経済産業委員会・交通情報通信委員会 合同審査(平成12年11月27日)

質問テーマ

[高度情報通信ネットワーク社会の形成]IT基本法案質疑質疑

質問のポイント

1. 基本理念

  •  ITを利用すれば、必要な情報を、必要とする人や場所に、必要な時、 必要な量だけ、きわめて迅速かつ低コストに届けることができ、 その結果として世の中を劇的に変化させることが可能となる。
     しかし、昨今のITブームの中、まるでITの推進それ自体が目的のように誤解されがちだが、 ITはあくまでも単なるツール(道具)に過ぎず、だから使いようによって毒にも薬にもなる。
     従ってもしわが国が本気でIT立国を目指すのであれば、 ITを活用して日本は一体どのような国になろうとするのか、 その国家ビジョンや望まれる明日の社会像を、まず明確に設定しなければならない。
     今回の「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法案」の中にも、 この点については当然書き込まれていると思うが、 IT担当大臣からいま一度ご説明をいただきたい。
  •  デジタル・ディバイドを是正し、ITによる恵沢をすべての人々、 すべての分野にあまねく平等に行き渡るようにするのが理想だとは思うが、 そちらにあまりにも力点が置かれてしまうと、 世界のトップランナーとなれる人材や地域や企業や分野への支援が相対的に薄くなり、 国際競争での日本の勝利や生き残りは危うくなる。 時として二律背反することもあるこの二つの視点のバランスを、 IT担当大臣はどのようにお考えか。

2. 公正な競争の促進

  •  法案の第七条と第十六条に書き込まれているように、 わが国がIT立国を目指す上で最大の課題は、公正な競争環境の整備である。 ただ、実際にこの問題を解決しようとする場合、 ユニバーサル・サービスのあり方も含めたNTTの再々編や米国のFCC のような通信市場における規制機関の設置といったテーマは避けては通れない課題だと思うが、郵政大臣はいかがお考えか。

3. IT(高度情報通信ネットワーク社会)推進戦略本部

  •  高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は、 第三十四条に重点計画を作成するよう定められている点から見ても、 わが国のIT国家戦略そのものを策定する使命を担っている。 とすればそのメンバーに誰をあてるかは、きわめて重要な案件である。
     民間からのメンバーは、内閣総理大臣の任命によって選ばれるとのことだが、 選定にあたっては21世紀のIT国家戦略を策定するにふさわしい人物が選ばれるよう、 特にネット時代をリードしているベンチャー起業家たちを是非とも数多く登用して頂けるよう、工夫と配慮を願いたい。

質疑要旨

畑 議員

 インターネットに代表されるITは、確かにある意味で「魔法の杖」である。 なぜならこの世のすべての営みは、政治や経済、外交や安保といった社会現象から、 化学反応などの生命現象、そして気象現象に至るまで、 すべて「情報」のやり取りに帰結し、 ITはこの「情報」のやり取りを革命的に進化させることができるからである。
 つまりITを利用すれば、必要な情報を、必要な人や所に、必要な時に、 必要な量だけ、極めて迅速かつ低コストに届けることができ、 その結果として世の中を劇的に変化させることが可能となる。
 構造変革を起こさせることができる大変有効なツールだと理解しているので、 その意味では魔法の杖と言える力をITは持っていると思うが、 だからといってそれを振りおろせば必ず人々が幸せになり、 世界が平和になるかと言えば決してそうではない。
 昨今のITブームの中、まるでITの推進それ自体が目的のように誤解されがちだが、 ITはあくまでも単なるツール(道具)に過ぎず、使いようによっては毒にも薬にもなる。 ところが、ITをとにかく多用しさえすればそれで世の中が幸せになる、 あるいは世界が平和になると思っている方が多いのもこれまたしかりである。
 しかし、ITを使うことで幸せにしてもらおうという受身の姿勢はナンセンスで、 むしろ「ITを必ずや人類の幸福や地球の平和、繁栄のために使うんだ。 ITを使いこなして絶対に幸せになるんだ」という強い“意志”こそが、 いま最も重要である。従って、もしわが国が本気でIT立国を目指すのであれば、 ITを活用して日本は一体どのような国になろうとするのか、 その国家ビジョンや望まれる明日の社会像を、まず明確に設定しなければならない。
 今回の「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法案(IT基本法)」の中にも、 この点については当然書き込まれていると思うが、 IT担当大臣からいま一度ご説明をいただきたい。

