外務委員会(平成7年10月31日)

質問テーマ

[インマルサット・日米関係・日中関係]

質疑要旨

畑 議員

 まず、インマルサットに関する条約の改正についてお尋ねしたい。 インマルサットを陸上通信にも活用するのは実に有意義だと考える。 これまでの報道という仕事を通してランドモーバイル(ポータブルの移動地球局)の利便性や威力の大きさを痛感しているからである。 そこで疑問に思われるのは、 なぜ、1989年1月の総会で採択されたこの改正をこれまで7年もの間、 日本が受託しなかったのかということである。 G7で受託して来なかったのは日本のみであり、 なにかしらそこに理由があるのではないかと思われるがいかがか。

科学技術庁

 我が国が条約を締結する場合、国内での意義、目的、内容、必要性、 国内法との整合性等を政府内にて検討することになる。 そうした検討の結果、必要と認められれば、国会に承認を求めてきた。 この条約についても同様に検討を重ねた結果、 今時国会で承認を求めるという次第である。

畑 議員

 1987~88年にかけて日本では実験用通信衛星ETS-5 を用いて種々の機関が実験をしている。 このとき既にランドモーバイルは技術的には十分実用に入れる段階に達していた。 「もし日本で陸上移動通信の使用がもっと早く認められていれば、 ポータブル移動地球局は日本でも普及していた。」 とこの開発に携わったエンジニアからは聞いている。 日本独自の衛星開発が一定段階に達するまで、 それと競合するインマルサットの陸上使用に対して前向きになれなかったのではないか。

外務省

 ご指摘の通り、この間、我が国独自の衛星が打ち上げられた事実はあるが、 それに関連して故意にこの条約の締結を遅らせたということはない。

畑 議員

 今日、情報通信に関する状況の変化は日進月歩である。そうした中で、 検討に7年も要するというのはいささか慎重に過ぎるのではないか。 時代に即応した対応が望まれる。
 次に日米関係についてお尋ねする。最近、日米関係が揺れている。 日米自動車交渉におけるCIAによる盗聴疑惑、沖縄基地問題は勿論のこと、 大和銀行NY支店の不正取引事件等、 日米双方にとって相手方への不信感を助長するようなできごとが立て続けに起きている。 緊張感が高まる中、国連創設50周年の特別会合に出席した村山首相は、 日米首脳会談を申し込むことさえしなかった。何故か。

河野 外務大臣

 ご指摘の通り、最近日米間に緊張が高まっている。 こうした時、日米はその対話を重視するのが通例である。 しかし、例えば大和銀行の不正取引については武村大蔵大臣が、 沖縄問題については私や衛藤防衛庁長官が米国側と対話を重ねてきている。 CIAの問題については米国大使館を通じてやりとりをしている。 これら個別の問題については、まずそれぞれ所管の責任者が話し合うということが重要であり、 その上でトップ会談がもたれることが筋である。 勿論、日米のトップ会談は重要である。 予定としては11月20日に日米首脳会談がもたれることになっている。対話のためには、 時間的にもゆとりをもち、 準備もしっかりやったうえで会談に臨むべきと考えている。

畑 議員

 確かに日程も厳しいものであり、 時間的にゆとりがなかったということは理解できる。 しかし、公的会談ではなくとも個人的に会うことはできなかったのか。 村山首相はクリントン大統領と同じホテルに宿泊し、 エレベーターを上下するだけで会える距離にいながら、言葉を交すことなく、 戻ってきてしまった。 これはいくら時間がないといっても、不自然なことではないのか。 河野大臣であったら、いかがか。首脳同士が会うという好機を逸した理由は何か。

河野 外務大臣

 確かに同じホテルに宿泊した。しかし、セキュリテイーの関係上、 「同じホテル」といっても「同じ街」というくらいの距離感である。 首脳同士が分刻みの状況で会うよりは、 やはり次の機会(11月20日の東京での日米首脳会談)を待った方が良いだろうという判断があった。 村山総理が総理大臣になってから1年4ヵ月であるが、 この間日米首脳会談は4回(ナポリ、ジャカルタ、ワシントン、ハリファックス)もたれている。 これは決して少ない回数ではない(今度の東京の会談を含めると5回)。 内容もかなり濃い。意志の疎通は図られている

