質問テーマ
[ベンチャー企業支援策の拡充]
質疑要旨
畑 議員 今回の法案は、前回出された中小創造法に続く、 まさにベンチャー支援法第二弾であり、非常に画期的な法案である。 中小ベンチャー企業を活性化させる上で、 最大の課題である“リスクマネーの供給環境を整える”という意味で、 非常に大きな効果が期待されている。一刻も早く法案を成立させ、 実施して頂きたいと願っている。
グローバルスタンダードに則した抜本的な構造改革が迫られている今の日本経済において、 活性化の最大の原動力とは、新しい価値観やシステムを創造し、 時代を画しているベンチャー企業そのものだと思う。 しかし、昨今の不況、特に銀行による貸し渋りなどにより、 一番大きな影響を受けているのも、やはりこのベンチャー企業である。
私は30代半ばなので、友人にベンチャー企業を経営している企業家も多く、 ハイパーネットの板倉雄一郎という方に何度か会ったことがある。 しかし、残念ながら、この方の会社は、昨年の暮れに倒産してしまった。 その倒産の前年には、 ニュービジネス協議会からベンチャー大賞という非常に栄誉ある賞をいただいて、 ベンチャーのトップランナーであった。 そういう方が昨今の貸し渋り、その他の経済状況の中で倒産してしまったのである。 同様の例は、枚挙にいとまがないと思う。
そうしたことを背景にして、 ベンチャーへの投資事業組合からの投資も伸び悩んでいる。 大臣は、ベンチャーを取り巻く厳しい経済状況をどう考えてらっしゃるか。 まず、その概観から伺いたい。
ご指摘の通りである。中小企業に対する貸し渋りについて、 通産省が3月の中旬に実施した調査でも、 民間の金融機関の貸し出し姿勢が非常に厳しくなったという答えが全体の3割以上である。 また、4月以降の融資態度が厳しくなったという答えが全体の3割を超えている。 そして、4月以降の融資態度が厳しくなるだろうということを懸念する声は、 企業全体で6割近くになるほど、貸し渋り問題は深刻になっている。
さらに、年々のベンチャー企業について一例を挙げると、 民間調査機関が「地方公共団体のベンチャー支援制度の認定を受けた企業の倒産件数」 を調べた結果、平成6年で14件であった。 それが平成8年で35件、平成9年では58件。特に平成9年において、 58件のうち昨年の8月以降年末までで30件と急増している。さらに、 本年2月には13件と、平成4年の集計開始以来、月別では最高の件数となっていて、 非常に厳しい状況にあるということがわかる。
政府としては、中小企業等に対する貸し渋りについて、 政府系金融機関及び信用保証協会による相談窓口を用意して、 新たな融資制度の創設だとか無担保無保証、いわゆるマル経資金の充実、 保険限度額が今まで33業種だけが倍額にされていたものを、 ほとんどの業種に広げて81業種まで倍額の保障ができるようにする。 あるいは保証人の問題の弾力化ということも含めて各種の対策を講じて、 ベンチャーも含めて中小企業の対策に努力している。
我々は、中小企業を取り巻く環境が非常に厳しいと認識している。 先日、政府系金融機関と信用保証協会に対して、 各政府系金融機関のトップにお集まりいただき、私の方から再度、 中小企業者の立場に立った対応を徹底して行うように申し渡した。 さらに、窓口において今まで以上に親身になっての取り組みを行うように努力しているところである。
そうした措置に加えて、今回の法案により、 是非ベンチャーに対する円滑な資金調達が進むことを願っている。 今回の法案を拝見すると、 まず一番の特徴は、「業務執行組合員以外の組合員を有限責任とする」ことである。 それに加えて、情報公開について様々な規定が付与されている。 先程、既に質問の答えにあったが、こうした例えば組合員に対して、 予見可能性を与えるために登記制度や公示制度を設ける、 又はそうした彼らへの情報開示として財務諸表等の備え付けを義務づけるということがあるが、 投資家を募る対象、新たな投資家の対象としては、どういうところを中心にお考えか。
通産省政府委員本法律案成立により有限責任を担保する、情報開示を強化するということで、 今までは日本では見向きしてくれなかった年金資金、 あるいはアメリカの年金を含めた海外の投資家達を中心に期待している。
畑 議員 年金、そして海外投資家というお答えであった。 ところで、現時点でも年金や海外投資家の動きというのはあるのではないか。 海外とのネットワークを持っているベンチャーキャピタルには、 既にいろいろなアプローチがあると仄聞している。
