畑恵さんと時代の風を起こす会(平成13年3月13日)

テーマ

21世紀の情報通信戦略 ― 先進国と途上国の意図と課題

講師

(株)アスキー副会長、 MIT客員教授 西 和彦 先生

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質疑要旨

司会

 本日は大変お忙しい中、ようこそおいでくださいました。ただいまより「畑恵さんと時代の風を起こす会」セミナーを始めさせていただきます。

 さて本日は、ITベンチャーのまさに草分けとして時代の寵児となられた、株式会社アスキー取締役副会長、先般、米国のMIT客員教授に就任された西和彦先生にご講演をお願いいたしております。演題は、今後、西先生がMITで研究を進められるテーマであります、「21世紀の情報通信戦略-先進国と途上国の意図と課題」。きっとグローバルな視点からのIT活用のあるべき姿を教えてくださるものと存じますが、実は本日、緊急の国際 会議にどうしても日本の代表として出席せねばならず、現在、米国シアトルにいらっしゃいます。こちらからご無理を承知でご講演のお願いを再度続けましたところ、IT時代な らではの解決策が生まれました。国際中継です。

 ということで、本日「生(なま)・西和彦先生」を楽しみにしていらっしゃった方々には申し訳ございませんが、国会議員のセミナーではもちろん日本初の試みだと思いますので、どうかご堪能ください。

 日本とシアトルの時差はプラス17時間。したがって、シアトルは今、真夜中の午前0時を迎えようとしています。西先生にはこんな夜遅くにご講演いただけますことを感謝申し上げます。

 西先生のご講演に先立ちまして、まずは畑恵参議院議員より、本日ご参集いただきました皆さま方への御礼とご挨拶をさせていただきます。

 それでは畑議員、よろしくお願いいたします。


 冷たい風の中を、こんなにもたくさんの皆さまにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。

 まず西和彦先生とのご縁を紹介させていただきますと、10年ほど前に私がNHKを離れました頃、まだベンチャーという言葉も耳に新しい時代でしたが、株式会社アスキーの代表取締役社長である西さんはまさにベンチャーの旗手として、本当にさっそうと、時代の風を切って登場されました。たまたま同じような時期に話題になったということがございまして、雑誌「アエラ」の表紙に相前後して掲載され、その後、その表紙になった方々が何人か招かれてシンポジウムが開催されました際に、そこで初めてお話する機会を得ました。

 それまでベンチャー企業家というと、ソロバンをはじくのが主といった人物ではないかという無機的なイメージが潜在的にありましたが、実際お話しをすると、寡黙すぎるぐらいに寡黙な方で、またある意味では青くさいというか、理想主義者と思われるほどに世界や地球の繁栄、平和ということをとても真剣に慮っていることを知りました。人間のとても深いところにいつも思いをいたしたと言えば、人は何のために生きるのかとか、地球はだれのものなのかとか、今の時代に私たちはどんな責任を果たさなくてはいけないとか、といったことを常に考え行動している人だということに、心から共感いたし、また大変尊敬しているお一人です。今日は、トップビジネスマンであるアスキーの西さんというよりは、MITの客員教授として迎えられた西さんとしてご講演いただきたいと思っています。

 今、日本はいろいろな問題を抱えています。ついに日経平均株価が1万2000円台さえも割ってしまいましたが、そうした経済や財政あるいは安全保障も、やはりすべての物事の根幹を成すのは「教育」だと私は考えます。今日は夫である船田元作新学院理事長(前衆議院議員)にも出席してもらっていますが、私どもの家業は学校経営でございます。実は西さんも家業として学校を経営していらっしゃるということで、そういう意味で思いを一つにするところ、また憂いを一つにするところもたくさんあろうかと思い、「教育」という視点での社会観・世界観を西さんから是非伺いたいと考えご講演をお願いしました。

 ただ、先程司会者から話があったように、今日はシアトルで国際会議を繰り広げているさ中ですから、本来なら西さんにご講演をお願いすること自体が無理な話しです。ただ西さんは「畑恵から講演の依頼を受けたのだから、自分の話を聞きに来てくださっている方々には必ず100%満足していただきたい」と言ってくださり、通信回線など様々な面で多大なお力添えを下さったお陰で、シアトルからの中継が可能となりました。

 長くなりましたが、そういう経緯で実現いたしました世界につながる21世紀をつくる話です、どうかご堪能いただければと思います。

 それでは西さん、どうぞよろしくお願いします。

西

 ただいまご紹介いただきました西でございます。本日はこういう席にお招きをいただきまして、畑先生、船田先生、誠にありがとうございます。お手元に資料をお届けしています、「21世紀の情報通信戦略-先進国と途上国の意図と課題-」ということで話をさせていただきます。

 最近、政府もやっとITということに腰を上げて取り組んでくれるようになりました。もう10年以上も前から私たちが言っていたことですけれども。「IT、IT」と騒がれて、ITが当たり前になっておりますけれども、この機会に、なぜ世の中が「IT、IT」と騒ぐのかということをお話しして、おさらいしたいと思います。私も何ヵ所かの大学で教えていますけれども、この一番ベーシックな部分、なぜITが要るのかということをしっかり教えている授業はどこにもありません。それから、なぜITが必要なのかということをはっきり書いている新聞もありません。ですから、今日皆さま方にぜひ分かっていただきたいのは、なぜITが要るのかという、その一点です。それを日本はどういうふうに受け止めているのか、それをアメリカはどういうふうに考えているのか、それを途上国はどういうふうに考えているのか、そこのところが一番カギになってくると思うわけです。

