経済産業委員会(平成12年4月27日)

質問テーマ

[真に消費者のためとなる新たなシステムづくり]消費者契約法案質疑

質問のポイント

1. 制度趣旨

  • 今法案の立法趣旨の第一義は、「情報量でも交渉力でも事業者に劣る消費者を不当な契約から守る」ということで宜しいか。
  • 今法案は、消費者を“一方的な弱者”とみなしている訳ではなく、 消費者にも自己責任にもとづいて行動する「自立した消費者」であることを求めている。 その証拠に、第3条の1項では、事業者から消費者への重要事項に関する情報提供は義務ではなく、 努力規定になっており、また同条2項には、消費者に対しても契約内容について理解に努めるよう、規定している。
     この条項は、消費者と事業者間における情報量や交渉力の格差を是正し、 消費者を不当な契約から守るため、“消費者自身の情報量や交渉力を向上させる” という方法を、今後政府が力強く推進してゆくことを前提にして盛り込まれたと理解しているが、それで宜しいか。
  • 消費者と事業者の間には情報力・交渉力で格差があるので、政府としては、 消費者教育や契約トラブルに関する情報提供および相談業務などの施策をより拡充することにより、 消費者が自己責任にもとづいて自立的に行動できるよう今後も環境を整備してゆくのだろうが、 今回の法案の成立を機に具体的にどのような施策を予定しているか。

2. 消費者教育

  • 消費者教育については、社会に出てからでは改めて学ぶ機会が少ない上、昨今、 若者が悪質商法などの被害者となるケースが急激に増加していることを見ても、 学校での消費者教育は早急に強化すべきだと思う。
     また授業内容も、教科書に記載してある程度の話を担当の教諭がなぞるようなものではなく、 法律家や消費者センター職員など消費者問題の専門家を招いて、 悪徳商法の手口や契約の落とし穴について具体的な例をひきながら語ってもらうことが必要だと思うが、 教育現場での指導実態はどのような状況であり、また今後どのような措置を予定しているのか。

3. 悪質契約実態の公表

  • 消費者の情報量を増やし、交渉力を高め、 悪質な契約による被害に遭わないようにするため、悪質な事業者名を公表したり、 不適正な取引行為の実態を公表したりすることは、有効な措置であると考えられる。
     一定期間内に同種の苦情相談が多い事業者についてだけでも、 その事業者名・苦情内容・苦情件数などを、 客観的データとして公表してはどうかと思うがいかがか。
     また事業者名の公表がはばかられるケースは、 苦情内容や悪質な手口だけでもインターネットなどを通じて即座に公表すると、 同種の被害に遭う消費者の増加を食い止められると思うが、いかがか。

4. 消費者訴訟援助制度

  • 当法案には罰則規定が無く、自治体による苦情処理制度も任意のもので強制力は無いので、 最終的に紛争を解決しようとすれば、やはり裁判によって判断を仰ぐこととなる。
     各自治体には消費者を支援するため、訴訟費用負担の軽減などの措置を盛り込んだ 「消費者訴訟援助制度」が設けられているが、実際にはほとんど利用されていない。 と言うのも、この制度について、一般消費者はもちろんのこと、 苦情処理機関の担当者さえあまり知らないのが実状。
     せっかくの制度であるから、もっと広報に努め、 特に苦情処理機関の担当者には周知徹底すべきだと思うが、いかがか。
  • 訴訟援助制度の内容についても、単に経済的な支援にとどまらず、 そもそもその案件が訴訟になじむか否かを判断すること自体、 法律の専門家でなければ難しいのであるから、まず弁護士を紹介し、 訴訟追行について相談に応じ、必要と思われる資料を提供するなど、 被害にあった消費者の身になったきめ細かい支援措置が為されるよう、 その制度内容を拡充すべきではないか。
  • 一昨日の参考人質疑で消費生活専門相談員の岡田参考人から、「弁護士会の皆さんによる各地の “仲裁センター”がとても実効を上げているのだが、いかんせん数が少ないので、 司法書士が法律相談や訴訟代理人になってくれると、 消費者も訴訟という手段にもっと訴えやすくなるのだが」と述べておられたが、 この発言を経済企画庁としてはどのように受けとめたか。