ただ,情報開示の方法、手段について、 なぜ今までそうした基本事項の整備がなされぬまま、 投資が行われていたのか不思議になるような状況である。今回、 確かに基礎的なところは、整ったと思うが、やはり海外投資家に向けてとなると、 英語での表示、インターネットにによる情報提供等、 本質的にもう少し積極的な情報開示規定を付与しなければ、 海外投資家からの投資促進というのは難しいのではないか。
情報開示について、今後もう一歩踏み込んで、 開示を促進するような方針はお持ちなのか。
現行の民法組合でも、それなりの財務諸表等を用意しているが、 今回のこの改正法案で財務諸表、それから業務報告書を必ず法的に義務づける。 しかも、それに公認会計士とか外部の監査法人の意見書もあわせて添付することを義務づける。 この「法的に担保する」ことが、かなり効果的だろうと思っている。
さらに、日本の投資家にとっても同じだが、特に外国の投資家にとって、 投資先企業の時価評価は重要な問題である。日本では取得原価主義でやっているが、 特にグローバルな意味では、 時価評価を取り入れるよう現在公認会計士協会とも検討している。 できるだけ、魅力的な情報開示にしたいと考えている。
時価評価に関しては、非常に明るいお答えを頂いたが、 インターネット等を通じて、資料や数値をなるべく全世界に発信して、 “魅力ある”という事実を知らしめていただきたい。
ただ、海外の投資家から見込める金額というのは、まだまだ限られているので、 一番の投資家としてお願いしたいのは、やはり「年金」である。
現在、公的年金160兆円、企業年金は60兆円を上回る。 あわせて220兆円であるので、仮に1%でもここから投資されれば、2兆2000億円。 手元の資料だと、 96年3月末での投資事業組合156社全体の投資残高合計が2650億円ということである。 現在、日本の全ベンチャーキャピタルの投資残高は8000億円ということなので、 もし年金の1%を入れて頂ければ、3倍近くになり、これは非常に大きな額である。
何としても日本の年金を取り込みたいと思うが、 ここに何か規制その他があるかといえば、 前回、年金からの未公開株への投資が法的に解禁され、最大の障害は取り払われた。 しかし、それだけでなかなか進むものではないのが、現実である。 今回の法改正で本当に年金がベンチャーの方に投資されるようになるのか、 私には確信が持てない。この点については、どのようにお考えか。
この法案あるいはシステム、制度を日本に導入するにあたり、 政府部内での検討でも、年金基金側のご意見あるいは厚生省のご意見、 いろいろな形でご相談させて頂いた。 今回、この法的有限責任担保とか情報開示強化は、 そのような関係者の方々からも高く評価されている。
ただ、日本では年金側からすると、経験がない。今の予想とすると、 当面はやはり生命保険とか信託銀行を通じて、 年金の資金が投資という形で選択されるのではないだろうか。 我々もそれを強く期待しているし、 またそういう方向での検討もされていると聞いている。
前回のそうした規制緩和に加えて、今回の有限責任という部分と情報公開、 これが相まって、今お話があったような形で年金からの資金流入が進むことが望まれると思う。 しかし、投資事業組合への出資者の内訳をみると、アメリカの場合、 年金基金がその半分あまりを占めており、また年金の資産運用から見ても、 そこに占めるベンチャーキャピタル出資の割合というのは、10%近くということで、 非常に大きな割合を占めている。
こうして日米を比較した場合、そのギャップはかなり大きいと思うが、 それは徐々に埋まっていくのか。 米国と同じ程度にまで日本の水準を持っていくのにどれくらいの時間が必要とお考えか。 また、「今後色々な措置が」とおっしゃったが、 年金からベンチャー投資への資金を流入させるために、 どのような追加措置がより一層必要とお考えか。
委員御指摘の通り、 現在の投資組合に対するアメリカと日本の年金の出資状態というのは、 まさに彼我の差がある。
ただ、アメリカも1980年ごろに規制緩和され、 それからこの有限責任組合制度が整備されて、 年金からの資金がベンチャー投資に入るようになった。 当初は1%に満たない段階だったと思う。 わが国においては、昨年の年金についての規制緩和と、 今国会でこの法律が成立することで、やっとアメリカの当時と同じ条件が整う。 しかし、これから何年で今のアメリカになるかということについて申し上げるのは、 極めて困難だと思う。