 まず初めに「世界の動きの認識」ということで、2ページを見ていただきたい。2ページは、パワーウェーブと言いまして、世界の歴史の年表であります。これを見ていただくと、世界の歴史はエジプトとメソポタミアから、今から6500年前に始まっているわけです。この6500年前の文明は、非常に面白いことに、エジプトから始まって、東洋と西洋、東西に分かれているのですね。文明が伝播している。上のほうにいったのが東洋文明です。インド、中国、韓国、日本。それから下のほうにいったのが、エーゲ海文明、ギリシャ・ローマ文明、ルネッサンスということで、西洋文明なわけです。

 これを見ていただいてまず最初に分かっていただきたいことは、西洋は変わっていないということです。西洋というのは一つの連続した価値観であるということです。ミノア文明、ギャシャ・ローマ文明、それからルネッサンスの文明、これがほとんど一つの流れを持って、継続性を持っている。ところが東洋というのは、インド、中国、韓国、朝鮮、日本と、全く別個の文明が並行して存在していて、どこが東洋かといったら、実はこのインド、中国、韓国、日本というばらばらなものが共存しているのが東洋であるのです。だから、西洋と東洋というのは基本的に、歴史的に全く違ったものであるということを、まず我々は認識する必要がある。全く別のものだということです。

 これを見ていただくと、文明が上がったり下がったりするところで、いわゆるルネッサンスの文明が上がっているときに西洋は上がっているのですが、東洋が下がっているということがあります。つまり、東洋と西洋というのは陰と陽。東洋が良いときは西洋が悪い、西洋が良いときは東洋が悪いということで、お互いに上がったり下がったり、反対の関係にあるわけです。これは、最近の地球物理学の研究によると、地球の軸が歪んでいるわけです。地球というのは、800年・800年の、1600年の周期で歪んで動いている。だから、800年間暖かい時期が続いて800年間寒い時期が続くというのが今までの地球であったわけです。暖かい場所があると、その裏側は寒いという感じだったわけです。

そういうことで約6500年きたわけですけれども、今から50年前に世界を引っ繰り返すような発明がありました。それはジェットエンジンの発明であります。ジェットエンジンによって世界中どこにでも1日で行けるようになったわけです。これは第二次世界大戦のおかげでありますが、このジェットエンジンの発明で世界が一つになりました。東京からほとんどの所にワンホップで飛行機で行けるようになった。東京からニューヨーク、東京からロンドン。昔はロンドンとかニューヨークに行くためにアンカレッジで止まっていたわけです。今は、ブラジルなどの南アメリカにはニューヨーク経由でしか行けないですけれども、これが時間の問題で直行便が出るような時代がやってくると思います。

 ジェット機というのは地球の裏側まで行くのに約20時間かかりますけれども、20msしかかからない新しいネットワークが出ました。それはインターネットです。90年の初めぐらい、今から10年前に、インターネットによって世界はつながったわけです。

そう考えますと、この2ページのパワーウェーブを見ていただくと、今までは世界の国々はばらばらだったのが、50年前に世界がジェット機でつながって、10年前にインターネットでつながったときに、世界はどうなるのかということを我々はこれから真剣に考えていかなければいけません。

 それから、800年周期を考えると、800年前にイタリアのヴェニス(当時はヴェネチア共和国)だけが独立した国家だったわけですが、ここでルネッサンスが始まりました。このルネッサンスの運動というのは、その前の「暗黒の中世期」と呼ばれる、ヨーロッパで気温が寒かった時期から、だんだん暖かくなって食べ物が豊富に取り入れられるようになったときに、文芸復興という形でヴェニス、イタリアの北側で始まった。ちょっと前までは我々が日本で文化というと西洋の文化を意味していたわけですが、その西洋の文化そのものが実はこのルネッサンスから始まる西洋文化ではなかったかと思うわけです。それが、実は今、800年ぐらいたって、どうなるのかが問われている時期であります。

 それから、インドとか中国とか、これから新しく伸びていく国がある。つまり、西洋の文明がこういうふうになりつつあるときに、中国とインドはこう上がりつつあるときに、その間で日本は一体どうしていくのかということを、歴史的な大局観を持ってこうするのだというふうに決心をすること。それは我々のようなビジネスマンや学者の仕事ではなく、歴史家の仕事でもなく、間違いなく政治家の仕事であります。私が国会の先生方にずっとこの10年間申し上げ続けてきたことは、歴史的な大局観を持って情報技術を論じていただきたいということであります。

 次のページにいきまして、3ページ目には、このルネッサンス以降の西洋の成功のパターンを分析したものがあります。

 西洋の成功はまずヴェニスであったわけですが、ヴェニスの次にスペインとポルトガル。スペインとポルトガルは王様と女王様が世界中に出ていきなさいと。船を仕立てて北アメリカ、南アメリカ、東洋に行くということを、スペインとポルトガルがしました。そして、占領したものの半分を税金として王様が取る、あとの半分はみつけた人が取ってよろしいというふうに言ったわけです。それによってスペインとポルトガルは世界中に手を延ばしました。またスペインとポルトガルがやったことは、どこに行っても現地の人を皆殺しにしました。インカの文明とかマヤの文明というのはスペイン人とポルトガル人に全滅にされたということが言われております。

 殺して奪うということをスペインとポルトガルはやったわけです。日本は出島をつくってオランダとは交易をいたしましたが、その前の日本とスペインの関係、日本とポルトガルの関係というのを我々の先祖が一つ誤っていたらどういうふうになっていたのか考えると、冷や汗の出る思いがするわけであります。

 そんなことで、スペインとポルトガルが皆殺しをしてやることは、結果的には100年も続かなかったわけです。

 その後にオランダがやって来ました。オランダは、皆殺しをしないで、交易をやりました。ビジネスをやった。モノを売りつける。その反対にモノで買う。バーターと言います。これをオランダはやって、長崎の出島でオランダと日本との交易をしたというわけです。ですから、最近ちょうど日本とオランダの400年記念というお祭りがありましたけれども、これは天正の時代の後、つまり徳川になる前の秀吉の時代から、日本とオランダの関係があったということを物語っているわけです。

