米国IT事情視察報告
急速に進展する情報社会の中で、情報通信技術(Information Technology:以下“IT”)の動向が、世界のあらゆる分野に多大な影響を与え、産業構造からライフスタイルに至るまで我々を取り巻く社会を根本から変えつつある。その最前線である米国各地を1998年7月14日から1週間訪れ、最前線のIT事情を視察した。
シリコンバレーの中心都市であるサンノゼ市の経済開発事務所、 ITの基幹となるソフトウエアの開発会社としてシリコンバレーのネットスケープ社とサンマイクロ社、情報処理事業、いわゆるソリューションビジネスの代表例としてダラス近郊のEDS社、ITの産業界における活用例としてメンフィスのFedEx社を訪問した。
なお、帰途にロサンゼルスのヒューズ社を訪問し、工場にて各種商業衛星の開発・生産現場を視察した。
● 7月14日午後 サンノゼ市経済開発事務所
シリコンバレーの首都としての当市の産業助成について聴取
● 7月15日午前 ネットスケープ・コミュニケーションズ社
バークスデール社長(James L. Barksdale)からインターネットビジネスや国との関係について聴取
● 7月15日午後 サン・マイクロシステムズ社
ラリフソン(J. F. Rulihuson)博士から21世紀の技術展望について、トリブル(Guy Tribble)博士からネットワーク・コンピューティング、ジャバ等について聴取
● 7月16日午後 EDS社
展示室でアウトソーシング例等の事業紹介を聴取、ネットワーク・コントロールセンターを視察
●7月17日午後 フェデラル・エクスプレス(FedEx)社
グローバル・オペレーション・コントロールセンターを視察、 ITの活用について聴取
● 7月20日午前 ヒューズ・スペース・アンド・コミュニケーションズ社
試験中の通信衛星が林立する衛星組み立て試験工場を視察
7月14日午後 サンノゼ市経済開発事務所
18:00成田発。時差の関係で同日11:10サンフランシスコ着。サンノゼ市の経済開発事務所を訪問。同所インターナショナル・プログラム・オフィサーのヘッジーズ氏(Joseph R. Hedges;International Program Officer, Office of Economic Development)から先端企業に対する誘致策についてのプレゼンテーション。
〈概要〉
サンノゼ市は人口が西海岸第3位、全米第11位の都市で、周辺各市と連携してシリコンバレーをなしている。輸出高はニューヨークを抜いて全米1位であり、米国特許取得数は米、日、カリフォルニア州、獨、仏、英、加に次いで8位(1995年)である。
税制その他種々の産業助成をしているほか、例えば、建築申請の許可を容易にするために多数の提案を議会で検討して規制を簡素化し、近隣各市と規制内容を統一して大企業が複数の市に事業所を作る際の便宜を図る工夫をしている。
ベンチャーキャピタルの投資額は、シリコンバレーで年間36億ドルであり、これは全米の約1/3にあたる。市とサンノゼ州立大学とでやっているインキュベータ組織があるが、市は資金と施設を提供するだけで、運営は非営利団体があたっている。又、そうした非営利団体において実際に運営にあたっているのは、以前ヒューレットパッカードやIBM等の企業で管理者を経験した人たちであり、新しく企業を起こした人たちが同種企業との交流、市への助成申請、銀行への紹介等を希望した時にも、的確かつ迅速な対応がなされている。
シリコンバレーは先端企業にとって、やはりかなり種々の好条件がそろった特別な地域であるとの印象を受けた(サンフランシスコからの幹線道路の渋滞はかなり激しくなっているが)。
企業で豊かな経験を積んだ人材を公的な産業助成機関の運営者として得られるのも雇用の流動性が高いからであり、又、そのような社会では新規企業も育ちやすい。日本も社会構造を一気に変えようと言っているだけでは何も進まないので、人材の流動性を高めるための措置など、これは効果が大きいと思われる事を、できる所から、迅速に行っていくべきと感じた。
7月15日午前 ネットスケープ コミュニケーションズ社
サンフランシスコのダウンタウンのホテルを8:00出発、ルート101経由でマウンテンビューのネットスケープ社まで1時間と計画したが、道路渋滞で1時間半かかってしまった。