なかなか具体的な目標、数値をおっしゃっていただけないようだが、 やはり日本は、 こうした経済的な問題だけでなく、“リスク”という言葉自体を嫌うというか、 存在そのものを認めたがらない国民性をもっている。そうした中、 ベンチャーというのは、ハイリターンもあるが、明らかにハイリスクを負う。 従って、日本では諸外国と同様の環境整備を行っても、 それだけでは、なかなか資金が回らないだろう。 やはり実際にベンチャーへの投資を促進するためには、 それぞれのベンチャーの特性や経済環境全体を見極めて、集めた情報を分析し、 方向を示していくプロが増えていかなければ、 難しいのではないかと私自身は感じている。
ただ、もちろん様々な法的な措置も規制緩和も必要だと思う。 平成11年度予定で年金基金からベンチャーへの直接投資、 インハウスが解禁になると伺っている。この法改正がなされた場合、 ベンチャーへの資金流入はさらに伸びると考えてよいのか。
ご指摘の年金基金から自家運用(インハウス)については、 一定規模以上の年金なので、現在でも厚生大臣の認可を受けると可能である。 しかし、資産規模がいくら以上とか、運用責任者がいるか等、 いろいろな条件をクリアすることが必要である。 現在の規制緩和推進三カ年計画の中で、 この自家運用枠についての規制緩和が位置付けられている。 この運用規制の緩和の中で、今ここでご審議頂いているような問題意識が配慮され、 適正緩和の検討がなされるものと理解している。
畑 議員 投資側は、別にベンチャーを育てるために投資をするわけではなくて、やはり、 少しでも運用利回りを上げようとして、投資をするのだから、 運用面での魅力があって初めて成立する話である。 年金側に「投資をしたい」という気持ちになって貰わなければ、 成功はありえないのではないか。
これだけ金利が低くなって、年金側も運用そのものに行き詰まっていると思う。 今回の法改正について、 年金側の皆さんもいろいろな勉強会に出席されていると伺っている。 投資家としての年金側のベンチャー投資に対する意欲を、 率直にどうお感じになっているか。
ご指摘の通りである。10年くらい前は、年金の運用利回りは、 確か9%前後だったと思う。今は、3%そこそこくらいではないかと思う。 大事な年金を運用して、できるだけ大きくしていくというのが、 大きな課題となっているわけである。 今回の法律によって新たな制度が導入されるわけだが、当面は、 先程申し上げたように信託銀行とか生命保険を通じてということになろうかと思う。 しかし、ある一定限度、分散投資という意味で、 年金の方々もかなり積極的にご検討を頂けるのではないかと考えている。
畑 議員 以前のように、手をこまねいていても、濡れ手で粟のように、 そのまま右肩上がりで資金が増えていくことはありえない。 私が申し上げるまでもなく、 それは年金を運用していらっしゃる方の方が余程危機感をもっていらっしゃると思う。 しかし、これまではノウハウもなかったし、一番の問題は日本人のマインドとして、 「リスクは絶対にとってはならない」と思っていることがあるのではないか。 発想の転換は口で言うほど容易くないと思うので、 年金側の方々に対してもいろいろな情報を提供したり、 また勉強の機会を与えて頂いたりと、 ご指導を積極的にしていただければ有り難いと思う。
年金に関してはこのくらいにして、 ベンチャーに対する投資事業組合以外の資金供給について伺ってまいりたい。 ベンチャー企業の経営者とお話をすると、異口同音に不満、不安をもらすのが、 銀行やベンチャーキャピタルからの投融資体制についてである。とにかく審査、 手続きが煩雑であって、その為に実に多くの時間、 エネルギーを割かれてしまうと聞いている。CEOは本業に専心したいにも拘わらず、 本業そのものにほとんど手が付けられないくらいに銀行等の対応に忙殺されて、 そしてそのまま会社がつぶれてしまうというケースもあり、 「なんとかならないか」という不満を何度となく聞かされている。しかも、 そうした融資は大半が短期であるので、1月にやっと事務処理が終わったかと思うと、 また次の月の処理で忙殺されてしまうということになるようである。 こうした膨大な書類提出義務や銀行などに何度も出頭させられるという事務処理を大幅に軽減し、 少なくともCEOは本業に専心できるよう、 業者を指導するような措置はとれないのか。