 オランダはどういうことで厳しい状態になったかといいますと、オランダの特産品にチューリップがありますが、チューリップを売り買いするバブルが発生しました。オランダのバブルは、とうとうチューリップの値段が、チューリップ一つでオランダの家が一つ買えるという値段になってしまった。投資のために買ったチューリップの球根を家の金庫の中に置いているわけです。それを間違って豚が食べちゃって自殺した人の話とか……ちょうど株の値段が下がってしまって自殺した人がいるみたいに。そんなバブルがあった。

 それでオランダの経済は致命的な打撃を受けて、その後、世の中の覇権はオランダからイギリスに代わっていったわけです。イギリスはオランダと違って、バーター貿易をしないで、イギリスの海軍、つまり女王陛下の海軍(ロイヤルネイビー)を使って、インド、中国、オーストラリアなどの国々を占領して、植民地にしたわけです。この植民地政策によってもちろんイギリスは100年ぐらい非常に豊かになったわけですが、植民地政策というのはしょせんやはり100年しか続きませんでした。

 この100年後に、本当はイギリスはだめな国になるはずだった。ところが、イギリスは今までの世界の歴史の中で誰もがやったことのないような快挙をします。それが産業革命であります。ジェームス・ワットが蒸気機関を発明したこと。蒸気機関車、工場、蒸気船と、いろんなものに応用をして、それで産業を興すということをイギリスはやってのけたわけであります。植民地が続々と独立するときに、イギリスはその植民地の利益を自分の国に再投資をして、産業革命をやり遂げたわけであります。しかし、この産業革命も100年しか続きませんでした

 産業革命の次にやってきましたのは、蒸気機関ではなくて、ガソリンでありました。ガソリンエンジンです。つまり、石炭を焚いて水を沸かす、そして動かすというメカニズムから、ガソリンに火をつけて、それでエンジンを回すというガソリンエンジンを発明したのはイギリスとかドイツとかという国でありましたけれども、このガソリンエンジンを安くつくってたくさん売った国は、実はイギリスではなくてアメリカだったわけです。それが1900年の最初。

 1908年にヘンリー・フォードがクルマをつくりました。フォードのタイプTと呼ばれるT型フォードという有名なクルマですけれども、このクルマが1908年に発売されて、1900年代というのは20世紀ですから、20世紀はクルマの時代。また、ガソリンエンジンで発電し、この発電した電気を使って、産業革命の次に工業革命ということをアメリカがやったわけです。

 今はちょうど21世紀になったばかりの2001年でありますが、このガソリンエンジンの繁栄というのは、今、100年たって怪しくなってきています。アメリカはいま何を考えているのか。アメリカは、ガソリンエンジンに代わる新しいエンジン、つまり情報エンジンを世界的に売り続けることによって、新たにアメリカという国の繁栄を100年延ばそうとしている。それがアメリカの政治、アメリカの社会、アメリカという国の非常に大きな合意であるわけです。

 ですから、日本の政府の方が、アメリカに対抗する、アメリカの先を行くということを何度も何度もいろいろ言われますけれども、私はアメリカに挑戦をするということは全く無謀なことであるというふうに思うわけです。私は、日本はアメリカにとってなくてはならない国になるべきであって、アメリカとけんかをする国になってはいけないというふうに思うわけです。

 それが3ページでありますけれども、アメリカの考えていることは、情報革命ということと、情報という技術を使って今までの産業革命、工業革命のプロセスを新しくつくり直しをするということと、食物の生産を情報革命を使って新しくつくり直すということであります。

 4ページにいきますと、先程申し上げたことをまとめて書いてあります。

 5ページは、アメリカは今から8年前に、クリントンが大統領に選ばれたときに初めて、NIIということを言っています。NIIというのはナショナル・インフォメーション・インフラストラクチャーということで、国の情報基盤を整備するということですね。ちょうど今の森内閣が言っていることと同じです。日本はITを日本国全部に広めるのだということを言っているわけです。

 ところが、2年たった後に突如、クリントン政権は、ゴア副大統領は、NIIでなくてこれからはグローバルである、アメリカは世界中に売るのだということを言ったわけです。このGIIを言ったときに我々はたいへん驚きまして、なぜそんなことを言うのかということを調べました。どういうふうに変わったのかということを調べました。で、分かったことは、変わったことは、技術ではなくてターゲットが変わったということです。アメリカの国内ではなくて世界中を対象としてアメリカはビジネスをするのだという、そこが変わっていたわけです。

 6ページにいきまして、つまりアメリカの戦略は何かということですが、イギリスが産業革命で100年生き延びたように、アメリカはITの情報革命でもう100年、世界に冠たる国になろうということであります。そのためにこのアメリカの持っている情報技術を世界的に売ろうと。ですから、アメリカはすべてのことを考えるときに前提として、世界的であるということと、英語を使うということと、ドルを使うということと、ノウハウは絶対ほかの国には見せないという、この四つは公然の秘密でありますが、アメリカの産業界の申し合わせ事項みたいになっております。ですから、日本の会社がアメリカに行ってノウハウを教えてとほしいというと、必ず断られる。そういう状況があるわけです。

 7ページにいきまして、「北の論理」ということと「南の論理」と書いてありますが、アメリカは情報化をさけぶときに、アメリカがいいだけではない、ほかのヨーロッパの先進諸国も絶対にハッピーになる、また開発途上国もハッピーになるというふうに言っているわけです。これは私はウソでも何でもなくて事実だと思うのです。

