外務委員会(平成8年3月28日)

質問テーマ

[従軍慰安婦]

質疑要旨

畑 議員

 現在ジュネーブの国連人権委員会で論議されている旧日本軍による従軍慰安婦問題について伺いたい。 国連人権委員会の女性に対する暴力特別報道官ラディカ・クマラスワミ女史による報告書が示している日本政府に対する6項目の勧告に対する御見解をお尋ねする前に、 この報告書では旧日本軍がアジアの女性たちに強制した従軍慰安婦としての行為、 処遇について性的奴隷であると定義して、 慰安婦の女性や少女の誘拐及び組織的強姦は明らかに一般市民に対する非人間的行為であり、 人道に対する罪にあたるとしているが、この基本認識についてどのようにお考えか。

池田 外務大臣

 政府としては、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた大変悲しむべきまた重大な問題 であると認識している。 そういった意味でこれまでも従軍慰安婦として、あまたの苦痛を経験され、 今日に至るも心身にわたりいやしがたい傷を負っておられた方々に対して心からおわび申し上げ、また反省の気持ちを表してきた。 ただ、法的な観点からどうかということになると、 この問題を含めてさきの大戦にかかわる賠償あるいは財産、 請求権等の問題については、サンフランシスコ平和条約あるいはその他の二国間の平和条約等々に従って誠実に対応してきたと考えている。

畑 議員

 それでは勧告の内容について一つずつ伺いたい。まず第1番目に、 第二次大戦中に日本帝国陸軍が開設した慰安所制度は国際法上の義務に違反した行為であったことを認め、 この違反に対する法的責任を認めるべきであるという勧告が出ているが。

外務省

 その点については、先ほど大臣から答弁した通り、 さきの大戦にかかわる賠償あるいは財産、請求権等の問題については、 サンフランシスコ平和条約あるいはその他の二国間の平和条約、 関連の条約に従って誠実に対応してきている。

畑 議員

 2番目として、日本の軍隊による性的奴隷制の被害者個人に補償金を支払うべきであるという点についてはどうか。

外務省

 先ほど申し上げたとおり、常に誠実に対応してきていると考えている。 ただこの問題については、 歴史を直視し、関係諸国等との相互理解の一層の増進に努めていくこと、 あるいは我が国としてのおわびと反省の気持ちをあらわすことが適切であると考えている。

畑 議員

 3番目は、慰安所その他第二次大戦中の日本帝国陸軍の関連活動に関し、 所有するすべての文書、資料を公開すべきであるという点についてはいかがか。

外務省

 平成3年12月以来誠実な調査を行なってきており、 平成4年7月と平成5年8月の2回にわたりその結果を公表してきた。 関係省庁においては種々の資料を原則として公開するということで対処している。

畑 議員

 4番目として、旧日本軍の性的奴隷制の女性被害者として名乗り出た者で、 かつその旨が立証可能な個人に対し書面で公式の謝罪を行なうべきであるという点はいかがか。

外務省

 内閣総理大臣を初めとして、日本政府の最高責任者の方がこれまでもさまざまな場で従軍慰安婦の方々に対する真摯なおわびの気持ち反省の気持ちを表明してきた。 さらに政府としては女性のためのアジア平和国民基金を設立したが、 それが事業を実施する中で元慰安婦の方々に国としての率直な反省とおわびの気持ちを改めて表明することとしている。

畑 議員

 5番目として、歴史的事実を反映するよう教育課程を改定することによって、 こういった問題についての意識を向上させるべきであるということについてはいかがか。

外務省

 現在の学習指導要領において、 高等学校に近現代の歴史に重点を置いて指導する科目を設けるなど十分に配慮している。

畑 議員

 6番目ですが、慰安婦募集及び慰安所開設に関与した者を可能な限り特定し、 処罰すべきであるということについてはいかがか。

外務省

 それについては、特別報告官自身も国が係わる国際法上の一般的な義務を負うものではないということを報告書の中で述べている。 また、犯罪の成否については個別に法と証拠に基づいて判断すべき事項なので、 この点について一概に申し上げるのは難しい。