金融機関においては、 今後の金融システム改革の進展をにらみ競争力強化の観点から、 将来性ある企業の発掘、支援を行うべく審査能力の向上に努めていると承知している。 融資審査期間銀行融資の中枢を占めてきたのは、不動産などを担保とする金融、 そういった不動産担保をベースに審査していくのが、銀行の仕組みの中枢であった。 バブルの崩壊後、根本的にこういったシステムについての見直しが迫られており、 むしろ企業の収益力であるとか将来のキャッシュフローに見合う、 より的確なリスク管理を踏まえた融資を行うという考え方に転換しつつあると考えている。
畑委員がご指摘の通り、 現状必ずしも金融機関の対応が十分でないという批判があることは、承知しているが、 いずれにしても金融機関としては、このような成長企業に対応強化をしなくては、 今後の厳しい競争に勝ち抜くことは困難であろう。 各行とも今後積極的な体制整備を図っていくものと考えている。
銀行に関しては、大蔵省にお話をいただいたので、 ベンチャーキャピタルについては、通産省にお願いしたい。
通産省政府委員銀行の融資の姿勢に加えて、ベンチャーキャピタルも、 確かに審査能力において自信がない。 往々にして過剰な資料要求になると認識しているが、 ベンチャーキャピタルの数が増えてきて、 そしてベンチャーキャピタル同志の競争が起こってくる中で、 徐々に是正されていくのではないかと期待している。従って、 ベンチャーキャピタルを公正に競争させる環境、今回の法律もその基盤になると思う。 マーケットの中で解決していくことが、極めて望ましい方向ではないかと考えている。
畑 議員 長官のおっしゃられることは、妥当であるかもしれない。 ただ自然淘汰に任せるというのでは、あまりに遅きに失してしまうと思うので、 重ねてお願いしたい。
さて、銀行局の方からは、指導を強めているということだが、 融資を受けている側の方々の多くの声は、本当に悲鳴に近いものがある。 是非そちらの方にも耳を傾けていただいて、 銀行側が言うことと融資を受けている側が言うことを重ね合わせた上で、 何が真実かよくお汲み取りいただき、指導にあたって頂ければありがたいと思う。
また、これからベンチャーキャピタルは、競争が起きて淘汰される方向に進めば、 確かに環境は変わると思う。しかし、 ベンチャーキャピタルに投融資を依頼するためにベンチャーの起業家が訪問すると、 「随分いい車に乗ってますね」等と嫌味を言われたり、 「お貸しする私共より多くの利益を上げるつもりですか」と面と向かって言われたりするそうである。 私は、この話を聞いて愕然としたが、このような感覚は、 日本の従来の商習慣として随分残っているように思われる。 ただ、目を通すこともままならないほど書類を出させて、その挙げ句、 投資先の経営を窮地に追い込んでしまうのであれば、 それは自分で自分の首を絞めることとなり、全く愚の骨頂である。 それは投融資をする側からしても、なんのメリットもないことだと思うので、 ぜひ早期に是正するよう重ねてお願いしたい。
審査の簡素化に加えて、 いろいろな措置をとっているという先程の大臣のお話だったが、 さらにもう一つ要望がある。 ベンチャー企業をはじめとする新分野への進出を目指す中小企業を資金調達面から支援する低利融資制度、 これをもう一段拡充していただけないものだろうか。 廃業率の方が開業率を上回っているような非常にゆゆしき状況であるので、 なんとかもう一段拡充できないかと願ってる。そういうご予定はないのか。
現在、政府系金融機関では、 担保徴求の特例などを導入したベンチャー企業向けの低利融資制度を設けている。 例えば、新しい技術の活用などによって市場を創出・開拓するベンチャー企業を支援する融資制度である新事業育成貸し付け、 これは中小公庫等にあるが、 政府系金融機関の基準金利よりも低利で特別な利率を適用しており、 その利率は現在2.0%ということになっている。
また、この間、 構造改革を推し進める中小企業を支援する経済構造改革特別融資制度が創設された。 これも現在1.7%となる特別利率を適用している。 この制度につき、実はごく最近であるが、昨年の経済対策おいて、 新たに担保徴求特例を導入した。 基本的にベンチャー企業は担保があまりないということだが、 こういった企業に対応した制度の充実強化を行っている。 因みに、借入額の50%までは、一応担保徴求を免除するようになっており、 8000万円を限度とするということになっている。
畑先生から、なお一層の拡充というご指導であるが、 現行制度の運用の実態を踏まえながら、 必要に応じて今後の拡充の検討をしていきたいと思う。