 つまりどういうことかというと、どうしてアメリカがアメリカをIT化するのかという非常に大きな理由づけは三つありまして、一つは、ITによって産業の活性化をする。効率化をするということです。

 二つ目は、新しいIT産業を創る。このIT産業が元気になって、世界中にいろんなものを輸出して、アメリカの富をかせぐということ。

 三番目が、情報のディスクロージャー。つまり、インターネットによってすべての情報をオープンにするということは、民主主義を守る方法であるということをアメリカは言っている。情報公開は要るというふうに言っています。

 次に途上国に対しては、情報化をすると、情報化がなかった時代に50年かかった日本の繁栄、20年かかったシンガポールの繁栄が、10年でできるようになる。ですから、うまくやればあなたの国は先進国の仲間入りを10年でできるということをアメリカは言ったわけです。

 それから、マルチメディアのビジネスについては、能力のある人がいる限り、世界中のマルチメディアビジネスに、どんな国でも、どんな会社でも、どんな個人でも参加することができるということが、アメリカの大きな、ITをやろうという働きかけというか、誘いかけの大義名分であります。

 8ページにいきまして、ここまでのご説明で、インターネットとマルチメディアというのは21世紀のアメリカにとって命がけの事項であることが、皆さまにお分かりいただけたと思うのです。インターネットとマルチメディアの覇権に挑戦をする国というのは、実はアメリカに対する挑戦なのだと。アメリカのIT産業に対する挑戦ではなくてアメリカに対する挑戦であるということを、我々は認識する必要があります。

 インテルという会社が暴利を貪っております。マイクロソフトという会社が税引き前で28%の利益を出している。28%の利益ですよ。マイクロソフトのウィンドウズって、1本8万円するのです。ヨドバシカメラで8万円、まともに買ったら10万円。コストいくらだと思います? 私が考えるところ、CD-ROMが60円、説明書が100円、箱が40円ですよ。だから、200円。200円のものを10万円で売っている。こう言うと、開発の経費がどうだとか言われますけども、そういう時代なわけですね。それをコピーすると、万国著作権条約で手が後ろに回る。そういう仕組みになっておるわけです。それを逆アセンブルして分解して研究をすると、トレードシークレットの違反ということで、これも手が回ることになっております。

 そういうことで、基本的に、アメリカと喧嘩するとかアメリカに挑戦するというそのスタンスを考え直さなくてはいけないのではないかと思うのです。

 次(9ページ)にいきまして、2010年の巨大都市の人口予測ということで、世界銀行が調査をしたものですけれども、21世紀にこういう国が大きくなる。というか、むしろ21世紀というのは都市の時代だと言われていますから、国というよりも大きな都市(メガシティー)が注目される時代になるだろうということなのですが、この大きな都市が全部インターネットでつながる。東京というのはたまたま、現在も世界でいちばん大きな都市なわけです。モンタナというクリントンが出た州がありますけども、日本はモンタナ州と同じぐらいの大きさの国であります。それよりも、東京というのは世界でいちばん大きな都市であるということを、まず我々は誇りに思っていいと思うのです。いちばん大きな都市は東京である。その後、ブラジルとかインドとか中国とかナイジェリア、メキシコ、中国ということで、世界の大都市が間違いなく今から10年以内に全部インターネットでつながります。

 インターネットでそういう都市がつながったときに、我々はどうしているのかということを真剣に考えなければいけない。また、インターネットでそういう街がつながったときに、どういう問題が出てくるのかということを考えなくてはいけないわけです。アメリカは当然そのときにインターネットだらけになっていると思うわけです。アメリカがほぼ100%、インターネットだらけになっているときに、世界の国々にインターネットが普及していくときにいろいろ問題が出たら、我々はそれをどういうふうに解決していくのかということが大きなテーマであるわけです(10ページ)。

 このブレゼンテーションの資料に特別書いておりませんけれども、タイで通貨危機がありました。インドネシアで通貨危機がありました。韓国で通貨危機がありました。そのときにアメリカのとった政策を皆さん憶えておられると思うのです。タイもインドネシアも韓国も、危機においてアメリカは何をしたか。全部、だめな会社を切り捨てたわけです。アメリカの財務省の偉い人が、「だめな会社はつぶれればいい。だめな国はつぶれればいい」というふうに言ったのです。

 今、韓国はインターネットがたいへん進んでいます。アジアの国で今さしあたって大きな危機に瀕している国はないわけですが、ある国が一つ困ったことが起こったときに、アメリカはそれを助けないと思うのです。そうするとそういう国は、はしごをはずされて困ることになる。同じアジアの国の中で困ったことが起きても、押っ取り刀で「まぁまぁまぁまぁ、気長に長い目で見ましょうよ」というふうに自信を持って言えるのは、恥ずかしながら日本だけであります。そういう国とアメリカの間に入って、0か1かの、白か黒かのアメリカの政策のバッファの役目をするというのが、21世紀に日本が果たしていかなければいけない役目じゃないか。そのためには、日本はなるべく早く元気にならなくてはいけないと思うのです。

 ということで、11ページにいきまして、これがいちばん大きなインターネットの持っている問題です。「欠陥」というふうに言うと問題ですので、「インターネットのはらんでいるいちばん大きな危険」とでも申し上げることができると思いますが、インターネットは英語が標準語なのです。ヤフーというインターネットの検索ソフトがあります。インフォシークという検索ソフトがあります。こういう検索ソフトを日本で皆さま方がお使いになると、日本のインターネットしか検索できない。英語で書かれているのはアメリカとイギリスだけなわけです。アメリカとイギリスは、検索しようと思えば英語をしゃべらなきゃいけない。フランスのものはフランス語、ドイツのものはドイツ語ということで、インターネットの知識というのはそれぞれの国の言葉で書かれています。でも、いちばん多いのが英語。だから、英語がしゃべれない人は、インターネットの過半数を占める世界の進んだ知識から置いてきぼりにされています。

