば書籍だったらページ単位で、 音楽CDでもアルバムのようにまとまった形ではなく、 本当に気に入った曲だけを選んで買うことが出来るようになる。
 しかしこうしたノン・パッケージ流通で問題になるのが、不正コピーの問題である。 所謂「鍵」暗号を使用することも考えられるが、 コンテンツの正当な利用者にとって利便性の良いものとは言い難い。 そこで昨今、「電子透かし」という手法が注目されているが、 この可能性・将来性についてどのように評価しているか。

通産省情報処理振興課

 「電子透かし」の利用法には様々なものが考えられるが、 コンテンツの画質を劣化させないようにする技術などの開発に係る問題もあり、 多くの企業において研究開発が進められているものと承知している。

畑 議員

 ただ「電子透かし」は、それだけでは不正利用の「証拠を残す」ことは出来ても、 不正利用そのものを「出来なくする」ことは不可能だ。
 しかし日本のベンチャー企業である(株)エム研では、 インターネット上を自動的に巡回し電子透かしのチェックを行うプログラムを開発し、 電子透かしを埋め込んだコンテンツが不正利用されていないかどうかを随時チェックするサービスを合わせて提供していると聞く。 大手企業を制して、 日本のベンチャーも次代を切り開く上で頑張っているのだなと胸の熱くなる思いだが、 このように世界的にも高い技術力を持ったベンチャー企業たちが、 貸し渋り等でその成長や発展を阻害されないよう通産省としてもしっかりバックアップを行って欲しい。

通産省情報処理振興課

 通産省としては、今後とも、 ベンチャー企業育成のための総合的な支援策を講じて参る所存である。

畑 議員

 ノン・パッケージ流通と言えば、先月ソニーが、 衛星による音楽配信ビジネスをグループ上げてスタートさせることを発表した。 いよいよわが国でも、 デジタルネットワークによるソフト配信時代の幕が切って落とされたわけだが、 ソニーは著作権印税や原盤印税をはじめコンテンツの価格設定を含め、 今後の配信ビジネスの基準となるモデルを作りたいと強調し、 権利関係に非常に注意を払っている。
 その一方で、その放送サービスのあり方が、 はたして著作権法上の「放送」に当たるかどうかが争点となっている「スターデジオ」 をめぐる訴訟は依然膠着状態のままで、 デジタルコンテンツのオンライン流通が定着するにはまだまだ紆余曲折が予想される。 こうした問題の解決に向け通産省はどのような取り組みを行っているのか。

通産省情報処理振興課

 映像、音楽コンテンツのネットワーク流通は、 新たなビジネス分野として注目されつつあり、通産省としても、 ネットワーク流通の促進のため、 コンテンツの円滑な流通・利用と著作権者等の権利の保護とのバランスが取れたビジネスの枠組み作り等の環境整備に努めて参る所存である。