9:30よりネットスケープ社にてバークスデール社長(James L. Barksdale)及びグラース副社長(Skip Glass;VP, Strategic partners and Developer Relations) 、マクファーソンディレクター(George S. Macpherson;Director, Japan Business Development)と懇談。
バークスデール社長の談によると、同社の事業は、ネットスケープ ナビゲータをはじめとするコマーシャルソフトの供給で年商400億ドル、エレクトロニックコマース等の情報提供サイトであるネットセンターの運営(ポータル事業といっている)で年商160億ドルと2つに大別される。
日本において期待する市場であり、又、日本に提案したい新手法は、デルコンピュータやアマゾンコムがやっているような、供給者と消費者との間の中間業者をなくすエレクトロニックコマースである。米国では流通コストが15年前の2%に低下した。日本はこの面で非常に遅れていると思われるが、ヤフージャパンのように成功している例もあり、日本の立法機関はこうした傾向を妨げるべきではない。
日本での障壁に関して質問したところ、「成田でのかってのようなあまりに馬鹿らしい通関手続きは改善されたものの、北欧諸国や米国と比較して通信コストが高い。ただこれはコンペティター全てに共通する条件だから、貿易障壁と言うべきではないだろう。ソフトウエア会社として日米の違いとして感じることは、日本ではストックオプションの規制がきつい事だ。一方、暗号については、NTTの暗号チップ等、日本は進んでいる。」との指摘を受けた。
米国政府は暗号や衛星で日本の政策に規制をかけているが、との当方からの発言に対し、バークスデール社長は「そうした米国政府のやり方は間違いであり、米国の利益を代表しない一部の意見である。日本は独自の道を進めばよいので、ドイツもフランスもそんな事は気にしていない。」とコメントしてくれた。
シリコンバレーはIT産業振興についてどのようにして政府に働きかけをしているのか、またそのパイプラインは、との問いに対しては、
「トレードアソシエーションに参加し、自社でロビーイストも持っている。自分自身“テクノロジーネットワーク”と称するハイテク企業の会長150人からなるグループのコチェアマンを務めており、個人的にも月に2~3日は上院議員のキーパーソン達と会っている。かれらは、技術が米国の繁栄の源である事がよく分かっているので、同意するよりしないことの方が多いにもかかわらず、喜んで会ってくれ、又、多くの議員がここに来て話を聞いて行く。クリントン大統領にも数か月前に会ったが、ノートをとって話を聞いてくれた。ゴア副大統領も、やり易いことだけやっているとの声はあるが、技術の勉強に熱心だ。」
とのことであった。
以下はグラース氏の談。
ポータルサービスで力を入れているのは、通信、金融サービス、自動車製造業部門である。通信は技術進歩によってコストが急激に低下して行く。これから7.5セント/分でインターネット長距離電話を提供しようとしている。このレートは米国の今のレートの1/2にあたり、日本では1/4に相当するだろう。金融サービスについても、個人に対して安い料金で提供できる。自動車製造業部門は現在、供給業者が非常に多いので、ネットワークによるオンラインプロポーザル等で購入価格の低減を図ることができるので魅力的だ。
消費者向けの事業は、長期的には重要だが、現在は事業として20%以下であり、ビジネス対ビジネスの事業が大部分である。消費者向け事業が主流になるためには、インターネットが電話機を取り上げるのと同様に使えるように、台所のフラットパネルが電話機やテレビ、パソコンを兼ねるといったユーザフレンドリーなインタフェースの開発・普及が必要であり、今後5年といった時間がかかるのではないか。
日本に対する苦情としては、日本でオフィスを開くことが非常に困難であることを挙げたい。家賃が高いのに加えて、ペーパーワークが膨大であり、新規ビジネスを開くのに大きな障壁となっている。しかし、いったん開けば、小さなオフィスでも大企業からもまともに付き合ってもらえるのではあるが。
最後に、マイクロソフトがWindows98にブラウザを組み込んでも良いとの裁定が出た事に関してコメントを求めたところ、「ブラウザ供給者が1社になってしまえばその社のコントロールが強くなりすぎるから、どのパソコンメーカもそんな事は望まないであろう。」との返答が返ってきた。
7月15日午後 サン・マイクロシステムズ社
