経済産業委員会(平成10年9月17日)

質問テーマ

[グローバル化、情報化を見据えた日本経済の構造改革]

質疑要旨

畑 議員

 昨今、深刻さの度合いを深めている我国の経済状況を見るに、 中小企業への貸し渋り対策等、当面の景気対策も重要だが、やはり、 その一方で急速に進展しているグローバル化や情報化を見据えて、 戦略的かつ迅速に経済の構造転換を図っていくことも肝要だと考える。
 与謝野通産大臣、そして堺屋長官からの『ご挨拶』においても、 お二人ともこの構造改革という課題について、 殊のほか力点を置かれていたように思う。中でも、通産大臣が強調しておられたのが、 いわゆる中小ベンチャー支援、そして、 加速する情報化社会への投資という点であったと思う。そこで本日は、まず、 この二点について通産大臣に伺い、後ほど、PFI法案について経企庁長官に伺いたい。
 ベンチャー支援について、通産省は、 前通常国会でも投資事業組合制度の改革をかなり大胆に進めるなど、 グローバルスタンダードに即した投資活動が実現していく社会を目指して、 大変努力されてきた。ただ、実態を見ると、日本人そのものがリスクを嫌ったり、 横並びを好むメンタリティーを持っているためか、 日本社会をベンチャーを育成して成功させるようなシステムに構造改革していくのは、 容易でないと痛感する。
 今回、中小ベンチャー支援のために、さまざまな施策を打ち出しているが、 具体的にどのようなポイントで考えていらっしゃるのか。意気込みも含めて、 与謝野通産大臣にご紹介いただきたい。

与謝野 通産大臣

 畑先生のご指摘通り、現在、新規開業と廃業の数を比較してみると、 新規開業が下回るという大変困った状態に陥っている。
 従って、仮に、これらを中小ベンチャーと呼ぶとすると、 こういうものに対して資金面、技術面、それから経営面等、 “総合的に新規開業がなされるための施策” をやっていかなければならないと思っている。
 また、中小ベンチャーは雇用も吸収し、日本経済全体にとっても、 大変有効な再生方法の一つである。したがって、資金供給の円滑化、支援人材の活用、 それから技術開発の促進等に関して、積極的に支援していきたいと思っている。
 具体的には、マル経の新規創業融資の充実、 新規開業者を対象とするセミナー・研修制度の創設、 ベンチャー等中小企業に対する技術開発支援の強化、 新規成長産業連携支援事業の拡充、試作開発、販路開拓に対する助成等である。 委員の皆様方には、これら施策の実現のため、是非ご理解をいただきたい。

畑 議員

 今、ご紹介いただいた様々な施策につき、私が特に注目しているは、 情報提供という点である。これを実現するという意味では、 「地域プラットフォームの拡充」に大変期待している。私の同世代には、 ベンチャーを志したり、実際に自分で運営している者が多数いるが、 彼らからの不満の声を要約すると、 日本にはインキュベーション・システムが未整備であるということになる。 要するに、彼らはこれまで余り経験もないし、コネクションもないので、 必要な情報がなかなか入って来ない。情報に行き着こうとしている間に、 昨今の貸し渋り等の問題もあり、息絶えてしまうという例がかなりある。 このことから、“シーズからニーズまで”一貫して情報提供してくれる、 地域プラットフォーム構想に大変注目している。
 詳しく施策についてご説明いただきたい。

通産省政府委員

 国の産業政策、あるいは、自治体の取り組みにより、全国各地域において、 いわば新産業の“苗床”となるような研究集積、あるいは、 産業集積が形成されてきている。畑先生がおっしゃったように我々も、 これらの集積地域を中心に、テクノポリス財団や中小企業振興公社等を中核として、 既存の産業支援機関を統合・ネットワーク化する、 研究開発から事業家まで一貫して新規起業家を総合的に支援する体制が必要不可欠だと思っている。 私共は、このような一貫総合して支援する体制を地域プラットフォームと呼んでおり、 11年度、来年度の新しい施策として、全国的に整備したいと考えている。 現在、所要の予算要求などを行っているところである。 このプラットフォームが全国展開されれば、 各地域にいる新規起業家が技術や人材といった諸々の情報を “一時”に“全部”“容易”に入手でき(ワン・ストップ・サービス)、 これらの経営資源を活用できる環境が整うと考えている。こうした施策を通じて、 新規産業の創造が加速化されることを期待している。