5. 消費生活センター

  • 今法案が成立すれば、 裁判に至るまでのあらゆる身近な紛争の相談や処理にあたる消費生活センターは、 その重要性を更に増すこととなるのは、明らか。
     にもかかわらず、昨今は各自治体とも財政逼迫の折から、 消費者行政をリストラの対象とするところが目立つ。
     PIO-NETに収集された苦情・相談件数もこの十年間に3倍近くに増加し、 しかも契約トラブルの内容はより高度化している現状において、 専門的知識や経験を持った相談員が、各市町村に一定数確保できていることは、 消費者保護行政の必要最低条件ではないか。このような視点から、 各自治体の消費者行政における予算・人員の削減状況を、どのように受けとめているか。
  • 消費者相談を行っている現場での実態について、 岡田参考人より問題点として次のような指摘を頂いた。
     一つは、相談員の定年制度。自治体ごとに異なるようだが、 通常5年間に設定されており、 これでは知識以上に現場での経験が必要とされる相談業務がとても十分に行える体制とは言えない。 せめて、10年以上にしてもらいたい。
     2点目は、PIO-NETの入力費用。 昨今の相談件数の増加と相俟って入力費用が高額となって自治体は苦慮しており、 中には相談や啓発の予算を削って入力予算を捻出することも考えざるを得ない自治体もあるとのことだった。
     これらの問題について、政府として改善の手は差し伸べられないのか。

6. 高齢者対策

  • 高齢者は在宅率が高いため、 訪問販売や電話勧誘など問題のある商法の被害を受ける可能性が高い上、 加齢に伴う高齢者の心身の能力低下に付け入る悪質商法も依然後を絶たない。
     医師から老人性痴呆症という診断書が出ないような場合でも、 一般の消費者と同等にはその責任能力を問えない高齢者は、かなりの数、 存在するはず。こうした高齢者に対し、 特別の保護措置や何らかの救済措置は考えられないのか。
  • 岡田参考人から、 「消費者センターの存在を高齢者の方々に知らせるだけでも効果があるので、 お年寄りのいるお宅にパンフレットなどをできるだけ配布している」 とのことだったが、高齢者の方々向けの消費者教育を国の施策として、 もっときめ細かく実施すべきではないか。
     また、高齢者なりの諸課題が契約や商取引をめぐって様々に存在している。 介護保険もスタートする中、お年寄りの身近にいる人たちから、 具体的な問題点を随時ヒヤリングするようなシステムを整えることも大切ではないかと思うが、いかがか。

質疑要旨

畑 議員

 消費者を不当な契約トラブルから保護するために、消費者の皆さんの声を筆頭に、 あらゆる業種にわたる産業界や学識経験者の方など、 幅広い分野や立場にわたる関係者の方々の間で検討が重ねられ、 実に6年という歳月をかけてこのたび消費者契約法案がまとめ上げられた。まず、 作業に当たられた関係者各位および経企庁長官に心からの敬意を表させていただく。
 当法案が成立すれば、PL法とともに、「モノ」と「契約」 に関する消費者保護制度の両輪が整うこととなり、 既存の法律に定められた保護規定ではこれまで救済が難しかった悪質な勧誘や契約からも消費者が守られることと大いに期待される。
 さはさりながら、一昨日の一橋大学教授・松本参考人の話によれば、 「余り過大に期待してはいけない」とのことで、この消費者契約法は、 消費者が一方的かつ全面的に保護される消費者保護法ではなく、 消費者が自らの権利を正当に執行できるようにする法律、 いわゆる「消費者法」である旨を先日理解したところである。
 そこでまず、法案の趣旨、大前提そのものについて今一度確認したい。 今法案の立法趣旨の第一義は、「情報量でも交渉力でも事業者に劣る消費者を不当な契約から守る」ということで宜しいか。