是非、お願いしたい。ベンチャーに対する資金調達の面の支援ということでは、 税制によるバックアップも望まれるところである。 まず、業界からも長い間要望の声が上がっているが、 過年度分までの投資損を償却できる税制の導入ということをご検討頂けないのだろうか。 まずは、この点について伺って参りたい。
先程も申し上げたように、日本は何事につけリスクを嫌う風土である。 特にわが国は、初期段階に対するベンチャー投資が極めて低調である。 全体とは言わないが、 せめてこうした創業の初期段階に対する投資にインセンティブを与えるために、例えば、 現在、中小企業投資育成株式会社に適用されている創業中小企業投資損失準備金、 これを投資家全般に拡充することができないものか。
只今ご指導の租税特別措置というのは、 特定の政策目的を実現させるためにとっている政策手段である。 ただ、それ自体は、税負担の公平といった税の原則、あるいは税の基本理念というか、 その例外措置であり、私共としては、その整理合理化に努めているところである。
ただいま、ご指摘の創業中小企業投資損失準備金、これも平成6年に創設されたが、 そのときに積立率は20%であった。その後、平成8年に18%、平成10年に16%と、 それぞれ積立率についても、そのような考え方で縮減しているところである。 これを一般的なベンチャーキャピタルに適用できないか、というご指摘であるが、 3つほど問題があるのではないか。
まずこの措置自体はベンチャー企業そのものへの支援というより、 むしろベンチャーキャピタルを対象にした税制措置である。 ベンチャーキャピタルというのは、投資先について、 その事業の将来性とか予想されるリスクとかリターンを見極めながら、 投資を行うのが本業である。投資者というのは、 リスク、リターンを見極める目を持つことが重要だと思う。 その中で、“損をしたときのために”という税制上の措置は、 逆にモラル・ハザードを引き起こしかねないといった問題もあろうかと思う。
それから、ベンチャーキャピタルと言っても、種類はいろいろとある。 ベンチャー企業への投資をしている人をベンチャーキャピタルというなら、 一般の金融機関や事業会社も行っていることである。 そうすると、そういう一般の方々が行っている投資についても、 対象にするかといった問題点もでてくるだろう。しかし、それをやると、 特定の株式投資を対象にして税制上優遇するということになるので、 金融自由化、ビッグバンといわれている中で、 株式取引の中で一部逆の分野があるというゆがみを生じさせかねない。
このような問題があるので、議員ご指摘の“一般化”というのは、 いかがなものかと考える。
確かに、筋論からするとおかしいかもしれないと、私自身も思っている。 しかし、今の方法がおかしいというのであれば、 ハイリスクな初期段階の投資をアメリカのように活性化させるためには、 どうしたらいいのか。これについて、どのような対策をお考えでいらっしゃるのか。
通産省政府委員 委員のご指摘の通り、 アメリカと比較すると日本のベンチャーキャピタルの投資先は、 アーリーステージではなく、レイターステージに偏ってきた。
ただ、日本のベンチャーキャピタル第一号ができてから、 まだ25年くらいしか経ってない。その意味では、 日本のベンチャーキャピタルは成熟してないというか、発展途上にある段階だと思う。 しかしながら、今回この法律で新しい仕組みができることにより、 海外の投資家も含めて、あるいは日本の年金も含めて、 そのリスクマネーがベンチャーキャピタリストの組成する投資組合を通じて入ってくるということになる。 これまでの25年で、ノウハウはそれなりに向上してきているし、 また、最近では既存のベンチャーキャピタル会社から独立してベンチャーキャピタルを起こしたり、 あるいは事業家、経営者であった人がそのような事業を始める例も出てきている。
そうなると、いろいろな形で競争も生まれるだろう。 また、公開間近のよい投資先も、そう多くなくなってきている。先程も申し上げたが、 95年度と96年度で、 設立5年未満の企業に対する投資が13%~20%に増えてきていることもその兆しであろう。 今回の新しい仕組みなどにより、 アーリーステージの企業への投資が急速に高まっていくのではないかと思う。
