環境委員会(平成8年4月26日)

質問テーマ

[大気汚染防止法・島根県中海干拓事業・地球環境戦略研究機関]

質疑要旨

畑 議員

 きょうの議題の大気汚染防止法の改正案について一点お伺いしたい。 今回の改正案は、 今までは対症療法的というか被害が発生してから対策を打つという後追い型であったのに対し、 それを未然に防止する予防的な考えに立つものであり、 日本の環境行政にとってまことにエポックメーキングなことと思う。 ただし、それをどのように実効性のあるものにするかが最も肝要なところであり、 この改正案はやはり産業界や通産省サイドからの自主規制論の声に大筋従ったものと言えるので、 このままで果たしてどれだけ実効性があるかというところが疑問である。 ヒアリング等で、 今回は科学物質と健康に対する悪影響の因果関係についてのデータを蓄積していくための猶予期間と思っていただきたいとの説明を受けたが、緊急性が高いと特定された、 またはそう思われるものについてはやはりその時点で枠をはめるべきと思うがいかがか。

環境庁

 御指摘のように、例えばベンゼン等早急に排出抑制していくべきものについては、 附則において基準を設定しその遵守を求め、 またその事業者が十分取り組んでいない状況がある場合は、 勧告を求めるということで排出抑制対策を講じることとしている。 このように、改正法の枠組みの中で対応していくことにより第一歩を踏み出し、 今後効果が一歩一歩上がっていくものと考えている。

畑 議員

 本当に今回が大きな第一歩と思うので、 次に二歩三歩ときちんと踏み出せるように頑張っていただきたい。
 では次に、このたび島根県が全面干拓の方針を打ち出した中海の本庄工区干拓をめぐる動きについて御質問したい。 そもそもこの中海、宍道湖の干拓事業の計画を島根県が発表したのは昭和29年で、 実際に事業がスタートしたのはその5、6年後である。 当然その時期というのは、戦後の食糧増産政策から出発した干拓事業であったが、 昭和45年の減反政策が始まるとともにストップがかかり、 昭和63年に本庄工区の工事は農水省と島根、 鳥取両県の合意のもとに中断され現在に至っている。凍結決定後も、 その土地利用については国と県の間で協議が繰り返されていたようだが、昨年 3月には県が設けた土地利用懇話会が、結局1つの案には絞り込めないということで、 全面干拓、部分干拓、全面水域の三案を示した。 しかし、昨年の3月になって島根県の澄田知事が発表したのは、 全面干拓による農地としての利用案だった。 知事の説明では、将来の食糧不足の可能性を指摘され、 新しい形態の農業を行なう田園都市構想を打ち出されて今回の決定の根拠にされているようだが、その具体的な計画は、まだ示されていない。 この40年の間に時代は、 食糧増産から減反そして現在は世界的に環境保護ということが叫ばれている今日、 水質汚濁や景観破壊のリスクをも辞さずに、 来たるべき食糧危機に備えて農地の確保のためにこれだけの蛮勇をふるわれるというのは、 私の理解の域をはるかに超えている。伺うところによると、 松江市域だけでもこの10年間で約200ヘクタールの田畑が工場や宅地道路に転用され、 これに近隣の市や町を加えると400ヘクタールに及ぶ土地が転用されている。 なぜ現にある農地をつぶしているその一方で、わざわざ自然環境を破壊しながら、 また多額の費用を投じながら農地を作るのかぜひ私にもわかるように御説明いただきたい。

農林水産省

 平成5年に閣議決定された第4次土地改良長期計画において、 多様な農業生産の展開を図り、国土資源の効率的な利用に資するため、草地の造成、 既耕地の整備と一体的な農地の造成を行うということを入れており、 平成5年度以降の10年間において農用地約10万ヘクタールの造成を行なうことにしている。 このようなことから、一般的なことではあるが干拓事業は平坦かつ大規模な土地を造成するということと、 意欲のある農家による生産性の高い農業、 収益性の高い農業を実現するための有効な事業と考えている。 ただし、この中海干拓事業の本庄工区については平成8年3月に島根県知事から工事再開の要請を受けたが、 平成4年の島根県知事と中・四国農政局長との協議内容を尊重した上で今後の事業の進め方について決定したいと考えている。