堺屋太一 経済企画庁長官

 消費者契約法の提案に至るまで、国民生活審議会等で長く議論をしてきた。 畑議員御指摘のとおり、 最近、事前規制によって消費者の立場を守るという制度が自由化され、 市場原理に変わってきた。これからは消費者が選んだものが成長する、 消費者から嫌われたものは消えていく、 こういう消費者主権の原理が市場で成り立つことが大前提である。
 そうすると、消費者が事業者と契約を結ぶ際に、 やはり事業者は一般にプロであるから、情報量も多く、交渉力もある。 それに比べて消費者は、情報の量も質もかなりの差があり、 また交渉力にも玄人と素人の違いがある。 こういった差をできるだけ詰めることによって対等の交渉にしていきたい、 消費者の弱い立場を利用した悪質なことを防ぎたいという考え方が基本にある。
 同時にまた、事業者が消費者に対して十分な情報を与えるとともに、 消費者にもその情報をできるだけ理解してもらい、よりよいものを大いに伸ばし、 よくないものを市場から退場させていく。こういった努力により常によりよい商法、 よりよい商品というのが普及するようになり、全体として世の中を前進させたい、 そういうような願いも込められた法律である。

畑 議員

 経企庁長官から格差をなるべく縮めていくように制度設計をしている法案だという答弁を頂いた。 また、先日の参考人質疑の際に松本参考人も言われていたことだが、 行政がお仕着せで何でもやってあげる、 保護をしてあげるという今までの行政ルールから、民事ルールの社会に移行している、 その状況を反映させた消費者契約法であるということを理解させていただいた。
 繰り返しになるが、今法案は、消費者を決して“一方的な弱者” とみなしている訳ではなく、消費者にも自己責任にもとづいて行動する “自立した消費者”であることを求めている。その証拠に、第3条の1項では、 事業者から消費者への重要事項に関する情報提供は義務ではなく努力規定にしており、 また同条2項では、消費者に対しても契約内容について理解に努めるよう、 規定している。
 この点について、野党の議員の方々から、 「法案の趣旨に照らしておかしいのではないか」 という質問や意見が多く出されていたが、私は次のように解釈しているので、 この第3条が先ほど長官に確認させていただいた法案の趣旨と齟齬(そご)を来しているとは思わない。 と言うのも、消費者と事業者間における情報量や交渉力の格差を是正し、 消費者を不当な契約から守るためには、次の3つの方法が考えられるからである。
 一つ目は、事業者側により厳しい義務、規制を課す。 二つ目は、消費者を法的により強く保護する。 ただしこの2つの方法だけでは消費者と事業者の関係はゼロ・サムになってしまい、 一方を立てれば一方が立たずという関係になるので、こうした状況を打破し、 消費者・事業者、双方がともに得をするようなプラス・サムの世界を実現するためには、 “消費者自身の情報量や交渉力を向上させる”という第3の方法が考えられるからである。
 あくまでも第3条の1・2項は、“消費者自身の情報量や交渉力を向上させる” という第3の方法を、今後政府がさらに力強く推進していくことを前提にして法案に盛り込まれたと理解しているが、それで宜しいか。

堺屋 経企庁長官

 畑議員御指摘のとおり、 「事業者は消費者に対して情報を提供するように努めなければならない」 と規定している。 できるだけ多くの情報、必要な情報を提供するように努めなければならない。
 一方、消費者の方にも、 「この提供された情報、契約内容に関する情報を理解するように努めるものとする」 と書き方を微妙に変えて規定している。
 消費者自身もさまざまな情報を理解し、消費者契約に関する理解を高め、 市場の水準を高めていこうという考え方がこの中に秘められている。
 当然これには、学校教育やさまざまな社会的な情報提供など消費者に対する教育、 相談業務の拡張などを行って、消費者の水準を高め、 よりよい選択ができる状況にしていくことが行政の大きな務めだと考えている。