 アメリカの人はどう言うか。「英語を勉強すりゃいいじゃないか」と。しかし、今から世界中のすべての人が英語を勉強して、それが世界にとって幸せかという問題があります。スワヒリ語もある、ヒンズー語もある、中国語もある、スペイン語もある。英語は必ずしも世界の標準語ではありません。アラビア語もあります。日本語もあります。でも、アメリカがいま言っていることは、英語を使って知識を、英語を使ってインターネットを動かそうということなのです。

 ですから、私は、英語を勉強するということが必要だと言うと同時に、インターネットが英語を勉強しないでもそれぞれの国の言葉で使えるようにする必要があるのではないか。少なくともコンピュータのエンジニアは、すべての国の言葉をインターネットで動くように努力をするべきではないかということを、私はアメリカのボストンのマサチューセッツ工科大学でやっておるわけであります。日本でいくらそういうことをやってもだめだということに私は気がついたわけなのです。

 ということで、12ページにいきまして、これが実は知識の南北問題と言われるものであります。豊かな国と貧しい国ということが南北問題でしたが、実は知識の南北問題というのはおカネの南北問題よりもはるかに大きい。これからの時代を背負って立つ子供たちだけは、アメリカと日本とヨーロッパとアジアとアフリカとラテンアメリカの子供たちは、何とかして同じレベルで勉強をスタートすることができないか。13ページですが、それを私は考えておるわけであります。

 14ページにいきまして、南北問題の次は東西問題というのがあります。先程のいちばん最初のパワーウェーブでご説明いたしましたが、東西問題というのは、東洋と西洋がお互いに絶対に分かり合うことのできないような文化的な背景を背追っているということであります。西洋的な背景を持っている人に東洋的なことを分かってほしい、東洋的な背景を持った人に西洋的なものを分かってほしい、という困難さがある。何でもかんでもいい加減なものをぜんぶ一緒にまとめて東洋という東洋らしさみたいなのを西洋に分かってほしいというのは、無理があるのです。イエスとノーとはっきり言わない、それが東洋だと言っても、西洋は分からないわけです。この分からない同士の対立というのが東西問題であります。

 今まではバラバラだったからよかったけれど、そうではなくて、ノックしてドアを開けるとそこは東洋、ノックしてドアを開けるとそこは西洋になっている現在、お互いに分からないとか、お互いに話をしなくていいということでは、もはや務まらないわけです。

 この東洋と西洋を同じようにミックスした社会がどういうふうになるのかということが15ページに書いてありますけれども、16ページにいきまして、つまりこの東西問題、南北問題というあたりを解決するのがインターネットではないかというふうに、私は思うわけです。

 次に、「これからの日本はどう取り組んでゆくのか」(17ページ)ということであります。18ページにいきまして、今まで覇権を確立した国というのはイギリスとアメリカでありますが、イギリスもアメリカも世界から巻き上げたおカネ、もうけたおカネを、きちんと意味のあるように使っているわけです。イギリスはイギリスのインフラの整備。ロンドンの地下道が完備されている。植民地の教育、植民地の病院、植民地の教会。シンガポールにしても、香港にしても、インドにしても、イギリスが教育をしたから英語が世界語になっています。アメリカは、もうけをほとんど全部、軍事の拡大に使いました。軍事技術を確立することによって、この軍事技術は一般の民生用の技術に応用することができました。ということで、アメリカが世界でいちばん進んだ国である、産業的にいちばん成功してるい国であるということのいちばん大きな理由は、結構な技術が軍事技術からきているということで分かっていただけると思うわけです。

 日本はどうか。日本は、たくさんもうけましたけれども、特にこの戦後50年、復興から先進国の仲間入りをするプロセスにおいて、たいへん多くのおカネをもうけましたが、実は日本はバブルでそのほとんどを使ってしまったところがあります。技術に使う、インフラに使う、教育に使う、そういうふうな使い方をした国が存在している反面、我々は過去のバブルによっておカネを全部使ってしまったということが、今の日本の現状ではないかと思うわけです。戦争が終わった後の焼け野原。今の日本の状況はそんな感じです。私はそのときまだ生まれてなかったけれど、新宿の西口に闇市が出て、みんなが元気に動き回っていたあの日本と、経済的には全く同じであります。

 違うのは、日本人の気持ち。戦後、おれたちはもう一回やるんだと、泣きながら元気だった日本人の姿は、今はなくて、我々は何をしているのか。それは、誰でもいいけど、総理大臣のことを意地悪を言う、ばかにする。日本の政党が何をやっているかと言ったら、ひとの悪口を言っている。名前は言わないが、ある国会議員が、森さんが退陣をするというふうになったときに、どう思うかと聞かれて、ニコニコして笑って、「これで日本はよくなる」と言っているのです。私はそれを見てたいへん腹が立ちました。戦国時代の武将は、敵が死ぬときに自分も喪に服せといったのです。相手の大将の首をはねるときに、自分も喪に服して、黒い着物を着て、相手の冥福を祈ったという。政党のトップだったら、それぐらいしてもいいと思う。同じ国会議員として、いくらできない首相だったかもしれないけど、ひとが辞めるというのは悲しい。私がその人のスピーチライターをやるとしたら、私はそういうスピーチを書く。今、日本はそんなひとの悪口を言っている時代ではないのです。戦争が終わったときに日本人がぜんぶ元気がなかったら、日本の復興はあり得ない。今は戦争が終わったときと同じなのです。