確かに、今までのいわゆる日本型のベンチャーキャピタル、 「上場を目の前にしたところに少額のお金を入れて利ざやを稼ぐ」 というようなことはできない。 だから、そういう形でない投資が進むのではないだろうか。 しかし、利ざやだけを稼いでいたベンチャーキャピタルが生まれ変わるには、 時間もエネルギーもかかるので、ほとんどの部分は淘汰されてしまうのではないか。 その意味では、この法案が通ると、 今年は「本当の意味でのベンチャーキャピタルが育っていく元年」になるのかもしれない。
いずれにしても、日本のこれまでのベンチャーキャピタルは、 組織内の投資とか審査、情報、各分野が縦割りで相互間の連携がなく、 一本化していない。だから、「投資先のベンチャーを一緒に育てていこう」、 「共に歩んで行こう」という姿勢やそのためのスキルがないのではないだろうか。
そこで、ここからはしばらくの間、ベンチャーキャピタルのあり方について、 伺ってまいりたいと思う。先日お計らい頂いて、 わが国において欧米型のベンチャーキャピタリスト第一人者として活躍しておられるシュローダー・ピーティヴィ・パートナーズの代表取締役である松木伸男氏に会わせていただいたので、 その方から何度かお話を聴取させていただいた。 松木さんのお考えでは、「ベンチャーのアントルプレナーを“選手”に例えたら、 ベンチャーキャピタルというのは、常に“選手(起業家)”に対して、 よい“コーチ”でなければならない」とおっしゃって、 ご自身の会社でも、それを実践しているということだった。 同社では、投資先企業の経営に対して創業段階から戦略的な将来計画策定から折々突き当たる個々の諸問題の解決に至るまで共に知恵を絞って、 まさに手とり足とりのアドバイスをしている。
これも松木さんのお言葉だと思うが、 「ベンチャーキャピタルは“育業”」とおっしゃっていて、私自身、 この言葉を聞いて、目からウロコが落ちた気分であった。 現在のような厳しい経済状況の中では、 松木氏のようにアントルプレナー達の“コーチ”となれるようなベンチャーキャピタリストの存在が必要不可欠だと思う。 このようなタイプのベンチャーキャピタリストは、 今の日本に、どれくらいいると認識なされているのか。
わが国のベンチャーキャピタルは金融機関や事業法人系列の法人が圧倒的に多い。 従って、米国などと比べると個人として活躍しているベンチャーキャピタリストが少ないということは、全くその通りである。 松木さんのような方は、まだまだ少数派であると、我々も理解している。
ただ、25年かかって、ベンチャーキャピタルの中の人材は着々と育ってきている。 これからは、松木さんの“育業”という考え方を持っているベンチャーキャピタリストも増えてくるのではないかと思う。
確かに増えてくるだろう。しかし、松木さんのようになりうる方でも、 いきなり「今日から私がベンチャーキャピタルです」と言って、 そのままで通用するわけではないので、研鑽を積まなければならない。そうすると、 やはりベンチャーキャピタルが育っていく上でのよき指導者が相当数いなければ、 ねずみ算式に増えていくにしても増え方のスピードは非常に鈍いと思う。 松木さんのような方は極めて少ないというお話だったので、 そのまま自然の手に任せていて、それで間に合うのかという感覚を持ってしまう。 松木さんのような、 いわゆる米国式のベンチャーキャピタリストを育成する上で何か研修を行うとか指導するとか、 そのような積極的な行政の取り組みというのは、考えられないのか。
通産省政府委員 大変残念だが、日本には確かにベンチャーキャピタリストを育て上げる機会、 風土がない。ただ、私共が必ずしも悲観していないのは、 現在ベンチャーキャピタルの企業から独立した人材が続々と輩出しているからである。 したがって、一概にわが国にベンチャーキャピタリストが少ないとか、 可能性が低いとは思わない。
だが、残念なのは、松木さんは、 実は日本ではなくアメリカに投資事業組合をつくって日本向けの投資をしているということである。 日本では、無限責任に基づいていた組合制度が活用できない、 またその制度がこういった状態にあるために、 ベンチャーキャピタリストが育っていかないという事実もある。 この法案を成立させて頂ければ、 ベンチャーキャピタリストが日本で成立して幅広い投資家から資金を仰ぐことが可能となり、 またわが国のベンチャーキャピタリストが今後とも経験を重ねながら、 日本の中で能力を高めていくことができるのではないかと期待している。
しかし、国がベンチャーに対して、手とり足とり指導するというのは、難しい。 できるだけ自主的な世界で、 ダイナミックなベンチャーキャピタルが育つ “環境”をつくっていくのが私共の役割だと認識している。