畑 議員

 確かに、3条1項、2項は、消費者のためというのが第一義にあると思うが、 一方、悪質業者の活動を封じて消費者保護をどんどん強化していくと、 しまいには健全な事業者の活動や通常の商取引まで阻害しかねず、 いわゆるクレーマーと呼ばれる「悪質消費者」を横行させ、 めぐりめぐって消費者にも被害が及ぶということになるので、 やはりこの条文が入ったことは有効な措置だと考えている。
 消費者・事業者双方が“応分”の責任を問われるのは当然のことと思うが、 冒頭に確認したように、両者には情報力・交渉力で格差がある。今、経企庁長官から、 消費者教育や相談業務にこれからさらに力を入れていくという答弁がされたが、 それ以外の例も含めて、 この消費者契約法の成立を機に具体的にどのような施策を予定しているのか教えていただきたい。

堺屋 経済企画庁長官

 例えば、消費者センターあるいは弁護士会による相談業務があり、 それらをできるだけ集約して国民生活センターではPIO-NET等の活用も考えている。
 その他、この法律が成立すれば、これをできるだけ広く人々に知ってもらうように PR活動もしたい。当然コンメンタール等もつくるし、 できればデジタル映像などで訴えていきたいと考えている。
 このようなことを適切にやってもらえるボランティアが出てくれば非常にありがたいが、私自身も努力していきたいと考えている。

畑議員

 堺屋長官はデジタルに大変造詣が深く、 先日も費用に見合えばCD-ROMでという話があったが、 ぜひNPOやボランティアの方々などに広く呼びかけていただき、 手づくりの広報活動で実効性がより高まるように御努力いただければと思う。
 今、経企庁長官から幾つか具体的な措置を答弁していただいたが、 さらに詳しく伺っていきたい。
 まずは消費者教育について伺いたい。社会に出てから改めて消費者教育を受ける機会というのは大変少ない。私も高校を卒業した以降、消費者教育を受けた記憶がない。
 昨今、特に若者が悪質商法などの被害にあうケースが急激に増加していることを見ても、 学校での消費者教育は早急に強化すべきだと思う。 昨年5月までの1年間に国民生活センターに集められた、 40万8千件の商品売買やサービス契約に関する苦情や相談の内、3割強が20歳代以下で、 しかもマルチあるいはマルチまがい取引では、 当事者の半数以上が20歳代以下となっていて、 若年層が高い率で被害に遭っている状況というのがわかる。
 また、どういうことを消費者教育の一環の中で教えているかというと、 やはり中心になるのは教科書に記載してある程度の話を担当の先生がなぞるというものである。 中には法律家や消費者センターの専門員を学校に招いて、 悪徳商法の手口や契約の落とし穴などについて具体的な例を引きながら語ってもらうというきめ細かい指導をしている学校も幾つか出てきたようだが、 まだそれほど多くはない。
 今回自分自身で勉強してみたが、 やはり条文や例文だけを読んでいてもわからないことが多い。 「具体的にこういう例がある、こういうケースがある、 その場合にはどうすればよいのか」 ということを一つ一つ説明してもらわないと本当にわかりにくいので、 ぜひ学校での消費者教育において、今後そのような方式を採っていただきたいのだが、 現在の教育現場での消費者教育の実態はどのような状況であり、 また今後どのような措置を予定しているのか。