畑 議員

 今の御説明では私には全く理由がわからない。 では、どうしても干拓が必要であるとして、 環境面での影響についてきちんと調査され悪影響が出ないように配慮するのが当然のことと思うが、 干拓により中海の大根島の地下水に悪影響があるという報告がある。 また、この本庄地区は斐伊川水系の海への玄関口にあたり、 ここをふさぐのは江戸時代から続いている干拓の大原則に余りにも反しており、 常識的に考えておかしいのではないか。これは憶測かもしれないが、 大根島と江島をそのまま利用し干拓の堤防として使えば安上がりですむのでこうした設計が行われたのではないかと思われる。 しかしこの島々というのは、堤防のかわりにしてはいけない岩石、 要するに水がたまりやすい、中に穴のある、または割れ目が多い岩質となっている。 このような様々な問題がある中、 とにかく調査の結果がどうなっても干拓は実行すると知事は言われたようだが、 これに対する反対派の陳情を受けられて、 湖沼法に基づいて水質の追加調査をきちんと行なうことを大前提として欲しいというコメントをされた環境庁としては、 これらのことをどのように受けとめられているのか。

岩垂 環境庁長官

 中海はその湖沼法の指定湖沼になっており、 水質保全対策が幅広く進められてきたが、状況は依然としてはかばかしくない。 そこで、この水域における大規模な干拓事業については水質への影響というものを神経質にとらえ十分に対応して欲しいとまず申し上げた。 そういう立場に立って、島根県の実施した水質予測事業の内容を検討したところ、 非常に不十分なものと判断せざるを得なかった。 そこで、こういう点の調査を是非して欲しいということをお願いしたので、 環境庁としては、島根県がこれらの要望に対して誠実にこたえていくことを期待し、 農林水産省もその点は当然のことだという前提で島根県と御相談をいただけるだろうと思っている。

畑 議員

 どうしても干拓をしなければならないのであれば、 せめてそこのところは農水省の方々、そして県の方々、お聞き届けいただきたい。 ただ、環境保護という点で大変なリスクを冒して行なうこの干拓だが、 それが完成した暁にせっかく造成した農地が果たして実際に売れるのかどうか、 つまりそのリスクを上回るベネフィットがあるのかどうかが一番の問題と思う。 既に干拓を終えた同じ中海の安来工区では50%以上、揖屋工区でも15%もが売れ残っている。 また、本庄工区を全面干拓した場合、島根大学の保母教授の試算によると、 農地価格は土地利用懇話会で採算が合う限度とした10アール当たり133万円の3倍に当たる384万円にもなる。 そうすると当然多額の助成金が必要になり、 県財政を圧迫することは必至と予想される。 それでもなお全面干拓し土地利用にこだわる理由を再度農水省の方にお聞きしたい。

農林水産省

 先ほど申し上げたとおり、 平成4年の島根県知事と中・四国農政局長の協議に基づき5年間工事を延期していたが、 昨年の12月から島根県の方で調整され、 地元の市長、県議会それぞれ島根県知事に同意されたということで、 最終的に全面干陸、農業利用ということで中・四国農政局長に再開を要請された。 この要請を受け本庄工区の進め方について両者で協議しながら結論を出していきたいと考えている。

畑 議員

 とにかく現状に即した、時代のニーズに即した、 そして何よりもそこに住んでおられる方々の暮らし、 生活に根差した行政を行っていただきたいと思う。
 それでは、 次に環境庁が設置を目指されている『地球環境戦略研究機関』について伺いたい。 これは条約に基づく独立した国際機関として専任の研究スタッフ100人、 年間の研究費が50億円という大変大規模な事業である。 私も大変期待しているが、どうしても日本の学問や文化の施設というのは外枠を作るとそのまま安心してしまうところがある。 特に、研究機関となると理念やポリシーがはっきりしないと、 なかなか既存のものに対する独自色を出すことが難しいと思う。 また、この地球環境の分野というのは、例えばオーストリアの 『国際応用システム解析研究所』等さまざまな機関が既にあるので、 独自色を出しさらに陵駕するものをつくっていくのは並み大抵のことではないと思うが、 まずその特色を伺いたい。