 そういうところが、次のページにいきまして19ページですが、日本の50年間に蓄積された豊かさは全部なくなってしまったわけであります。

 20ページの表を見てほしい。皆さん、イギリスとアメリカと中国とインドとブラジル、こういう大国の持っている可能性と日本の現状をぜひ比べていただきたい。日本は人口が減りつつあります。中国もインドもブラジルも増えている。日本は、日本でしか話されていない日本語しか使っていない。日本人は英語がしゃべれない。日本は1日にすぐ何円も動くようなぼろぼろの為替レートの円という通貨を使っていますけれども、円というのはアメリカがくしゃみをすれば動いてしまうわけです。

 日本の自衛隊は、50年間、戦争したことがありません。自衛隊というのは何か。アメリカの高い飛行機を買って、なおかつ地震のときに出動するのが自衛隊であります。戦争したことがない。アメリカの空母というのは6000人乗っているのです。一遍アメリカを出発すると、6ヵ月間、世界を回るのです。空母の乗員は、出発するときに、ひょっとしたら戦争になるかもしれないということで、実弾を使って、本物の核兵器を使って、毎日練習しているわけです。世界を空母を使って脅しにいっているわけです。

 それから、情報通信と情報家電ということで、NTTドコモが1兆円でアメリカの電話会社を買いましたけれども、アメリカ人はみな笑っているわけです。なんでAT&Tに1兆円も出すのと。そういうことがあります。

 ということで、こういう世界的な日本の位置、相対的な日本の位置を考えると、私は問わざるを得ない。どうしたらいいのでしょうかと。何もしなかったらどうなるか。何もしなかったら、イギリスみたいになります。何もしなかったら、オランダみたいになります。風車があって、チューリップがあって、みんな観光に来る。何もしなかったらヴェニスにみたいになる。観光立国になります。それていいのだったら、いい。でも、私は言いたい。いやだと言いたい。日本人はそんなことを求めてはいないのです。

 次のページ(21ページ)にいきまして、アメリカに学ぶ日本の問題ということで、五つの大きな問題が日本にあると思います。国家予算の赤字と、貿易収支と、教育と、医療と、宗教であります。1番、2番、3番、4番については、船田先生も畑先生もいろいろご努力をされたことでありますので、私は門外漢として発言するつもりはありませんが、5番目の宗教。

 数年前に我々は、オウムという大変な事件を経験したわけであります。私はオウムはなぜ起こったのかということについて、こう思う。日本人が宗教に絶望しているからであります。日本には仏教とキリスト教と神道と、三つ、大きな宗教があります。もちろんそのほかの宗教もある。生まれると子供を抱いてお宮参りに行く。結婚式は教会でやる。お葬式はお寺でやる。これを西洋の人に言いますと、「おまえ、大丈夫か。おかしいちがうんか」と言うのです。私は「日本人はみなそうだよ、日本人のかなりの数が、お宮参りに行って、キリスト教で結婚して、お坊さんに『南無阿弥陀仏』と言ってもらっている」と言っています。

 つまり、神道もキリスト教も仏教も日本人の心を救っていないのです。だからみんな新興宗教に走る。私は新興宗教を否定するつもりはありません。ただ、仏教とキリスト教と神道に帰るのもいいし、新興宗教ももう一回考え直したらどうかというアラームを、あの事件で感じたわけなのです。

 22ページを見ていただくと、「日本の選択」として我々の選択は三つあります。先程来申し上げていますが、ドジをひいたいちばん大きな国はフランスであります。1800年代の初めにフランスは、ナポレオンに続く政治家が間違った判断をいたしました。イギリスとフランスは戦争をして、フランスが敗けました。実はあのイギリスとフランスの戦争、ナポレオンが敗けた戦争というのがきっかけで、フランスは産業革命ができませんでした。

 ナポレオンの後を継いだナポレオン3世は、パリの都市計画におカネを使ったわけです。工場をつくらなければいけないところを、パリをつくったわけです。今のパリは世界に冠たる素晴らしい観光都市であります。大きな道路が走っている。あの大きな道路というのは、ナポレオン3世の時代にできたものです。そういうことをしなかった国がイタリアのヴェニスでもありますけれども、とてもクルマが走れるようなところではなかった。中世のヨーロッパの都市は、クルマが走れるような大きな道路はなかったわけです。パリが初めてヨーロッパで近代的な都市国家として成立したところがありますけれども、ロンドンに行かれたらお分かりだと思いますが、あのくねくねした小さな道、絶対わからないような住所。それよってロンドンは、タクシーの運転をしている人は非常に教養があるというふうに言われています。

 そういうことで、フランスは政策担当者が、間違った政策というか、フランスの選択をしてしまった。それが故に、フランスというのはドジをこいてしまったようなところがあります。

 ということで、私は日本の選択は三つあると思います。

 一つは、アメリカと目いっぱい仲良くするということです。現状の軍事同盟、日米安全保障条約を続けて、アメリカがカナダ、メキシコに広がっていくときに、アメリカの太平洋の向こう側のパートナーとしての日本。

 二番目のシナリオは、23ページが一番目のシナリオですけれども、24ページにいきまして、アメリカの軍事同盟をやめて中国と仲良くするということであります。これは日本にとっては大変なことだと思いますし、アメリカは絶対いやがることだと思いますし、中国と仲良くするということを自信をもって言い切れる政治家が日本にいるかという話。日中議員同盟とかいろいろありますけど、アメリカとの安保条約を破棄して中国と仲良くするということを党の大きな政治政策として掲げることができる政治結社があるか。私はそれは、今後出てくるかもしれないと思いますけれども、出たら、アメリカにとっても大変なことだし、日本にとっては本当にいろいろ決断をしなきゃいけないことじゃないかと思うわけです。