小池百合子 経済企画庁政務次官

 御指摘のとおり、若年層が被害者となる消費者トラブルが多発している。 それを回避するためには、 低年齢のうちから徐々に契約についての認識を深めていくことが大変重要であることは言うまでもないと思う。 そういった意味で、こうした能力を培うことに資するためには、 学校での消費者教育の実践が極めて重要と認識している。
 現在、学校教育においては、 消費者教育は主として家庭科および社会科の中で行われている。経済企画庁としては、 学校における消費者教育の一層の推進、充実を図るという観点から、 平成9年度より、学校の教員および学校に派遣される相談員等を対象にして、 消費者教育の指導法や実践事例の紹介等に関して理論的、実践的に助言、 指導するための専門家を派遣しているところである。 平成11年度では16カ所、延べ21人を派遣した。
 それから、財団法人消費者教育支援センターを通じて、 学校の先生方を対象に消費者教育支援講座を各地で行っている。
 さらに、平成11年度から5カ年計画で消費者契約教育に関する調査も行っている。 初年度においては、高等学校を中心として、 学校の教育の場で活用できる消費者契約と紛争解決の手段に関しての副教材の作成などを行っている。
 学校教育用の副読本の作成を通じて消費者教育推進の支援に積極的に取り組んでいきたいと思う。 またアメリカなどでは、消費者契約というよりは金融の世界の話だが、 株のバーチャル取引なども学校教育の場で行っているということも聞くが、 経済企画庁としてもいろんな点からさまざまな学校教育への支援ということを行っていきたいと考えている。

御手洗康 文部省初等中等教育局長

 学校における消費者教育については、ただいま小池次官から答弁したように、 家庭科、社会科を中心として、小学校、中学校、高等学校、 それぞれの学校段階ごとに児童、 生徒の発達段階に即してすべての子供たちに対して行っているところである。
 具体的には、小学校の家庭科においては、 プリペイドカードや通信販売を利用した買い物の注意点などについて話し合いを行い、 計画を立てて買い物をしていくことを考えていく。 さらには、具体的な買い物記録をつけさせ、 過去の金銭の使用状況を確認することで次の買い物の計画を立てるというような具体的な活動を行っている。 中学校段階では、契約解除の書類の作成を通じてクーリングオフの制度を調べたり、 さらには訪問販売や通信販売などの販売方法についても具体的に体験する。 高等学校になると、消費者問題が発生する要因を考えたり、 消費者保護基本法などについての消費者保護施策について学習するとともに、 地域にある消費生活センターなどで、 消費者の被害や悪質な訪問販売や通信販売などの実態を調べてその原因を考えるというような具体的な活動をしている。
 特に家庭科においては、従来から体験的な実践的活動をすることを重視していたが、 新しい学習指導要領においては、 各教科を通じて体験的な学習や問題解決的な学習をより充実するという方向を強めたところである。 さらに、小中高等学校を通じて総合的な学習の時間というものを設け、 具体的な課題について教科横断的、総合的、実践的、 体験的な活動をより充実するよう指導要領の改訂を図ったところである。
 御指摘のように、地元の法律の専門家等の協力を得て、地域の方々、商店の方々、 保護者を含めまして具体的な体験を持った方々に学校に来てもらい、 個々の指導を行っていただくというような活動も徐々に増えてきているところである。 文部省としても、今後、 学校ボランティアというような形でより促進をしていきたいと考えているところである。

畑 議員

 私は初等中等教育の担当の方々と情報教育のことでよく話をしているが、 消費者教育というのは、 情報教育のコンテンツにとても馴染みやすいのではないかと思う。
 政務次官より副教材の作成を通じて支援していきたいという話があったが、 「こういうケースにはどのように対処しますか?」という問いに、 自分で対処方法を選んで入力すると、「あなたは騙されました」とか 「相手方は逃げました」というようにシミュレーションできるコンテンツをつくれば、 高齢者の方々も最近はパソコンを使う方が多いので、 いろいろな方が在宅しながら学べることになると思う。 ぜひCD-ROMやその他いろいろな方式で教材コンテンツも考えていただければありがたいと思う。
 次に、悪質契約の実態を何とか公表できないかと常々思っているので、 このことについて質問したい。
 消費者の情報量を増やし、交渉力を高め、 悪質な契約による被害に遭わないようにするため、 悪質な事業者名や不適正な取引行為の実態を公表することは、 有効な措置であると考えられる。特に昨今のように、 インターネットの発達により情報の受発信が容易になると、公表に関する費用対効果、 労力対効果というのはかなり大きくなっているのではないかと考える。
 条例によってそのような規定を設けている自治体もあるが、 当該事業者に不当な評価を与えかねないと危惧するあまり、 事業者名の公表に対してはいずれも極めて慎重な姿勢をとっているのが実情である。
 せめて一定期間内に同種の苦情相談が非常に多い事業者についてだけでも、 その事業者名・苦情内容・苦情件数などを、 客観的データとして公表することはできないか。
 また事業者名の公表がはばかられるケースは、 せめて苦情内容や悪質な手口だけでもインターネットなどを通じて即座に公表すれば、 同種の被害に遭う消費者の増加を食いとめられると思うのだが、 そのような措置というのは考えられるのか。