畑 議員

 是非、質的にも量的にも拡充していただきたいと思う。
 私は、 この夏に一週間ほど米国のIT(インフォメーション・テクノロジー)事情を視察した。 ベンチャーの一番集積するシリコンバレーの中でも中核であるサンノゼ市の経済開発事務所を訪れ、そこの産業誘致政策、支援策を伺ってきた。
 中でも興味深かったのが、サンノゼ市とサンノゼ州立大学が共同で行っている、 インキュベーション組織だった。これがまさに苗床機能を果たしているわけだが、 サンノゼ市は資金と建物、施設を提供するだけで、 実際の運営は民間のNPO(非営利団体)が行っているということであった。しかも、 そのNPOで業務に当たっているのは、ヒューレット・パッカードやIBM、あるいは、 ベンチャーから大企業に転身したといった、大手の管理職を経験した人達である。
 このようなシステムが実現すると、 ベンチャー企業は容易にコネクション形成できるし、また銀行への紹介や、 市への助成の申請等についても、単に“事務的に右から左”ではなく、 きめ細やかにケアをしてもらえ、様々なプロセスが速やかに進む。 もし、日本でこの方法が実現できれば、先程の地域プラネットフォーム構想も、 より一層進むのではないだろうか。
 ただ、日本の中ではNPO法が成立したとはいえ、実際にNPOが活動するためには、 まだまだ整備してゆかねばならない点も多いので、難しい面もあると思う。 そこで、こうした方式の可能性と実現の上での課題について、幾つかご指摘頂きたい。

通産省政府委員

 各地域で産業支援機関が活動しているが、その活動を見ると、 民間企業でのビジネス経験をお持ちの方、 いわゆる企業OBの方が熱意を持って地域産業振興に取り組んで成果を上げている場所の一つとして、浜松が挙げられる。 わが国の地域プラットフォームの産業支援活動を実りあるものとするためには、 民間の人材活用が極めて重要であるという畑先生のご指摘は、もっともである。
 一方、現下の経済情勢を見ると、雇用情勢は大変厳しい。 特に中高年のホワイトカラーの方々の雇用情勢は厳しさを増している。 これらのホワイトカラーの中には、 地域で新しい事業を起こす上で非常に重要となる販路開拓、 あるいは、財務会計、事業計画等々の分野で豊富な経験をお持ちの方が多数おられる。
 我々は、これらの優秀な人材を産業支援機関、あるいは、そのインキュベーター、 さらに地元のベンチャー企業に円滑に導入していく必要があるのではないかと考えている。ただ、 地域的な人材の遍在による需給面や雇用条件面でのミスマッチがあることも確かで、 その辺をどのように解消していくか、これから知恵を絞って参りたい。

畑 議員

 確かに地域的な遍在の問題がある上に、日本では、 人材の移動の難しさが構造改革を進める上で一番のネックになっている。 通産省の施策の柱としても、人材の流動化が挙げられているが、 やはり全ての問題の根本にあることなので、是非積極的に取り組んでいただきたい。
 では、次に情報化社会への対応について伺いたい。この点についても、 米国視察の経験を元に質問させていただく。
 シリコンバレーの後、 メンフィスで物流のフェデラル・エクスプレス社(フェデックス)を訪ねた。 IT(インフォメーション・テクノロジー)を徹底して活用する“ベンチャーの雄”として世界的に注目を浴びている、フェデックス社である。 十分に期待を膨らませて行ったのだが、それでも、なおかつ驚くほど、衛星、 インターネット、ありとあらゆる通信手段を駆使して、 人間の力を超えたと思えるような、正確で、細やかな、 しかも低廉なサービスを提供している。
 フェデックス社の実態を目の当たりにして、 “情報化”という概念そのものにまで考えを新たにしたわけだが、 受発注から最終的に消費者の手元に届くまで、 全てITを活用するサプライ・チェーン・マネジメント、こうした動きについて、 わが国では、どのように取り組んでいるのか。まず、この点をお教えいただきたい。

通産省政府委員

 サプライ・チェーン・マネジメント、ここでは、 広い意味で電子商取引と考えてよろしいかと思う。 平成7年度、8年度、10年度の春の補正において、この技術開発、あるいは実証実験、 実用化の推進のために合計1000億円を超える支援を行ってきたところである。
 特に、今年度の補正予算の実施においては、 実用化に近い技術開発案件も多く寄せられて、各種の電子商取引の手法というのが、 現実のビジネスの手段として、 ようやく日本でも花開く段階に来たのではないかと考えている。

畑 議員

 これまで投入したものが生かされるように、是非、 努力を継続していただきたい。
 こうしたサプライ・チェーン・マネジメントとともに、 物流の高度情報化ということについて、通産省も注目し、 今後の施策の柱に掲げている。私自身もこの分野は、 実に激しく変わっていく分野だと認識している。やはり通産省のみでは、 規制を緩和していくにしても、制度を変えていくにしても、自分たちの省内だけでは、 すまないことが多々あると思う。物流システムの高度化という点で、 各省連携はどうなっているのか。

通産省政府委員

 物流に関して各省連携についてのお尋ねであるが、 まさに我々も畑先生と同じ問題意識で各省にお声掛けをし、 昨年4月に総合物流施策大綱という形で、閣議決定を行った。 関係省庁が同じような考え方で、 また具体的にどういう実施手順で協力をするかが決められた。
 この中で、関係省庁の間では総合物流施策推進会議が設けられている。 そして、この下に具体的な分野として、物流の情報化、一貫パレチゼーションの問題、 あるいは輸出入手続のEDI化といったような、現在のところは、 5つ程のワーキンググループが設けられている。 それぞれに関係省庁がしっかりと明記され、いわば幹事会のようなものが決定され、 相互に具体的なプロジェクトについて連絡を取り合いながら、 この物流の施策を推進するよう取り組んでいるところである。