“環境整備”という意味では、今回の法案は、 非常に大きな一歩であると私も評価している。 “手とり足とり”はなじまないと言っても、例えば、 通産省の肝いりで各道府県が設立しているベンチャー支援財団というのがある。 その支援内容を見ると、主に資金提供面でベンチャー支援にとりくんでいたが、 こちらを抜本的に改革強化して育成・指導とか情報提供を行えるようにしては、 いかがか。こうしたことは、民間からも要望が上がっているようだが、 この考えについてどのような見解をお持ちか。
通産省政府委員 ご指摘のベンチャー財団だが、単なる資金供給にとどまらず、 経営面での様々なフォーローアップができる財団として設立された。
実は、先程の“手とり足とりの指導”とは、この財団に期待されている事業である。 しかし、もっぱら投資先企業に対してベンチャー財団から公認会計士とか技術士とか専門家を派遣して、 会計事務、会計の基本を指導して頂くという意味での指導である。経営面、 あるいは技術面でのサポート体制をこの財団を通じて強化していくという点については、 私共も力を入れてやっていきたいと思っている。因みに、アメリカの場合は、 企業の経営者が現役でなくなったとき、特に“地元の企業を育てる”という観点から、 ボランティアで経営の指導していると伺っている。 日本ではそのような企業文化がないので、 ベンチャー財団を“ベンチャー企業を育てるための仕組み”として、 効果的な役割を果たせるように国としてもバックアップしていきたい。
日本も高齢化社会になり、会社を経営するスキルをお持ちでありながら、 リタイアしている方は増えてくると思う。必ずしもボランタリーでなくてもいいが、 そういう方がベンチャー支援のプロのとして、 支援財団に雇用される等といった循環ができると大変素晴らしいと思う。 より一層そのベンチャー財団の質の向上、幅の拡充に努めていただきたいと思う。
では、ここで店頭市場についてお尋ねしたい。 成長段階にあるベンチャー企業に対して、資金供給を円滑化させるために、 やはり店頭市場の活性化は非常に大事な要素だと考えている。 通産省でも店頭市場研究会を発足させて、対応策に取り組まれていると伺っている。
ただ、現状を見ると、店頭市場は昨年のから引き続いて著しく低迷している。 取引所市場より更に下回っていると聞くが、今の市況は、 実際どのような状況になっているのか。
私共としても、店頭登録市場というのは、 ベンチャー企業を含める新規産業あるいは成長産業に対する資金供給の場として、 非常に重要な役割を果たすと思っている。
しかしながら、最近の動向を見ると、例えば株価について、昨日の株価を見ると、 昨年の初めの水準から比べると4割くらい下がっている。あるいは売買高を見ると、 昨年一年間の一日当たりの平均売買高は、一昨年に比べると割くらい下がっている。 畑先生のご指摘通り、店頭市場は最近活発でない。
その原因については、例えば、この間株式市場全体が低迷していること、あるいは、 投資家がリスクを回避する傾向が非常に強まってきているということなどが挙げられる。 取引所に比べても活発になってないという面については、 店頭登録されている企業の中には、 中小企業でもサービス業、流通業といった業種が多いので、景況、 経済の状況に左右されやすいという点が挙げられる。それから投資家の方を見ると、 店頭市場というのは個人投資家が多いから、 やはりこれも経済のマインドに左右されてしまうということが挙げられるだろう。
私共としても、冒頭申し上げた通り、 店頭市場は非常に重要な役割を果たしていくと思っている。 現在、国会に店頭市場の位置づけの見直しを含めた金融システム改革法を提出して、 これを早期に成立させていただきたいと思っている。 店頭市場を管理運営している日本証券業協会の方では、 店頭市場においてマーケットメイク機能をいろいろ整備して行くという話を進めているところである。
大蔵省の方からご説明をいただいたように、 確かにそれだけの下げがある背景というのは、様々な要因があると思う。 そうしたことに加えて、店頭市場の構造的な問題を指摘する声もある。 先程の通産省の店頭市場研究会のリポートを読むと、 マーケットメイク自体が行われてないのではないかという指摘がある。 確かに、相対取引自体がないのでは難しいという感じは受ける。特にベンチャー支援、 活性化という立場から、店頭市場に構造的な問題があるか、 対策が講じられるかということについて伺えるか。
