勉強会 vol. 2(平成8年2月2日)

講師

岡本アソシエイツ代表 岡本行夫先生

 2月2日は風花の舞うとても寒い日になりましたが、 80名近い方々にお集まり頂きました。 また今回はあらかじめ皆様に、岡本先生に対する質問を募っておりましたところ、 多くの方々から台湾情勢についてのご質問を頂きました。 岡本先生は「日本の政治は台湾問題に無関心すぎる。 皆様がこの問題に興味をもっておられることを大変心強く感じます。」と述べ、 急遽演題を変更して、緊張高まる中国・台湾関係についてお話しして下さいました。

I.岡本先生講演要旨

 東アジアにとって今一番重要な外交案件が何かというと台湾問題だと思います。 南北朝鮮の問題はだれもが心配しますが、 南北朝鮮の問題は歴史的流れでみれば融合の過程だと思います。しかし台湾は逆です。 台湾と中国の国家が双方とも合意しながら統一していくというのは十年二十年ではありえない話です。 “中国統一”というのは台湾と中国で同じことをいっているようですが、 同床異夢です。台湾が自らの独自性をもったままで一つの国として存在するか、 それとも中国が台湾を一つの省としての扱いで自分のところへ引き込むか、 その二つの間には基本的には接点はないと思います。 中国は台湾が独立すれば武力侵攻するでしょう。 これは中国が以前から明らかにしている政策です。 この路線を踏み外すことは中国政界の権力闘争で失脚を意味します。
 中国の軍が戦争を欲していることは、いろいろな情報から見て明らかだと思います。 では中国が武力に訴えようとした場合、その行動を抑止する力はあるのか。 台湾は今、誰からも守られる立場にない。 アメリカは台湾関係法<台湾リレーションズアクト(TRA)>という法律を持っているが、 TRAは台湾人民に対して危害が発生した場合は、 アメリカは適切な措置をとると書いてあるだけで、 守る(=防衛する)とは書いてありません。

 1.東アジア─日本の役割

 そこでアメリカと日本が問題になってくるわけです。 現在、台湾寄りの共和党が上下両院を制しているので、 アメリカは中国に対する相当な抑止力として動く。そして次に問題になってくるのは、 どこから動くかということです。その場合、アメリカは日本を本拠地にするでしょう。 日本は安保条約上米軍を憲法の範囲内で支援する義務があるわけです。 なぜかといえば、安保条約はまず第一に日本を守る(5条)ためのものであります。 第二番目に極東を守る(6条)ためのものです (条約論でいえば極東は台湾を含んでいる。)。 そしてアメリカの行動が極東の平和と安定を守るための行動である限りは、 日本はアメリカを支援してやらなければいけないということが安保条約の仕組みです。
 ですから今台湾の人たちが熱い目で見ているのはTRAと、もう一つは日米安保ですね。 TRAだけ見ていると防衛するとははっきり言わないが、 日米安保の6条(極東防衛)を合わせて読めば、 これはアメリカと日本がこの地域の平和を守ってくれるということになる。 問題は実際に6条事態が発生し、第7艦隊が行動を始めたとき、 本当に日本が安保条約に従ってアメリカに支援をしてやるかということです。 これはなかなか難しいでしょう。 「どうして台湾を守るために日本はアメリカに基地を貸しているんですか。」 とそういう話になる。 まさに沖縄問題が台湾問題を契機にもう一度爆発する可能性があるわけで。

 2.日米安保─日本の支援

 しかしアメリカは6条事態、つまり極東のどこかに紛争が起こって、 そしてそれが日本に飛び火してくる、 これが日本の安全を脅かすシナリオだと考えている。5条事態、 つまり日本だけが単独で攻撃を受けるという事態は想定していない。 だからこそ日本がアメリカを安保条約に基づいて支援できるかどうかが大切になるのです。
 日本にはアメリカにとって大事な戦闘物資がたくさん置いてある。 そして仮に日本がその搬出に協力しないということになれば、 アメリカのオペレーションを日本が妨害するということになる。 その時には日米関係は破綻します。所詮経済の話(貿易摩擦) で国家の関係が断絶することは考えられませんが、 しかし安全保障の話は血の話ですから、これは十分あり得ることです。
 今の状態で中国が台湾を攻撃した場合、最大の敗者はだれかというと、 当事国を別にすれば、日本だと思います。何よりもアメリカとの関係がダメになる。 そうならないためには中国に対して、日本の立場、態度をきちっと表明し、 台湾に対しては「ちょっと待て」と諌めていくことが大切だと思います。 諫めると言っても、そのためには日台間の信頼関係が必要です。 残念ながら、今の日本政府の対台湾政策ではいくら台湾に「せっかちな行動をとるな」 といっても、聞いてもらえないでしょう。日本は対中政策、 対台湾政策を現在の10対0から9対1に引き戻す努力が必要になると思います。
 今日は日米関係ということで参りましたが、 ご要望の多い台湾情勢となりましたがお許し下さい。

II.意見交換会~東アジアを考える

 東アジア情勢について活発な意見のやりとりが行われましたが、 なかでも対中国政策については対台湾政策に関連して皆様の興味関心が強かったようです。
 「対中国政策について、 これから我々は中国のどの部分を押さえていけばいいのか。」という問いに対し、 岡本先生は「今の政権が江沢民色を独自に出していくためには、 前政権のように外に対してゆったりとは構えないと思います。歴史的に中国政権は、外に対して融和的なことを言えば失脚する。 特に政治権力の抗争が国内に渦巻いているときには、 外部に強いことを言わなければ生き残れない。」とし、 「しかし今の江沢民達の世代(60歳代)の下の世代(50歳代) には有力な指導者層が育ってきています。 この人達は江沢民達の世代よりはもう少し平和的ですし、 台湾に対しても合理的な政策を採っていくのではないかと思います。 彼らが第5回党大会でどこまで上がってくるか、 ここ1~2年くらいの中国の世代交代と、それから保守派、 現体制の確執を見ていくことがポイントだと思います。」と述べられました。