畑 議員

 総合物流施策大綱は読ませて頂いた。また、様々な組織もできて、 非常に意気込みが伝わってくる。是非、今後も遅滞なくすすめていただきたい。
 この問題、そして先程のサプライ・チェーン・マネジメント、 こうした傾向が進展して、今後、どのようにに世の中が変わっていくだろうか。 一つには、多くの仲介業者の存在理由や役割がなくなり、 淘汰されていくと考えられる。もう既に、自動車ディーラーや書籍の販売で、 そうした動きは顕著である。消費者側からすれば、安く、早く、そして、 より自分が気に入ったものが手に入るのであれば、 そのシステムに移行することを阻害する要因は、 早急に取り除いてもらいたいと考えるだろう。
 ただ一方、構造転換が急速に進んだ場合、サプライヤー側に対する施策、 配慮も必要だと思う。それぞれの面で、いろいろな対応をお考えだと思うが、 具体的に、現在、どのような取り組みをなさっているのか。

通産省政府委員

 今後、消費者のニーズは、ますます多様化、高度化するだろう。 こうしたニーズに対応するためには、 それなりの流通・物流システムをつくっていくことが必要である。
 その意味で、畑先生がご指摘のように、 流通システムの変革が行われるということは、経済構造改革という名前が示すように、 まさに経済の中の“物流”に関わる主体に変化が生ずるということを意味している。 だからこそ、構造改革になるわけだが、関係業界の方々には、環境変化について、 しっかりとした自覚を持っていただく必要があるし、 変化に対応していく努力をお願いしなければならないと思う。
 ただ一方で、例えば卸売業が物流全体の中で、減少するという傾向があるが、 昨今の実体経済を眺めると、そういうことが一方で進みつつ、他方で、 卸売がしっかりとしたシステムを持っていれば、むしろメーカーや小売業にとって、 アウトソーシングという別の良さをもつ存在として活用しようという動きがある。 そういう意味では、 情報技術などを活用して高度な流通システムや物流システムを持つことで、 新しい活路が発生するということも十分あるということである。
 そこで、とりわけ中小のレベルの卸売業者などに、 全国的なネットワークをその業界の中でお作り頂き、 中小企業施設の中での卸売業者のネットワークづくりをして、それによって、 大きな企業を相手にした一種のアウトソーシングの役割を果たすということは、 今後の中小卸売業者に役割が期待できると思っている。 今後、その方向で助言を充実していきたいと思っている。

畑 議員

 その意味では、「淘汰」いう表現より「変化」という表現を用いた方が適当だったと思う。 是非、トレンドを歪めたり止めることなく、移行がスムーズに行われるように施策を行っていただきたい。
 では、次に、民間資金等活用事業推進委員会、 いわゆる日本版PFIのタスクフォースのあり方について、 経企庁長官にご見解を伺いたい。
 まず、人選につき、具体的なお名前までは難しいと思うが、 どういう方を想定されているのか。 そして、その方がどのような勤務形態で働くことを想定しているのか。 フルタイムで、イギリスのPFIタスクフォースのように働くとなると、 先程の人材移動の問題も含め、難しい点もあるので心配している。 また、特に人選の経緯に関しては、 「透明性」を担保することが必要不可欠だと思うがいかがか。

堺屋 経企庁長官

 PFI、つまり民間資金等を活用して公共施設等の整備等を促進する制度である。 現在、議員提案で民間資金で公共施設を促進する制度の法律(略称:PFI法)を提出していただいており、 我々としては、関係省庁連絡会議準備会合を開催して進めているところである。
 対象は、大変広い範囲にわたっており、いろいろな公共施設、道路、美術館、公園、 廃棄物処理施設等、非常に多くのものを含んでいるので、ご指摘の通り、 どのようにタスクフォースを組んでいくか、 また自治体や民間企業と提携していくかが重要となる。 その点につき、学識経験者あるいは実務専門家からなる民間資金等活用事業推進委員会(通例PFI推進委員会と呼ばれる)を設置している。
 また、政府としても、PFI推進委員会の重要な役割を考慮して、その運営等につき、 PFI推進について関係省庁連絡会議準備会合を設けて、連絡調整体制を整えており、 既に何回か実行している。
 その人選についても必要があれば、事務当局から説明するが、 遺漏なきよう注意してやっているつもりである。
 PFI推進委員会のメンバーだが、もちろん法律ができ、施行されて、 それから委員をお願いするということになる。現時点では、 まだどういう方にお願いするか決まっていないが、今、ご指摘があったように、 できるだけ透明性の高い方法で委員をお願いし、 その仕事を十分にやっていただけるように考えたい。

畑 議員

 せめて透明性だけでも、必ず担保していただきたい。 PFI委員会をの設置を法案に盛り込む際もいろいろな問題があった。 くれぐれも、真に機能する委員会となるよう、ご留意いただきたい。