小池 経済企画庁政務次官

 まず、悪質な業者名の公表についてだが、PIO-NETで収集、 蓄積された苦情相談情報は、消費者からの申し出をそのまま入力するので、 必ずしも真実性を確認したものではないというのが大前提にある。よって、 その事業者の競争上の地位や、その他正当な利益を害するおそれもあるので、 原則として事業者名の公表は行っていない。
 しかし、御指摘のように、 ある特定の時期に同じ会社の名前が何度も何度も出てくるというように、 特定の事業者について同様の消費者被害が多数発生し、 もしくは発生するおそれがあり、 被害の再発防止や未然の防止のためには必要と考えられる場合には、 情報内容の事実関係を十分に調査し、相談を受けた第一次の追跡調査をする、 また第二次の追跡調査をするなどなど、 適切かつ厳正な手続きを経た上で公表をしている。 平成九年度に行った朝日ソーラーに係る事案などがその例である。
 ニュースキャスターをやっていた時の私個人の経験だが、 バブル時代にある悪質な業者の名前を全国放送で挙げたところ、 実際その業者は悪質だったのだが、 その業者とは関係のない同名の会社が登録されており、 正当に業務を行っている会社にまで非常に迷惑をかけてしまった。 自分自身がニュースでしゃべることによって、マイナスの影響を与え、 また迷惑をこうむる者をつくり出すといった経験もしている。そういった意味で、 名前の公表は本当に慎重に行わなければならないということを私自身も思っているところである。
 また、国民生活センターでは、 PIO-NETを通じて各地の消費生活センターから収集した苦情相談等の情報分析、 評価をした上で、御指摘いただいたようにインターネットや各種の啓発資料を通じて重要と考えられる相談事例を提供し、 問題点については消費者に注意を呼びかけるといったことで、 今後とも消費者の被害の未然防止に努めたいと考えている。

畑 議員

 政務次官の話を伺わせていただいた。 確かに名前がマスコミに出た場合は影響が非常に大きいので、 事業者名の公表というのは非常に難しい問題であることは理解している。 ただ、先ほども申し上げたように、 せめてその苦情内容や悪質な手口だけでも即座に公表できれば、 連鎖的に被害に遭うような悪質商法は食いとめられるのではないかと思う。 難しい問題は多々あることとは思うが、 速やかな措置をできる範囲でぜひ行っていただきたい。
 テーマを変えて、今度は消費者の訴訟援助制度について伺いたい。
 不幸にして契約トラブルが発生してしまった場合も、その紛争処理にあたり、 通常消費者は事業者に比べより弱い立場にあることが多い。 当法案には罰則規定がなく、 自治体による苦情処理制度も任意のもので強制力はないので、 最終的に紛争を解決しようとすれば、 やはり裁判によって最終的な判断を仰ぐこととなる。
 各自治体には消費者を支援するため、訴訟費用負担の軽減などの措置を盛り込んだ 「消費者訴訟援助制度」が設けられているが、実際にはほとんど利用されていない。 と言うのも、この制度について私も当法案について勉強するまで知らなかったのだが、 一般消費者に余り知られていない、 さらには苦情処理機関の担当者でさえも知っている者が少ないからである。
 せっかくこのような制度があるのだから、もっと広報に努め、 特に苦情処理機関の担当者には周知徹底すべきだと思うが、いかがか。

