質問テーマ
[生物多様性国家戦略・東京湾横断道路]
質疑要旨
畑 議員 まず、昨日関係閣僚会議で決定された「生物多様性国家戦略」について伺いたい。 一昨年の十二月に発効した生物多様性条約に基いて策定されたものであるが、 全文117ページ余りのその大半は、 各省庁による自然保護関連の現行施策の列挙の域をでないことに失望を禁じえない。 仮にも「戦略」というのなら、まず、現状分析とその評価ということで、 日本の自然のこれまでの変貌の実態と生物の多様性を減少させてきた原因の解析が必要である。 そして、それに基づき、 個々の問題点につき具体的な処方箋=戦略が示されるべきである。
しかし、そうしたこともなく、現行施策の紹介に終始している。 つまり政府としては生物多様性条約の履行にあたっては従来の土地利用の制度と管理方法で十分とお考えか。 現在、日本列島だけでも110種の動物と147種の植物が絶滅の危機に瀕している。 にも拘わらず、この「戦略」でこれらの生物が救えるとお思いか。
早速にその分厚い本を読んで頂き、感謝申し上げる。 絶滅の危機にある生物を救えるかというご質問に対しては、 残念ながらトキが難しい状況にある。 しかし、トキ以外のものについては守りきれると考えている。 また「戦略」というものは、まず目的というものを明確にする必要があり、 そしてそれをどのように守るか提示するものである。 さらにそれを実践に移すのは戦術である。今回初めて「国家戦略」を作成したが、 この段階で必要なのはまずいろいろな方面に今後の方針として理解して頂くことである。 その上で現在の法律を最大限に生かす等、努力を重ねていくことになる。
我々は250種に限らず、もっと多数の動植物について調査し、 データを管理することを考えている。 さらにそれをどう具現化していくか勘案中である。 こうした段階もまた必要と思う。 今後ともご理解とご協力をお願いしたい。
トキ以外は全て守れるというのはとても力強いお言葉である。 しかし、私はお言葉の中の「現在の法律を最大限生かす」という考えについて、 それではとても実現不可能ではないのかと思う。開発を主な目的とした森林法、 河川法等国内法やリゾート法の改正を行わなければならないのではないか。 改正は予定していないようだがこの点についてはいかがか。 環境庁は「戦略に法改正を盛り込むと、調整に時間がかかりすぎる」 からだと説明するが、 具体的な実効性のある行動計画であってこそ初めて戦略と呼べるのではないか。
環境庁この国家戦略については取りまとめに当たった関係省庁連絡会議において毎年実施状況の点検を行い、 そうした各種取り組みが進められていく中で法改正の可能性についても検討するということになっている。
畑 議員点検、検討という段階の次の段階についてのお言葉を頂けないのはたいへん残念である。 しかし、法改正に至らなくても数値目標を挙げることは可能である。 また保護区の問題について種の保存法の中では「主要な生育地を指定するよう努め、 種の絶滅の恐れの回避に取り組む」というだけで、 では具体的にどうするのかという部分は示されていない。 例えばイギリスであれば、「2004年までに特別保護区の指定を完了する」 というような具体的な項目が条文に表われている。では、わが国の場合、 数値目標や保護区についてもう少し具体的な案を盛り込めなかったのか。
環境庁ご指摘の通りこの国家戦略の中に「保護区の指定」というのははっきりと唱われ、 我々も各種保護区の指定にむけ、努力をしている次第である。 現実の保護区の設定としては、 まず地方自治体、土地の地権者、利害関係者等いろんな方の同意が必要である。 経験上、ものによっては長い期間を要することとなる。 そういうわけで今回の国家戦略の中で具体的数値を示すことは困難であるということを理解して頂きたい。
畑 議員 本来なら関係省庁の方にそれぞれお答え頂くべきところを環境庁の方にお答え頂くことは大変恐縮だが、 だからこそ、これから環境問題に取り組むにあたっては環境庁のイニシアテイブを発揮して頂きたい。
もう一点この国家戦略について伺いたい。 国家戦略の策定にあたっては専門家や自然保護運動団体等、 一般市民の意見を十分に反映させることができていたのか。 原案作成後の8月11日に説明会が開かれたがそれに対する意見締切が8月25日であった。 つまり検討期間はわずか2週間である。 NGOからかなりの声があがったようだがこうした声をどう受け止めているのか。 事前になにか処置はできなかったのか。
今回の国家戦略の策定にあたっては今年の2月からかかった。 何分にも初めてのことであり、 生物多様性というなじみの薄い分野を対象にしているため、 原案のとりまとめに7月の末まで要している。 そして直ちに8月1日から意見聴取の手続きににはいり、 8月11日に説明会、19日にはもう一度説明会をもっている。 意見の締切については事実上、2週間以上延長している。 その後、10月下旬までに5回、そうした意見を公開する場を設けている。 聴く努力をしたということだけは何卒ご理解頂きたい。
畑 議員ドイツやノルウエーでは開発に関する各種の計画を生物多様性国家戦略の枠内で実行することを明言しているほどで、 生物多様性国家戦略自体のプレステージが高い。 やはり、日本としても国際的に評価され、なにより国民全体から共鳴される「戦略」 への見直し作業が肝要と思われる。そこで気になるのは文章中の見直しの項であり、 環境基本計画の中に「5年を目途として」と記されている点である。 環境問題は日進月歩で重要化し、深刻化している。 5年を目途というと長すぎると思われるが、どのようにお考えか。
