外務委員会(平成7年12月12日)

質問テーマ

[新防衛大綱・APEC]

質疑要旨

畑 議員

 きょうは、先月の末に出た新防衛大綱について御質問したい。 今回の大綱は、自衛隊の規模のスリム化、質のハイテク化等さまざまな特徴があるが、 やはり一番の特徴は日米安保体制の運用強化と思われる。 しかし、実際に運用強化を実施に移そうとするとまず問題になるのがACSA(物品役務融通協定)、 これを締結するという問題が起きた場合にどうするのか、 これについて大綱の中になぜ明記されなかったのか。

防衛庁

 防衛大綱の「我が国の安全保障と防衛力の役割・日米安全保障体制」の中に 「日米安全保障体制の信頼性の向上を図り、これを有効に機能させていくためには」 ということで4つ掲げている課題の2番目で 「共同研究並びに共同演習・共同訓練及びこれらに関する相互協力の充実等を含む運用面における効果的な協力体制」 というところで具体的にACSAのことを考えている。

畑 議員

 ということは、ACSAについては実施に移していくと理解してよいのか。

防衛庁

 防衛庁としては、外務省とも協力しACSAについての新しい協定あるいはそれに関連する法令について、 現在政府の中で検討・準備を行なっている段階である。

畑 議員

 ではもう一歩踏み込んだ質問として、 米国側はかねてから緊急事態における日米間の相互支援体制の強化を主張しているが、 この問題の一番の根幹である、 つまり有事の際の集団的自衛権についてはどのような見解をお持ちか。

防衛庁

 集団的自衛権に関しては国際法上、 国連憲章第51条によりそれを有しているのは明白だが、 現憲法のもとでは自衛権の行使は我が国に対する急迫不正の侵害を排除するためとられる必要最小限のものであり、 個別的自衛権の行使に限られ、集団的自衛権の行使は認めていないと解している。 それをベースにこの防衛大綱は作られている。

畑 議員

 現在新進党においても自民党においても集団的自衛権についての議論がされており、 また、議論を深めるべきであるという認識で一致しているが、 論議もされないでこういう防衛大綱がでることは少し現状の認識に乖離があると思われるが。

防衛庁

 今回の防衛大綱の「防衛力の役割」の中で「大規模災害等各種の事態への対応」 というところに「我が国周辺地域において我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態が発生した場合」というくだりがあるが、 そこの関係でそのような問題がこれから議論されなければならないと考えている。

畑 議員

 以前官房長官が集団的自衛権の行使のように憲法上許されていないとされている事項について、 従来の政府見解に何ら変更がないのは当然と言われており、 今の御答弁とかなりニュアンスが違うと感じるが、 本当に論議するつもりがあるのかないのかということをもう一度伺いたい。

防衛庁

 現在の憲法のもとで集団的自衛権は行使できないということについての考え方は何ら変わるものではない。ただ、いろいろの具体的な施策を考える場合、 これが集団的自衛権の行使、不行使にどのようにかかわってくるのかという問題はまだ研究しなければならない課題が多くあると思っている。 そういう問題については、これから検討されるべきであると考える。

畑 議員

 是非前向きに、 オープンにまた与野党を問わず議論できるベースを作っていただきたい。
 では次にAPECについてですが、 自由化の行動指針がまとめられたというのは非常に評価すべきことだと思うが、 行動指針自体非常に多くのあいまいさを含んでおり目標達成までの具体的スケジュールを詰めずに先送りしたという印象が強くある。 実際『ウォール・ストリート・ジャーナル』の評価では、 「あいまいな官僚用語の代表作」という表現をしているし、 フランスの『ル・モンド』紙は「農業分野の扱いが将来の対立を生むのは明らかで、 APECが勢いを失うのは避けられない」というコメントを出した。 今回の会議のテーマは“構想から行動へ”だったかと思うが、 この“行動へ”という部分はどうだったのかについてお聞きしたい。

外務省

 合意された行動指針をあいまいかつ問題先送りと解釈することも可能だと思うが、 18の非常に国情の異なる国が一致して自由化に向かって第一歩を進めるために必要な前提は何かということを考えたときに、 やはり今回のこの行動指針が一番現実的で実効性があるという解釈もある。 今たまたま『ウォール・ストリート・ジャーナル』と 『ル・モンド』の論評の紹介があったが、 大半の新聞の評価は日本はよくやったというものであり、 立場によって解釈の違いはあると思うが、 APECというのは現実的に一歩一歩前に進んでいくことが重要だというのが我々の考えである。

畑 議員

 APECがどういう場所かと考えた場合、 自由化という山頂へ向けての山登りのようなものと解釈している。 例えばアメリカのようにメンバーそれぞれの体力をあまり考慮せず、 とにかく一刻も早く登頂を目指すということに突き進むとパーティーはばらばらになってしまい目的自体が達せられないので、 今の御答弁は確かにその通りだと思う。 ただおのおののペースで無理なく登ろうということになれば、 やはり山登りは苦しいので本当に山頂まで登り着けるのかという疑問が出てくる。 そうなった場合APECの中でリーダーシップを担っていかなければならない日本は、 リーダーとしてみんなを引っ張っていくのだ、 これだけ痛みを負ったのだからみんなも頑張ってくれという態度をこれから見せていかなければならないと思うが。

外務省

 今回の行動指針の一般原則の中には同等性の原則というものも入っており、 できるだけ各国のコミットメントというものに同等性があるようにみんなで配慮していこうということになっている。 また、行動指針の中に枠組みというものがあり、 今後各国が国別の行動計画を準備していく過程においてその内容を互いに協議していく、 あるいは実施後にレビューするという形で何らかの協調的なペースが生まれるように配慮するということを工夫している。 また、日本は今回議長国として行動指針をとりまとめるのに随分努力したので、 当然今後のフォローアップにもできるだけの努力をするつもりである。

畑 議員

 最後に大臣の方からこの件について一言お願いしたい。

河野 外務大臣

 来年フィリピンで行われるAPECには、 今回のこの行動指針に基づいて我が国も我が国なりの行動計画を持っていくことになる。 それは2010年、2020年までの計画を持って行くという人もいるかもしれないが、 当面この2、3年はこういうことを行う、 こういう分野でこういうことを行うというものをそれぞれの国の判断で持ち寄るということで、 その翌年もまた同じように、毎年これだけの努力をした、 これだけの努力をするということをお互い言い合おうということである。