堺屋太一 IT担当大臣

 御指摘のとおり、ITはあくまでも道具であり、 道具が普及することが目的ではなしに、 その道具を使ってどのような世の中をつくるか、どのような生活をつくるか、 それが重要な問題だと思う。
 本法案においては、第一条に、 「ITの活用により世界的規模で生じる急激かつ大幅な社会経済構造の変化に的確に対応するために、 高度情報通信ネットワーク社会の形成を推進する」と規定し、第二条では、 「当該社会を、インターネット等の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報や知識をグローバルに入手し、共有し、発信することにより、 あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能になる社会」と定義している。
 しかし、この定義は、どちらかといえば技術的な面を強調しており、 その背景にある社会構造がどういうものかということを考えると、 グローバルな情報の交換、共有により、 各個人が好みの縁でつながるような新たな人間関係が構築できる社会、 いわば「好縁社会」「好みのえにしの社会」と呼ぶべきものだと考えている。 こういう社会は、大昔の血縁社会、地縁社会、 そして戦後日本にできた職縁社会に続く第四の社会構造ではないかと思っている。
 次に、産業経済の面で見ると、ITによって生産、流通の生産性が向上する。 それによって新規需要が創造され企業経営が効率化し、 これを通じて経済産業が活発になるであろうし、 さらに文化の面でも独創的な文化創造や研究活動ができるであろう。 このようなITを基本とした経済文化の発展があり、 人間関係の面と経済文化の面と両方に効果があると考えている。

畑 議員

 人間関係と産業経済の発展と二面があるという話であったが、 それとリンクする問題だが、堺屋大臣が常日ごろIT社会の推進は「国民運動」 であるとおっしゃっている通り、 法案の基本理念を記した第三条から八条までの条文には、そこここに「すべての国民」 「あまねく」「あらゆる分野」「格差是正」という言葉が散りばめられている。 確かにデジタルディバイドを是正することは非常に重要な問題であり、 ITによる恵沢はすべての人々、すべての分野にあまねく平等に行き渡るのが理想だとは思うが、 このあまねくというところに余りにも重点が置かれてしまうと、 世界のトップランナーとなれる人材や地域や企業や分野への支援が相対的に薄くなり、 国際競争での日本の勝利や生き残りは危うくなる。
 特に、国会議員が国民運動的に応援するとなると、 トップランナー型よりはデジタルディバイド是正型の方がずっと多いので、 先ほど大臣が後半の方で強調された経済産業の発展が手薄になる危険性があるのではないかと思う。 時として二律背反することもあるこの二つの視点のバランスを、 大臣はどのようにお考えか。

堺屋 IT担当大臣

 この法案においては、 高度情報通信ネットワーク社会の発展を担う専門的な知識または技術を有する創造的な人材の育成を、 十八条でうたっており、二十三条では、 我が国産業の国際競争力の強化をもたらす研究開発の推進等を規定している。 一方では高度ということを言っているが、私が考えるに、 やはりITを使う人の底辺が全体に広がっていて、 その上に高い技術も立ち上がってくるのであろうと思う。 特に、ITを利用する人の数が増えると、それが価値を生み、 それによって人材も資本も入ってくる。
 例えば、テレビが普及すれば、 テレビドラマの制作や技術開発などはビッグビジネスになるのでより大勢の人材、 より多くの才能が入ってくる。そういう意味で、 デジタルディバイドなしに開発されることが大きな頂点を築き上げる。 特にこれはコンテンツの創造の点では非常に重要な意味を持っていると思う。
 したがって、このデジタルディバイドの解消ということと世界的に高い水準の技術を開発することは、 決して矛盾することではなく、むしろ両立することではないかと考えている。