 三番目は、25ページですが、今までのアメリカのパターンは、ソ連とアメリカがいるというときに、中国と仲良くしたわけです。キッシンジャーが北京に飛んでアメリカと中国が同盟をし、ソ連を包み込むということをやりました。ですから、今度、アメリカとソ連のかわりにアメリカと中国になったときにアメリカがすることは、間違いなくインド。中国が二番目に嫌いな国はインドです。インドとアメリカが仲良くするということです。日本の選択としては、そのインドと同盟を結び、インドと日本が一緒になってアメリカと中国の間で綱渡りをする、バランスをとるということが、可能性として考えられます。

 私は皆さん方に申し上げたい。どうして日本の国会で総理大臣の悪口を言うのか。そんなことよりも、日本はこれからどうするのかということを、政治家の皆さんが話すようなことが本当の政治ではないか。それとも、100歩譲って、そういう政治的な話は、外務省の機密費で料亭に行ってお話をされるのでも私はいいと思うのです。お願いだから、悪口を言い合うようなことはやめてほしいと思うわけです。

 次のページから、272829と、いろいろありますけれども、ポイントは日本はどうしたらいいのかということです。結論から申し上げますと、31ページに、日本の役割はアメリカに協力することじゃないかと思うのです。少なくとも、これから5年間、恩を着せながらアメリカと仲良くする。アメリカから見て、32ページにいきまして、単なる日米関係ではなくて、世界が求める、必要とする、世界規模から見た日米関係。フランスも「おっ、いいやん」、イギリスも「いいやん」、中国も「あ、やってくれ」、インドも「どうぞやってください」という、すべての国から歓迎されるような日米共同プロジェクトを、日米としてやっていかなくてはいけないのではないかということを私は強く思うわけです。

 33ページ、喧嘩するとやはりみんな迷惑するわけです。

 34ページにいきまして、いま頑張らないと、日本のかわりに韓国と台湾がやって来て困ってしまう。だからインターチェンジが要るということであります。これはこの前、自民党の勉強会に畑先生にご招待を受けたときに申しましたことであります。

 ということで35ページは、アメリカと仲良くするけれども、日本はたまたま地理的に東洋と西洋の間にいる国だということです。つまり日本というのは、シンガポールのような、ちょっと前の香港のような、東洋でもない、西洋でもない。六本木を見てください。あんなネオンてかてかのニューヨークみたいなところはない。この東洋と西洋の中間地点の日本。それから、東洋と西洋というよりも、北の国と南の国の間に立っていろいろ途上国の面倒をみる。日本のODAがけしからんと言われているけれども、日本のように途上国の面倒を見た国はないと思います。日本がODAで今までおカネをいくら使ったのかということを足し算して、日本はODAでこんなことをしたということを本気でアピールする必要があるのではないか。これからのODAは、橋をつくることでも、港をつくることでも、道路をつくることでもなくて、教育とか情報だと思うわけです。

 ということで、36ページにいきまして、対話とか教育とか健康とか、こういったことをこれから追求してまいりたいと思うわけであります。

 最後のページ(42ページ)までちょっと飛んでいただいて、途中はぜひお読みいただければと思います。私はこれからの企業の姿勢として、企業の利益だけではなくて、企業の社会的な貢献を考えた公共的な私企業、公共的な私的な組織。私は、船田先生のご実家の作新学院が教育の理想を掲げてやってこられたことと、企業がおカネもうけをしているという、その基本的な考えに何ら違うところはないと思うのです。問題意識として社会の貢献ということなしに、そういう企業もそういう私的な学校法人もあり得ないのではないかという感じがします。

 だから、政府がインターネットで何をしているかを考えるよりも、ITの予算をぶんどってくることを考えるよりも、インターネットで何ができるかを真剣に、自分たちの企業が社会のためにということを真剣に考えなくてはいけないのではないか。そういうことを考えるために使わなくてはいけないおカネとして、おカネもうけをしなくてはいけない、ということも忘れてはいけないと考えております。

 ちょっと長くなってしまいましたけれども、私のお話は一旦ここで切り上げさせていただいて、トークセッションに入らせていただければと思います。


 西先生、そちらのお時間では真夜中にもかかわらずたいへん熱のこもったご講演をありがとうございました。

 私は西さんからこれだけ国際政治というテーマで突っ込んだご意見を伺ったのは初めてですが、日米が同盟関係というよりは持ちつ持たれつの関係を今後も維持し、相互に協力し合って世界の平和秩序の安定のために寄与していくという道が、いずれにしてもベストチョイスだと思っています。ただ、それにしても昨今の日本は米国にとってパートナーになり得るような魅力を、かなり失いかけているのではないでしょうか。

 例えばITに関しても、今後どれだけ日本が国際舞台でデファクトスタンダードをおさえられるものがあるのか。確かにiモードという超ヒット商品が登場し、また、西先生も資料に書かれている情報家電については、IPv6という技術で日本は他国に先んじてはいるものの、よほど戦略的にこういう技術や商品を使っていかない限り、アジアの中でさえ、もう中国や韓国そしてシンガポールといった国に早晩抜き去られるのではないか。「東洋と西洋の橋渡しをするのはもう日本以外の国でもいい。現にITなどのインターチェンジだったら既にシンガポールがやっているではないか」ということになってしまうのではないのでしょうか。

 また、最近私が専門としている分野のバイオについて触れますと、さまざまな技術競争、また特許をはじとした技術移転競争が熾烈さをヒートアップさせています。今後の研究開発におけるボトルネックとなるキーテクノロジーを日本が発明・発見し、更にそれを戦略的に技術移転して、国際ゲームの中での文字通り「切り札」として何枚かわが国が持っていると、気が付いたら世の中の重要ポイントは皆、アメリカをはじめとし他国に握られていて、日本は用無しのお払い箱で切り捨てられるのみ、という危険も十分あり得るのではないかと思います。果たして日本は今後も本当にアメリカのパートナーでいられるのでしょうか。