畑 議員

 今後、日米首脳同士の意志の疎通が、より図られることを期待する。
 しかし、一部報道で伝えられていることであり、私はそうでないことを祈っているが、 外務省側としては地位協定の見直しや米軍基地の縮小論、 米軍本体の削減論まで取り沙汰される中、 「つい先日まで50年近く、 日米安保条約に対して懐疑的な立場にあった現首相がクリントン大統領に会えば、 米軍基地の縮小論等に対して積極的発言をしかねない」 と危惧したのではないかと言われている。 つまり、故意に会わせなっかったのではないかという憶測があるようだ。 事実はどうか。

河野 外務大臣

 そのような事実はない。村山総理ご自身、安保体制堅持とはっきり表明している。

畑 議員

 今後に期待する。
 さて、ニューヨークでの村山首相の動きについてもう一点伺いたい。 クリントン大統領ともシラク大統領とも会談できなかった村山首相だが、 唯一、中国の江沢民国家首席と個別会談している。その内容をみると、 ずいぶん「中国にやさしい」内容となっている。 (=核実験と対中円借款は切り離して考える)これまでの経緯を拝見すると、 8月に行われた与党外務調査会議では「円借款の削減にも踏み込むべき」 という意見も出されている。 それに対し、 「円借款は中国の(核実験などについての)今後の動きを見極めながら再検討する。」 ということであった。しかし、今回村山首相は、「我が国は対中円借款を続行する」 という言質を与えている。これはどういう経過なのか。

河野 外務大臣

村山首相は江沢民首席との会談で様々なことを話し合っている。 (日中関係全般、核実験、大阪APEC等)中国の核実験に対しては、 強い調子で遺憾の意を表明している。 そして再度核実験の停止を強く求め、 今時国連総会で核実験停止の決議案の提出を準備中であるということを伝えている。 同時に核実験を再び行わない時まで無償資金援助を凍結する(一部除外あり) ということを言ったのである。これは核実験停止の要望である。 しかし政府としては円借款については別の問題として捉える必要があると考えている。 なぜなら中国の安定、発展はアジアの安定、平和にとって非常に重要なことであって、 日中関係にとっても重要なことであると考えるからである。 また本日の閣議で対中円借款は行うということを決めている。 村山首相の考えは政府の考えそのものである。

畑 議員

 確かに本日決定したということであるが、 時間的に前後することが疑問の残るところである。 また円借款を行うというのはいつまで行うのか。 既に中国に対する無償資金援助の凍結を決定している日本にとって、 「円借款」の問題は今後の中国の核実験に歯止めをかけていく上で、 重要なカードだったはずである。 隣国の核の脅威を抑止する材料をなんの見返りもなく、 みすみす相手に渡してしまった首相の発言についてどうお考えか。

河野 外務大臣

 円借款についてはあくまで1995年度分について決定したわけであり、 今後については日中間の総合的な問題(核実験その他)を踏まえ、 判断する必要がある。 外交のカードとしていつこれを使うかということについてはまさに日中間の総合的判断をもって決定したものである。

畑 議員

 最近、日米安保解消論が急速に高まりつつある。 日経新聞の世論調査(H,7,10,17)によると同社が8月に調査した当時6割あった日米安保維持派がわずか2ヵ月で4割強へと大幅に低下、 逆に3割弱だった解消論者が4割に急増している。 この背景にはいうまでもなく、沖縄での暴行事件が影響していると思われる。 しかし、若年層、主婦層に解消論が多く見られることから、 日米安保そのものをよく知らない層が解消派の大勢を占めていると推測される。 知らないとはどういうことか。 現在の解消論は必ずしも安保論議としてでてきているわけではない。 このような状況下では日米安保の重要性を広く国民に知らしめる必要があると考える。 そこで日米安保問題に関する外務省の広報活動現状と文部省の教育方針について伺いたい。

文部省

現在、国の教育課程の基準である学習指導要領においては中学校の社会の公民的分野で我国の安全と防衛的問題について扱っている。 高校においては公民科の現代社会や政治経済分野で我が国の防衛と安全保障について扱うこととなっている。 これらの中で日米安保条約についても指導している。 今後とも我が国の安全と防衛について適切な指導がなされていくよう努力したいと考えている。

外務省

 ご指摘の通り広報活動は非常に大切である。 外務省としてもいろいろな知恵を出して広報活動に努めたいと考えている。 これからクリントン大統領の来日の機会もあり、 そうした機会を通じ(それだけでは不十分だが)国民への広報に取り組んでいく所存である。 我々が広報活動に取り組み、その上で、国民の間で議論を戦わせて頂けるよう努力する。

畑 議員

 是非、今後一層の努力をお願いしたい。