通産省政府委員 ご指摘の通りである。私共も、店頭市場の活性化のためには、 ご指摘のあったマーケットメイク機能の強化、 つまり証券会社が自分で売値や買値を提示して、 直接他の証券会社との取引を活発にするということが重要だと考えている。 ただ、残念ながら、現在の状況を見ると、マーケットメイクのための環境整備は、 まだ不十分である。これを改善するための具体的な措置、 例えば、証券会社による気配値の発表、現在は週2回だが、毎日やっていただくとか、 あるいは余りに投機的な価格が設定されないように、 いわゆる買い気配値と売り気配値の間を余り広げないようにするとか、 そういった具体的な制度整備が重要であると考えている。
通産省としては、実際に店頭市場で資金を調達する人の立場に立ち、 こういった環境整備の早急な具体化を関係機関や関係省庁に積極的に働きかけていきたいと考えている。
もし今の通産省の方の御答弁につき、大蔵省からもご感想などがあれば、 補足していただきたい。
大蔵省説明員 マーケットメイク機能の強化という点について、 日本証券業協会において「これからどういうことをすべきか」 「マーケットメイク機能を発揮するための環境整備」に努めていきたいと考えている。
ただ、マーケットメイクというのは、 証券会社が商売としてやっていくものであるので、 その点については十分配慮していく必要があると思っている。
さて、これまでの話には出なかったが、日本店頭証券株式会社、 実態を見るとこちらの方がほとんどミニ取引所のようになっていて、 99%近い證券会社の取引を取り込んでいるという話もある。 事実上相対取引が行われなくなってしまうと、 いろいろご指導いただいても機能しないところもあるかと思う。 是非マーケットメイクが更に盛んになるようにご指導いただきたいと思う。
これまで、いろいろとベンチャーについて伺ったが、 ベンチャーを育てようとしている経済団体などに、 「ベンチャー支援のために、“これだけは直してほしい”ということは何か」 と質問すると、 異口同音に返ってくるのは、「最高税率を下げて欲しい」という言葉である。
根幹に触れる問題であるが、例えば、汗水垂らして夜も寝ないで働いて、 大きなリスクを背負って、やっと1億円稼いだ。ところが、 そのまま6500万円を税金で持っていかれてしまう。 それなら、いっそサラリーマンになって重役になった方がいいかもしれない。 あるいはベンチャーをやる気概のある人なら、ボーダレスの時代でもあり、 なんのインセンティブもない日本から海外に出て行ってしまうかもしれない。 今、私くらいの世代からもっと若いところが中心のようだが、やめるか海外に出るか、 二者択一になっているのが実態だそうだ。
私としては、同世代、そして、 これから21世紀を担う世代が日本の中で生き生きとベンチャーを起こして世界をリードしていくような日本になって欲しいと願っている。 そういうことを踏まえて、今後の意気込みなど大臣にお言葉をいただきたい。
畑委員がお話しのように、 ベンチャービジネスがどんどん開業するようにならないといけない。今のように開業率、 廃業率が逆転しており経済規模がどんどん小さくなってしまうような状況を打ち破るためには、 どうしてもベンチャーの活躍が必要である。
ベンチャー企業の発展に必要なことは、大きく二つある。 一つは、リスクマネーを円滑に供給するということ、 その一つが今回の投資事業組合法の改正案ということである。 これにより年金資金といった広範な投資家からのベンチャー企業への資金供給ができるようになる。
もう一つは、人材の育成、同時に、先程もお話があったが、 多くの人材にベンチャーの仕事に意欲を持って取り組んでもらうという点である。 この点では、 ストックオプションという制度(仕事に取り組んで来た人への成功報酬的な制度) をつくりあげたことで、大きな意欲を持たせることができるのではないかと思う。
また、技術面とも関連するが、 大学の休眠している特許のようなものを活用できるような制度、 知的財産権の取得について、大学等技術移転促進法案でご審議賜ることになっている。
技術面、資金面、人材面を組み合わせて、 大きく成果が上がるようにしたいと考えている。ベンチャーキャピタルの問題、 育業の問題についてお話しいただいているが、 さらに視野を広げて、「指定がなかなか受けられない」、「金が借りられない」 という問題をも、迅速に解決ができるよう、通産省として取り組んで参りたい。
力強いお言葉をいただいた。是非頑張っていただきたい。