11:30パロアルトのサン・マイクロシステムズ社着。U.S.の大学キャンパスさながらの開放的で整備され、また緑豊かな社屋が、SUNの社名がStanford University Networkの略称であることを実に如実に表している。洒落た社用のキャフェテリアでランチ・ミーティングという形式で、まずラリフソン博士(J. F. Rulihuson;Director, Technology Development, Sun Microsystems Computer Company)から21世紀の技術展望について、またトリブル博士(Guy Tribble;Vice President, Chief Technology Officer )からジャバの現在及び将来についてそれぞれレクチャーを伺い、後にディスカッション。アカデミックでかつアットホームな雰囲気の中、3時間がまたたく間にすぎ、企業訪問と言うより、スタンフォードでのサマースクールに参加したような、新鮮な感動を覚えた。
〈ラリフソン博士〉
技術進歩の展望として、
・ 機器の動作速度、大きさ、消費電力の変化については、80年から99年にかけての変化より2000年から2020年にかけての変化の方が小さいだろう。
・ ネットワークは、80年の加入者1万以下のARPANETが、99年にはインターネットのアドレス数で5千万となり、2020年には電話機等家電機器のパワースイッチ等に全てアドレスがつくようになり、アドレス数は数十億になるだろう。
・ 移動無線は、80年には大型で軍用のみであったが、99年には大きなデバイスを用いて小型化され、2020年には微少なデバイスで構成されるようになるだろう。
・ セキュリティについては、75年には暗号は国家機密でしか使用されなかったが、99年には大衆にも暗号が普及するものの暗号化は特殊な場合だけに限られる。しかし、2020年には暗号化がどこでも行われて通信システム、電力システム等のインフラの安全性が高まるだろう。
その他、彼が20年前にゼロックスのPARCにいたころは、ベルラボやIBMの研究所等では、基礎研究から発明、開発、実用化まで全てを自前でできると考えていたが、今は必要な全ての行程を1社で行う事は不可能であって、時には競争相手とでも“コラボレーション”が今後何より重要である。私の方から「デファクト・スタンダード獲得も視野に入れた戦略的な科学技術政策の推進のために米国のNISTのような組織が日本にも必要ではないか」という質問に対して、国家が基準作りの主導権をとるのはよくないとコメントしていた。
〈トリブル博士〉
ネットワークコンピューティングのビジョン、その経済と消費者への影響について、
・ 60年代から70年代にかけてIBMマシン等でバックオフィスが変わり、生産性が向上して経理担当者数が激減し、ジョブチェンジが起こった。
80年代から90年代にかけてPCによるワープロやスプレッドシートで他社や顧客とのインタフェースであるフロントオフィスの生産性機能の自動化が行われたが、生産性は変わらず、ジョブチェンジもなかった。しかし、これらがネットワーク化されると生産性が向上する。
・ネットワーク化では標準が重要になる。又、1社の独占では価格低下が遅れる。価格低下はあるにせよムーアの法則のようには低下しない。この点でマイクロソフトの独占には危機感を持っている。
ネットワークの標準はIP(Internet Protocol)、ドキュメントの基準はHTML(Hyper Text Markup Language)、アプリケーションの基準はジャバ(Java)となるだろう。
ジャバはサンから既に150社にライセンスされており、7千万台のPCに入っている。市場に利益をもたらす事が本質的に重要である。
7月16日午後 EDS社
早朝サンフランシスコを発ち、ダラスへ。2:40ダラス郊外プラノのEDS社着。川島伴人副社長(Vice President, Automotive Industry) よりプレゼンテーションルームで概括的な事業紹介の説明を受けた後、EDSのグローバルネットワークの心臓部にあたるインフォメーション・マネージメントセンター・ビルにて各施設を視察。
EDS社は、広大な敷地に壮大なビル群がゆったりと配置され、またプレゼンテーション用の各施設も実にアトラクティヴかつゴージャスで、GM系の巨大企業といった印象を強く受けた。