畑 議員

 確かに大臣の言われたように、バランスの取りようによっては矛盾することなく、 むしろ相互に好循環をもたらすというのはその通りだと思う。
 ただ、繰り返しになるが、 デジタルディバイドの是正というところで留まってしまう国会での議論を数多く耳にしており、 そういう意味では、当法案の十八条にも書かれている通り、 ぜひトップランナー型での国際競争力という点にも力を入れて、 ITを日本の経済産業の活力にしていただきたい。
 若干視点を変えるが、IT立国を目指す上で最も重要な課題は何かといえば、 それはやはり通信料金、通信コストの低廉化だと思う。そのために今必要なことは、 公正な競争環境の整備であることは異論の無いところで、 法案にも第七条と第十六条に明確に書き込まれており、これは大いに評価したい。 しかし、実際にこの問題をどのように解決するかと考えた場合、 ユニバーサル・サービスのあり方も含めたNTTの再々編や、 最近EUや米国が日本に要求しているFCC(米国連邦通信委員会) のような通信市場における規制機関の設置といったテーマは避けて通れない課題だと思うが、 これに関して郵政大臣の御所見を伺いたい。

平林鴻三 郵政大臣

 法案にも公正な競争ということを規定しており、郵政省としては、 御指摘のあった問題について、接続ルールの制度化を図るとともに、 事実上独占状態にあるNTTの地域網のオープン化、加入者回線のアンバンドル化を図り、 DSLとかFWAというような多様なアクセス系のネットワークを導入していくことで公正な競争政策をとっていきたいと思っている。
 また、ユニバーサル・サービスを含めたNTTのあり方については、 競争政策の検討に当たり一番重要な課題だと認識し、 現在、電気通信審議会において様々な観点から議論が行われており、 そこでの議論を踏まえて適切に対応したいと考えている。
 また、米国にはFCCのような規制機関が設けられているが、 我が国では合議制に基づく行政委員会という制度は一般的には紛争処理などのいわばこちらが受身になった受動的な行政領域に適した行政組織であると私は考えている。 迅速かつ能動的、戦略的、 総合的な判断が特に必要な情報通信行政の組織としては必ずしも適当ではなく、 政策立案と規制、監督をあわせた情報通信行政全般を大臣を長とする独任制の機関である総務省(2001年1月より) のもとで一体的、機動的に行うことが重要であろうと思う。
 なお、今後増加することが予想される事業者間の紛争処理については、 総務省のもとでこれを迅速、公平、 中立に行う専門組織を創設する等の体制整備を図るのが適当であろうと考えている。

畑 議員

 先般の接続料金問題の日米交渉の際に、 両手にも満たない人数で郵政省の方々がこの問題の対応で頑張っている姿を端から拝見していたが、 もう少し人員を増強することが喫緊の課題だと思うので、 しかるべき体制をぜひ新しい省の中では立ち上げていただきたい。
 最後に法案の中に書き込まれている高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部について伺うが、 そのメンバーに誰を当てるかは、極めて重要な案件であり、 ドッグイヤーで秒進分歩変化する世界の最先端IT事情に精通した人物、 特に産業界からは、20世紀の日本を代表する大企業のトップや財界の重鎮の方々より、 21世紀のネット時代をリードするベンチャー起業家たちをぜひとも数多く登用して頂きたいと多くの方が望んでいる。 民間からのメンバーは、内閣総理大臣の指名によって選ばれるとのことだが、 どのような戦略本部にするつもりでどういう方を選定しようと考えているか、 IT担当大臣の意気込みを伺いたい。

堺屋太一 IT担当大臣

 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部というのができ、 ここで政府として一元的に対応できるような体制をとるということで、 総理を筆頭に全閣僚、及び民間人が入ることになっている。
 この民間人の人選は、総理大臣が行うが、 いわば役職だけによって選定するのではなく、 できるだけ幅広く多様な人員が入れるように配慮することが必要だと私は思っている。 いずれ総理大臣が決断されることだと思う。