環境庁

 この構想は、実はまだ4月12日に加藤一郎先生を座長とする学識経験者の懇談会から御提言をいただいた段階で、 具体的な事務的詰めはこれからというのが正直なところである。 この提言では5つの特色が挙げられており、第1番目は総合的でなければならないということ。 これは従来ともすれば、 自然科学的、技術的な研究に偏りがちだったという点を反省し、 今後の文明のあり方までを考えると総合的な研究が必要であるということ。 第2番目は新規性で、やはり新しい枠組みを今後つくり出していこうということから研究自身も新しいものであるということを追求していく必要がある。 第3番目は国際性で、地球環境問題であるので国際的な協力を想定した考え方が必要であるのは当然だが、 特にアジア地域ではヨーロッパの研究機関のようなものがないので、 アジアを発信地域とする研究機関があることは非常にいいということを強調しながら国際性ということを主張している。 第4番目が公開性ということで、市民なり企業、学生、いろいろな方が幅広く参加できるような形の研究機関を考えていくべきであるという点を挙げている。 最後は独立性ということで、政府機関ということになると立場が限られ、 あるいは特定の企業、団体の立場を堅持すると偏ったものになるので、 そういうものから独立した形の研究機関とせよと。 そういう意味ではかなり新しい形の研究機関を提唱している点が特色かと思っている。

畑 議員

 まだ検討中であるということで、お答えにくい点が多々あったかと思うが、 マスコミ等の発表によると来年度内の開設がめどということなので、 もう少し具体的なところも詰まっていないとちょっとスケジュール的に難しいのではないかと思われる。 また、最初に理念、ポリシーと申し上げたが、 これを裏打ちするのはやはり情熱であり、そしてそのような理念、 情熱ということを具現化していく原動力は何よりも“人材”だと思うが、 いかに優秀で情熱あふれる人材を確保していくかがその研究機関の成否を握ると思う。 しかし、実際そうした望まれる人材というのは各機関から引く手あまたで、 さまざまな設備が整っているところ、 また研究成果が既に上がっているところに行ってしまうという状況がある。 その中で、なおかつ新しくつくる研究機関がよりよい人材を求めるとなると、 さまざまな人材ネットワークであるとか人材バンクというようなものをあらかじめ準備しないと非常に難しいと思うが、 この人材対策についてはどのようにお考えか。

環境庁

 この構想の具体的な詰めを今後行っていく過程において1つの大きな問題は、 国連機関という形ではなく、 いくつかの国の条約なり協定に基づく国際機関という位置付けを想定した場合、 当然この構想に同意し一緒にやっていこうという国を探し当てていく作業がある。 もちろん、この懇談会の先生方自身が検討の過程で幾つかの国の研究者と話をしたり調査に行った時に、 前向きな感触を得ている向きもいくつかあるが、 具体的に国と国の関係ということになると正式なアプローチが必要である。 しかし、そうなると環境庁だけでなく外務省はじめ関係省庁と合意の上、国と国との間の話し合いができて設立の準備が具体的に動き出すということなので、 現時点でかなり流動的要素がある。 また、御指摘のとおり懇談会の先生方も、この機関が生きるも死ぬも、 まさに優秀な人材を各国から招致できるかどうかにかかっていると言われている。 我々も各国の一流研究者に喜んで来ていただけるようなものにしないとあまり意味がないというぐらいに思って準備している。

畑 議員

 ぜひ頑張っていただきたいと思う。 では最後に、その意欲のほどを岩垂長官に一言お伺いしたい。

岩垂 長官

 欧米の国際的に権威のある研究所がそれぞれ特徴を持った研究を続けている中で、 このような研究機関をつくりあげていこうという御提起をいただいた背景には、 特に公害対策の面でのさまざまな経験から自然科学や技術というレベルでの研究というのは確かにある程度進んできたと。 しかし、21世紀に向けて人間の生きざまともいうべきものを、 いわゆる現代の文明論という観点からとらえて対応していくという時代が来ているのではないかというようなことを、 梅原猛さんなどの研究者の皆さんに御指摘をいただいた。 それを日本でやるとすると、日本の公害を乗り切って今日まで来た経験や問題点、 また教訓というものを次の世代につなげていくということだけでなく、 もっと国際的にその知見を広げながら対応していくという研究機関があることが望ましいという議論にたどり着いた。 そして、アジア地域での、 ある意味でいろいろな共通点を生かした共同の研究機関が日本にできるとするならば、 日本の国際貢献は新しい意味でのフロンティアを持ち得るだろうという感じがしている。 おどろくことに、全国20ぐらいの県あるいは市から誘致の手があがっており、 地域社会でも環境問題に対する関心が非常に広まってきているということに非常に感動している。 そういうことで、この機能が大きな役割を国内外で果たすことを期待しており、 皆さんのお力添えをぜひお願いしたい。