まずワールド・ヘッドクォータ・ビルのマーケット・スペースと称する展示室で、壁一杯のワイドスクリーンを用いて、アウトソーシング事業例等の事業説明をビジュアルにレクチャーされる。事業範囲は世界各地でのシステムインテグレーションからアウトソーシング、マネージメントコンサルティングに至るまで実に多岐に亘り、また顧客には、陸軍財務ネットワーク、欧州議会、英国国内歳入庁など政府機関も多い。サッカーのワールドカップのプロモーションもEDSが担当していたとのこと。
インフォメーション・マネージメントセンター・ビルに移動し、インフォメーション・テクノロジーセンターと称する一室で、バーチャルリアリティー技術を用いた電力会社の作業員トレーニングソフトと指紋による個人識別のデモンストレーション。
次いでネットワーク・オペレーションセンターを見学。ここは100万回線に及ぶ同社のグローバルネットワークをコントロールしている、文字通りEDSの心臓部で、その規模はNASAのコントロールセンターの3倍。人員的には1シフト当たり約30人で運用されており、フロアスペースは業務量が増加しても機器性能の向上によりむしろ段々余ってくるとのこと。通信回線も電力系統も十分に冗長度を持ち、更に同様の施設がミシガンとロンドンにバックアップとして存在する。見学者はこのコントロールセンターに入ることはできないが、劇場の観客席さながらのガラス張りのブースから中の様子を眺めることができる。
一定以上の(つまりかなり高額な)収益が上がらない規模の事業は受注しないという、EDSならではのパフォーマンスで、豪華さに溜息が出る。しかし、それ以上に感動的というか、ショックであったのは、そのワールドワイドに構築されたネットワークのスケールと、情報通信技術・マネージメント双方の分野でトップクラスの人材を抱えているというキャパシティの大きさ。単にEDSはアメリカの大企業でなく、もはや世界のものであることを如実に思い知らされる。
なお、EDSの事業は基本的に、顧客の情報処理を効率よく行い、それにより顧客の企業の雇用数が減少できて結果的に利益が上がる事により成り立つ。従って、日本のように人員削減が難しい所では成り立ち難く、大変苦戦しているということだった。社会の情報化を推進するには社会構造の変革を必要とするという日頃の自分の主張の1つがここに具現していると感じた。
しかし、それにしてもこれだけ経済産業活動が、世界規模でボーダレス化し、競争が激しくなっている中で、日本がこのままソリューションビジネスを活用できない状況を続けることは、21世紀での我が国の産業界のサバイバルを危うくしかねないという危惧を痛感した。
7月17日午後 フェデラル・エクスプレス(FedEx)社
9:20ダラス発、11:10メンフィス着。
13:50 FedExのグローバル・オペレーション・コントロールセンター到着。黒木営業部長(Koji Kuroki;Managing Director, Asian Global Sales)の案内でコントロールセンターの様子を隣の部屋からガラス越しにのぞきながら、通信回線を駆使した水も漏らさぬFedExの業務システムについて説明を受ける。その後、営業のオフィスに場所を移し、ベリー副社長(Dottie Berry;Vice President, Customer Automation)とシャーリイ副社長(Rob Shirley;Vice President, Global Sales)から会社の概要や、IT利用によって飛躍的にきめ細かく、かつ正確で、しかも低廉となった各種サービス内容についてレクチャーを受ける。
メンフィスはエルビス・プレスリーの住んだ町で、落ち着いた感じの町並みである。ここは米国の物流の地理的中心に位置し、空港施設に余裕があり、又、晴天率が高いため気候的に空港の稼働率が高い事から物流業のFedExが本拠地に選んだのだとのこと。
FedExの業務を理解するには、集めた荷物を仕分けして飛行機やトラックに積み込んで発送する集配センターを視察するのが最もよいのだが、日中は客先との間で荷物の集配が行われており、このセンターは深夜しか稼動しないので、ムース副社長(James R. Muhs;Vice President, Global Operations Scheduling & Control)の説明によりグローバル・オペレーション・コントロールセンターを視察する事にした。
このセンターは、同社の中枢神経として全てのオペレーションを制御する通信センターであり、606機の飛行機を管制している。前日に見たEDS社のネットワーク・オペレーションセンターよりはるかに広いフロアに、管制卓が担当地域別にグループ分けして配置されており、部屋全体の照明はオペレータが作業に集中し易いようにかなり暗くされている。午後の早い時間であったため、隅の方の国際部門担当グループだけがフル稼動しており、深夜にフル稼動する国内担当の各グループにはほとんどオペレータがいない。