西

 今は非常にチャンスだと思うのです。というのは、ブッシュ政権になってから、クリントン政権の8年間をことごとく否定するという動きが出ています。いちばん大きな否定は、ご記憶も新しいと思いますが、クリントンは北京に非常に長い期間行っていたわけです。あのときなどを一つのきっかけにして、アメリカは中国の企業に対して莫大なおカネの市場での調達を許しています。つまり中国の企業、国家企業とか私企業が、世界の資本市場でおカネを引いたわけです。それが実は中国の躍進の非常に大きな原動力になっています。

 私はその確証があるわけではないですけれども、ブッシュ政権が今いちばんやろうとしていることは、中国企業の世界資本市場における資金の調達の禁止だと思う。囲い込みです。つまり、クリントンの政策が憎い、クリントンは甘いと。だから、ブッシュはそれをことごとく否定する。特に、中国がアメリカの潜在的な仮想敵国になるということを考えると、中国の国力を強めてはいけないというふうになっているのです。それはどういうことかというと、ソ連をつぶしたのはだれだったのか。ソ連そのものは引っ繰り返ったのですが、ソ連の近代化ができなかったというのは、ソ連企業に対するアメリカの、食糧封鎖ではなくて資本封鎖なのです。ソ連はいわゆるリベラリズムの分野で負けたということであります。ソ連はリアリズムだった、アメリカはリベラリズムだったわけですが、そういうところでソ連が負けたわけです。つまり、軍事競争の破綻は経済の破綻によって起こったということなのです。

 ですから私は、アメリカと中国の対立はこれからますます激しくなっていくと思います。なぜならば、ブッシュ大統領になってから、言っていることというのは、内政に関することと中国関連のことばかりだから。これは日本にとってはチャンスです。ITのことをブッシュは何も言わない。アメリカがITに関して日本をいじめようということを言わないこの今に、日本としてはさっさとやることをやって、アメリカと共同のプロジェクトをやって、日本はアメリカの同盟国として一緒にやろうとしているということをしっかり意思表示をするいい機会ではないかと思うのです。

 今のアメリカの政治的なトッププライオリティーというのは対中国だというふうに私は思います。ボストンにいて新聞を読んだりCNN見ていたら、CNNはアメリカのメディアだから結構アメリカ的な見方になってしまったのかもしれないけども、そういうふうな感じを受けるわけです。

船田

 これまで日本がいろいろと稼いできたさまざまな富が結局全部土地に投資され、しかもその土地の評価が下がって1/10になってしまったという話がありました。戦後日本人がこれだけ働いて築いてきた富がいつの間にかどこかに無くなってしまったという、分かってはいるのですけれども、指摘されてもなかなか認識したくないという状況があり、これをどう打開していくのかという問題があります。

 その解決の糸口として西さんが先程おっしゃったのは、アメリカとどのように上手く付き合うかということです。これは私も前から考えておりまして、アメリカの大統領がブッシュジュニアになりましたが、本来共和党というのは、外向けにいろいろな情報の発信をしたり、また戦略をどんどん追求していく、これがアメリカの共和党の過去のいい面でありました。もちろんそれによっていろいろと問題も起こしましたけども、いい面もあったと思います。

 しかし、今回のブッシュの共和党はスタートしたばかりですから、まだ国内の体制が整っていないのかもしれませんけれども、かつてクリントンやブッシュのお父さん、あるいはレーガンの政権が始まった初期のころには、世界戦略というか、世界的にアメリカはどうしていくのか、あるいは日本に対しても、あなたは世界の中でこういうふうに動くべきであるといった、サインあるいはシグナルを相当強力に送っていたように思うのですが、どうも今回のブッシュ政権ではそれが見えない。モンロー主義とまではいきませんけれども、まだ力が発揮できていないのかなという感じがします。

 ですから、私は西さんと結論は同じなのですけれども、この時期にやはり日本はアメリカに対して、「こういうことをやりましょうよ」あるいは「日本はこうしたいのだけれども、どうなのでしょうか」ということを示すべきだと重います。今、日本国内は非常に厳しい状況にあり、また森首相の進退もどうなるか分からないのですけれども、そういう状況で時間を費やしている、無駄にしているというのは、本当に日本にとって無駄なことであり、非常に残念なことだというふうに思っております。

 アメリカとの付き合い方、そして、アメリカがまだ対外的に目を向けていない今、やはり日本はその先手を打って、その先を読んで、アメリカがやりやすいような状況をつくってやるというのが、非常に大事なことだと思っておりまして、これは西さんのおっしゃるご指摘、全くそのとおりだと思っております。


 せっかくトークセッションが活況を呈してきたところだったのですが、残念ながらお時間がきてしまいました。

 日本が危機に瀕しているこの時期に西さんがMITに行ってしまうということは、日本人にとって非常に心細いことでありますが、今日のお話の締めくくりとして、もしこの点が変われば、日本の将来も希望が持てるという点がありましたら、繰り返しになるのかもしれませんが、端的に一つだけご指摘いただきたいと思います。

西

 1日や2日では日本は絶対変わらない国です。1ヵ月でも2ヵ月でも変わらない国だと思う。だけど、2年か3年だったら変わると思うのです。

 僕は、この2~3年は日本は夜明け前だと思います。昨日も一昨日も寒かったでしょう。いつがいちばん寒いと思いますか。夜明け前です。でも、これから間違いなく春は来る。2~3年たったら日本は絶対良くなると思います。

以上