畑 議員

 これまでの御答弁の中に誠実、真摯という言葉が何度も出てきたが、 もしそのとおりに実行され遂行されているのであれば、戦後50年たった今、 クマラスワミ報告の中で恐らくこのような勧告が行われる必要そのものがないと私には思われる。 国連の場で同じように返答されると仮定して、 世界各国から理解と同意を得られるか疑問である。 もし政府の立場がこのまま変わらないのであればなおさら世界を納得させるような論戦をきちんと展開できるような準備を進めていくべきと思う。
 では次に、国際労働機関、ILOの条約勧告適用専門家委員会において、 この従軍慰安婦はILO第29号条約が禁止する強制労働に当たるかどうかについて、 「こうした行為は、条約に違反する性奴隷として特徴付けられる」 という意見が表明された。 同じ委員会が、 申し立てが事実ならという条件付きではあるが「救済は政府のみが与え得る。 当委員会は当該政府がすみやかに適切な配慮をすることを希望する」 と日本政府への要望を表明しているが、どのような御見解をお持ちか。

外務省

 従軍慰安婦の問題がILOでいうところの強制労働に該当するかどうかは難しい問題かと思う。 ただ、この件が第29号条約上の義務違反かどうかを論じるまでもなく、 先ほどから申し上げているとおり賠償、財産請求権の問題を含めサンフランシスコ平 和条約等に基づき誠実に対処しており、 そういった意味で条約的、国際法的には当事国との間では既に法的には解決済みの問題であると考えている。 この点については条約の相手方の当事国も同様の立場であると考えている。

畑 議員

 この点について問答を繰り返しても恐らく同じ答えしか出てこないと思うので、 少しだけ次のことを御紹介したい。
 去年韓国で作られた従軍慰安婦に関するドキュメンタリー映画「ナヌムの家」が日本で公開される。 この種の問題を扱っているにもかかわらず、決して告発型の映画ではなく、 実に淡々と、時にはほのぼのとしたぐらいのトーンでかつて従軍慰安婦という過酷な運命を強いられた女性たちの現在の生き様と、 そしてその胸の内に秘められた思いというのを伝えており、 是非一度実際に見てどういうことが行われたかということを知ってもらうことも大切かと思う。 その監督がビョン・ヨンジュさんという女性で、先日来日され記者会見をされたが、 慰安婦であった女性たちから日本に行ったら必ずこれだけは伝えるようにと言われたことがあるとのことだった。 それは民間基金は絶対に受け取らない、この思いを伝えて欲しいということで、 なぜかというとこの方々がこだわっているのはお金ではなくて何よりも「名誉回復」 であるということをくり返し言われていた。
 この民間基金というのがアジア平和国民基金のことで、 これが誠実な意味で作られたというのも事実だと思うが、 その一方で国家責任を回避する術として作られたのではないかという意見もかなり国内外にあり、反発がある。 先ほどの韓国の、実際そうした運命を強いられた女性のみならず、 北朝鮮、台湾もこの基金について反対の見解を表明をしている。 政府としてはこれらの声をどのように受け止めておられるのか。

外務省

 アジア女性基金に対して内外に批判があるのは言われるとおりだが、 我々および基金の関係者が現地の人々と対話したりPR活動を行なっている過程で得た情報、感触ではその当事国で国あるいは政府として反対されているということは聞いていない。 ただ、この問題を熱心に追及しているNGOの中、あるいは元従軍慰安婦御本人の一部の中にいろいろな思いから反対、批判をされる方があるということを十分に踏まえ て対応したいと考えている。

畑 議員

 私は2月17日付の朝日新聞夕刊で、 駐日経済文化代表処が取り寄せた公式文書で台湾が反対の見解を示していることが明らかになった、 という記事をもとに発言しているのだが、この記事は誤報ということか。