早く確実に荷物を届けるため、常にコンティンジェンシープランが用意されており、飛行機も常時バックアップが置かれている。オペレータはいつも世の中の動向を把握している必要があるとの事で、部屋の高い所にいくつかのモニターが配置され、CNNニュースが流されている。
航空機オペレーションコントロールのスペシアリストの作業デモンストレーションを見た。ディスプレイ上の地図で航路に沿ってポインターを移動させると、それぞれの場所の天候が表示されるようになっている。このスペシアリストは同社の全パイロットの技量を把握しており、航路の天候を調べその結果にしたがってパイロットをアサインする。
レクチャー内容や視察の結果から察するに、 FedExの業界における勝因は、顧客との間のフェース・トゥー・フェースの誠実な業務遂行、いうならばプリミティヴな人間型のノウハウと、IT活用のノウハウとの結合にあると感じた。
更に、徹底した業務評価システムが挙げられる。毎年数千の顧客に対してサービスの達成度についてアンケートを実施し、各部門ごとにも問題点の摘出、対応策の検討や部下による上司の査定を毎年行っている。
又、最近流行りのサプライ・チェーン・マネージメントを物流の面から見ると、製造業等の全コストに占める物流コストの比率はそれほど高くはなく、単に物流コストを下げるだけでなく、対顧客サービスの向上にそのねらいがあるのだと言っている。あるパソコンメーカーは、顧客の注文に応じて構成を個々に組み替え、即ちカストマイズして発送するため、空港近くに工場を設置して、カストマイズの時間を多く取れるようにして納期を短縮しているとか、あるプリンターメーカーは、顧客から故障のクレームの電話が入ると、衛星回線経由でトラックを振り向けて故障品を引き取り代替品を届けるサービスをしている例があるそうである。
注) サプライ・チェーン・マネージメント:
取引先との間の受発注、資材の調達から在庫管理、製品の配送まで、いわば事業活動の川上から川下までをコンピュータを使って総合的に管理する経営手法
7月20日午前 ヒューズ・スペース・アンド・コミュニケーションズ社
帰国の飛行機に乗り込む前に、空港近くのヒューズ・スペース・アンド・コミュニケーションズ社を訪問。
同社は静止通信衛星のパイオニアであり、現在も通信衛星のトップメーカーに位置する。
当日はエルバート氏(Bruce Elbert ; Senior Vice President, Hugh Space and Communications International, Inc.) 、川本美明氏(Vice President, Hugh Space and Communications International, Inc.)の案内で、ハイ・ベイ・エリアと称する衛星組み立て試験工場を視察。
工場で製作試験中の衛星には、茶筒形状で円筒状の太陽電池板がテレスコープ状に伸びるスピン安定方式のHS376型衛星が1機あったが、それ以外はすべて直方体形状をした3軸制御方式であるHS601型衛星及びその発展型のHS702型衛星だった。通信衛星、放送衛星のほか、低高度軌道をとる携帯電話システム用の衛星もあった。これら3軸制御方式の衛星は、衛星の制御を行う部分であり各衛星に共通な下層部分(バスモジュール)と、通信機器やアンテナ、太陽電池パドルを積んだ上層部分(ペイロードモジュール)とから構成されている事が素人目にもよく分かり、今後こうした構造にも着目して、より効果的な調達が考えられるのではないかという気がした。
試験設備では、従来から使用されていた縦形円筒状の巨大なスペースチェンバー(熱真空試験装置)が何台も立ち並んでいるのに加え、 HS702型衛星を2機同時に収容でき、まるで小さな飛行機格納庫と言った感じの新しいスペースチェンバーも稼動しており、そのスケールの大きさに感動すると同時に、日本の現状とのギャップを改めて痛感させられた。
限られた機能の衛星で良いのなら、こうした壮大な装備のもとに生産すればどうしてもより安価に、しかも短期間で納入する事ができる。衛星分野でグローバルにこのような企業と競合することを考えるにつけ、どの技術を我が国のお家芸として伸ばし、どの分野は他に任せるのか――その見極めをシビヤに行わねばならない時が来ているという感を強くした。