大島 環境庁長官5年「程度」を目途として、その間に毎年関係省庁連絡会議を開いて検討会をやる。 その際、NGOの皆様の意見を聴く機会もあると思う。 我々、限られた役所の中では情報は大切である。 閉鎖的にならないよう気を配る所存である。 また初めての基本戦略であるので広く国民の皆様に理解して頂けるよう広報にも工夫を凝らしたい。 畑議員のご意見は貴重な意見と思うので、 どうかこれからもご理解とご協力をお願いしたい。
畑 議員 さて次に東京湾横断道の橋脚についてお尋ねしたい。 95,10,26付毎日新聞の夕刊によると東京湾横断道を建設中の日本道路公団が環境アセスメントを終えた後、 地元住民に説明のないまま橋脚の形を変更したとある。 当初、橋脚の形は橋脚一基につきコンクリート柱12~14本で支えるくし形の「多柱式」であった。 (1986年環境アセスを実施。この橋脚だと水の流れが良い)
ところが5年後の1991年、「地盤調査で干潟の地盤が弱いということが判明した」 という理由でコンクリート柱一本で支える「鋼管矢板井筒式」に変更、 昨年10月までに32基すべてを完成させた。 しかし、この変更を地元住民が知ったのは92年4月であった。 つまり、アセス終了後に住民になんの説明もなく、 了解事項を変更してしまったのである。なぜこのようなことがおきたのか。 その理由として建設にあたった道路公団サイドは「設計変更は軽微と考え、 アセスのやりなおしは不要と判断した。」と説明している。 確かに環境影響評価実施要項の建設省所管の部分を読み直すと 「~ただし、その変更が環境に著しい影響を及ぼすおそれがないと認められる場合はこの限りではない」と記されている。
では果たして環境に影響はなかったのか。 工事前と工事後、干潟の様子は激変している。 工事前の干潟は美しく、水性生物の宝庫であった。 工事後、波模様を描いていた干潟は見る影もない。 橋脚が「鋼管矢板井筒式」になったことで、 まず海底の低酸素水が海面近くに上がってくるようになり(流昇水)、 干潟近くの貝類等は大きな被害を受けている。 また水の流れに淀みができ、広い範囲に砂(漂流砂)や藻(漂流藻)が溜まっている。
工事内容の変更が必ずしもこのような被害をもたらしたとは断言できない。 しかし、問題はこの要項だと環境に著しい影響を及ぼすか否かを判断するのはあくまでも「事業者」であり、 例えば住民側からすれば環境に深刻な影響を与えると判断されるようなアセス後の変更も、 事業者の心一つでどうにでもなるということである。 これでは環境アセスメント自体が形骸化してしまう恐れがあり、 要項の見直しを図るべきと考えるがいかがお考えか。
東京湾横断道についての環境影響評価は昭和59年8月28日に 「環境影響評価の実施について」として閣議決定されている。 そして、これに基き定められた建設省所管事業に関わる環境影響評価実施要綱に則って事業者である日本道路公団が手続きを行い、 昭和62年7月に完了させている。同時に地方自治体(川崎市、千葉県)のもつ、 要綱や条例とも整合性をとっている。 その後の橋脚の変更は橋の強度、景観、環境への影響も含め総合的に判断したものである。 日本道路公団は学識経験者等からなる環境委員会を設置し、 そこで検討し「軽微」と判断した。 地元の住民に対する説明については東京湾横断道路建設連絡協議会から平成3年3月、4月に事前に説明され、了承を受けている。 これからも毎年調査し、調査結果を公表して監視を続けていくつもりである。
畑 議員 少なくともアセス後の変更については何が軽微で何が軽微でないかの判断について 学識経験者や住民を含めた第三者的な審査会を作る必要があるのではないかという専 門家の指摘もあるがいかがか。
「鋼管矢板井筒式の橋脚が環境に良い」と判断したというが、 地元住民への説明会は定例でやっていたにも拘わらず、 計画変更後半年も経ってから説明したということは誤解を招くもとではないのか。 環境アセスメントにとって住民の了承を得ることは、 その大きな目的の一つであるので、今後このようなことがないようにして頂きたい。
また環境アセスメント自体が10年あまり経って見直しを迫られているように思われる。 この10年間で環境問題の世界的広がりと深刻化は他の分野に例を見ないほど大きなものである。 環境問題に対処するには、 事後のフォローアップシステムを整備していく必要があると思われる。この点についてはいかがか。 また、現在主務大臣から要請があった時のみ環境庁長官が意見を述べられるという仕組自体も見直し、 開発サイドに対し環境側から実行性のある指導のできるシステムを構築していくべきと思うがいかがか。
現在の環境影響評価実施要綱にフォローアップのシステムが整備されてないのは事 実である。 しかし、予期しなかった影響について事後調査をし、 また事業完了後もフォローアップしていくことは我々も必要であると認識している。 そして、現在総合研究会においては環境影響評価のあり方について調査、 研究がなされている。今後内外の実施状況を踏まえながら、必要な見直しをする。
畑 議員締めくくりとして環境庁長官に申し上げたい。 環境アセスメントの法制化について未だに整備されないということも重要な問題である。 先日の環境庁の調査で、先進23ヵ国の内、 日本だけがアセスメントの手続きに関する法律を整備していないことがわかった。 一日も早い法制化を望むものだが、今後努力をお願いしたい。
環境庁長官ご指摘頂いたフォローアップの問題にしろ、 法制化の問題にしろ重要な問題であると認識している。 来年の夏を目途に調査結果のとりまとめを行い、法制化にむけて努力したい。