外務省

 その記事は我々も見たが、政府のルートで接触している限りではそのようにはっきりした反対を決めているということではないと理解している。

畑 議員

 この話は水かけ論になってしまうのでこの程度で止めたい。
 ではアジア女性基金そのものに話を戻すが、 実は私もこの基金に大変わずかではあるが参画している。 ただ、参画したことによってこの基金に反対する立場の方々からどういう考えなのかという批判もまた受けている。 個人的なことを言って恐縮だが、私としてはこれに参画しているのはベストチョイスではなくあくまでも次善の策であると考えている。 国家による謝罪と政府からの補償をあきらめたわけではなく、 そこにこだわっていると既に80才を超える方々が多くおられるので、 その方が一生を終えられた後に解決を見るのでは意味がないのではということで、 せめてもの償いの気持ちを伝えるという意味で参加している。 決して少なくない方がこのような考えを持たれており、 アジア女性基金を作ればそれで問題は解決するというのではなく、 そこから一歩も二歩も進んで、国や政府による本当の意味での誠実な対応を求めていることを忘れないでいただきたい。
 さらには、3月14日付の毎日新聞の夕刊に、 この基金の呼びかけ人である三木睦子氏、大鷹淑子氏、大沼保昭氏の3氏による共同論文が取り上げられており、 政府がこの基金の設立に当たり呼び掛け人の方々に約束していたことが遂行されていないのではないか、という不信感が高まっていることが掲載されている。 そのまず一点目は、 政府首脳から財界への募金協力への働きかけがほとんどされていなかったために、 全体として20億円必要だとしていた基金がまだ1億8千万円しか集まっていないという点。 もう一点は従軍慰安婦制度解明に向けての調査研究を進めるという約束が遅々として進んでいないという不満、不信が募っているという点。 両点についてどのようにお考えか。

外務省

 この基金の運動に関与しておられる方々の中にはいろいろな考えの方々がおられる。 基金が最終的な目的と考えている方もおられれば、 国が何か行なうまでのキャンペーンだという方もおられる。 政府としては先ほど申し上げた立場のとおりですでに解決済みと考えているが、 政治的、道義的責任も感じ、 国民の方々といろいろとこの問題に関する知識や考えを分かち合いながら進めていこうと考えている。
 また、毎日新聞への投稿の件は、我々も十分に御本人たちと話し合いを行っている。 政府首脳を含めて、この投稿にあるような何もしないということは決してなく、 この3人の方々には個々に御説明しているが、 呼び掛け人の方々に情報が行っていないというところが我々の反省材料としてある。 今の橋本総理、梶山官房長官を初め、発足からの経緯を考えると村山前総理、 五十嵐あるいは野坂官房長官が財界、労働界の方に働きかけている。 ただし、残念ながらやっと最近理解が進み出したところで、ペースが当初予定していたより遅いのは確かだが、 今のところ5億円まではメドが立っている。 それ以上にするために今努力しているところだが、 何とかことしの半ばごろまでには一部の国、 一部の方々なりともこの基金の支払いができるよう、 資金面でもまた対話の面でも努力したいと考えている。 調査研究については、今まで発見された公文書等調査結果はプライバシーの点から特に問題があると思われる場合を除いては全て公開してきている。 今後も資料が発見されれば、その公開の原則に従って対応していく。

畑 議員

 この論文の中にもあるが、 「政府の担当者の中には熱心に努力して下さる方もあります。」 ということで、この3人の方々も政府担当者の方々の苦労はよく理解されている。 ただ、それに続く「しかし、問題は個々の官僚レベルの話でなく、 政府の最高責任者の政治的意思です。 日本の名誉を少しでも救う鍵は政府の決断にあります。」 とあり、やはり最高責任者の高度な政治判断、 意思に対する期待というのが非常に大きいという内容である。 私はこの論文は、決してこの3人の方だけの声ではなく、 この問題に取り組んでいるすべての方々の思いを代弁しているものだと思うので、 ぜひ大臣から今後さらに誠実にこの運動を進めていくに当たっての御決意をいただきたい。

池田 外務大臣

 この問題については、 政府としてもあまたの女性の名誉と尊厳を傷つけた大変な問題だと認識し、 機会あるごとに心からおわびと反省の気持ちを表わしてきた。 しかし、それにもかかわらず我々の誠意というものが酌みとってもらえない。 それは、それだけ心身にわたり受けられた傷が大きかったからかと思う。 そういったことを踏まえ、国としての法律上の権利・義務の関係は先ほど来答弁しているとおりだが、 それはそれとしてこれからも政府として誠意のある対応をしていかなければならないと考えている。 そのようなことから、女性のためのアジア平和基金を設立したのだが、 いろいろな御批判をよく踏まえながら、 どのようにこの基金の事業を進めていけば少しでもその目的とするところに近づき、 我が国政府の誠意あるところが御理解いただけるかを考えながら全力をつくしていきたい。

畑 議員

 もちろん傷の深さがあまりにも深過ぎて伝わらないというところもあると思うが、 その御本人たちが求めておられるのと違う方向に幾ら思いを働かせても届かないと思うので、 あちらが何を求めているのかというところにぜひ誠実に耳を傾けて対応していただきたい。