小池 経済企画庁政務次官

 消費者の訴訟援助であるが、59都道府県・政令指定都市のうち、 54の自治体が条例によって消費者訴訟援助制度を設けている。
 その内容は、以前から申し上げているように、消費生活センターもしかりであるが、 それぞれ自治体ごとによって異なっている。 消費者が事業者を相手にして訴訟を起こす場合または事業者に訴訟を起こされた場合、 幾つかの要件が必要となっている。 まず第一に、 同一または同種の被害が多数発生し、または発生するおそれがあること。 第二に、訴訟に要する費用がその訴訟に係る被害額を超え、 または超えるおそれがあること。 第三に、苦情処理委員会のあっせんまたは調停によって被害を救済できないこと。 これらの三つの要件を満たした場合、三つの援助手段がある。 一つ目は、訴訟に係る経費の貸し付け。 二つ目は、訴訟を維持するために必要な資料の提供。 三つ目は、その他訴訟活動に必要な援助を行う。
 この消費者契約法の施行後、その実効性の確保のため、 消費生活センターなどによる苦情相談、あっせんに加えて、 裁判による円滑な解決の道が開かれていることが望ましいので、 この各自治体による消費者訴訟援助制度がより活用されることを期待している。

畑 議員

 ぜひ、実効性が上がるように広報にも力を入れていただきたいと思う。
 訴訟援助制度の業務内容を三点教えていただいたが、単に経済的な支援、 情報提供にとどまらずに、これから消費者が訴訟を起こそうというとき、 そもそもその案件が訴訟になじむか否かを判断すること自体、 法律の専門家でなければ極めて難しいのであるから、まず弁護士を紹介し、 訴訟追行についてきめ細かく相談に応じ、必要と思われる資料を提供するなど、 被害に遭った消費者の身になったきめ細かい支援措置がなされるよう、 さらにその内容の質を今後高めていくべきだと思うが、いかがか。

小池 経済企画庁政務次官

 消費者援助制度の内容は、各自治体によって異なっているが、 経済企画庁としては、訴訟に係る経費の貸し付けにとどまらず、 訴訟を維持するために必要な資料の提供、そして訴訟活動に必要な援助など、 各般の制度が的確に運用され、 消費者に対する必要な支援が図られることを期待している。

畑 議員

 自治体にそれぞれ任されていることは、 政府が強く介入するのは難しいところはあると思われるが、 御指導なりサポートなりをできる限りお願いしたい。
 一昨日、消費生活専門相談員の岡田参考人から、弁護士会の皆さんによる各地の 「仲裁センター」がとても実効を上げているのだが、いかんせん数が少ないので、 司法書士の方々が法律相談や訴訟代理人になってくれると、 消費者も訴訟という手段にもっと訴えやすくなるのだが、と述べておられたが、 この発言を経済企画庁としてはどのように受けとめたか。

小池 経済企画庁政務次官

 先日の参考人質疑における岡田参考人の御意見であるが、 弁護士会仲裁センターを全国の住民が活用できるように整備されることを期待する、 現在弁護士が独占している法律相談、訴訟代理について、 他の隣接の職種にも開放すべく見直しを求めるということで、 私の方にもレポートが来ている。
 弁護士会仲裁センターについてだが、いわゆるADR、 裁判外における紛争処理制度の重要性に鑑みて、 その整備充実は当然望ましいものであり、その役割は大変大きいものと認識している。
 この手続は非公開となっているので、事業者の仲裁手続への参加が確保できる。 そして、弁護士や経験豊富な元裁判官の方々から選定される仲裁人によって判断が下されるので、 その判断に対する両当事者の信頼を得やすいことなどの利点があるものと思われる。 また、仲裁人が相当程度専門的な知識を有していること、 仲裁センターには地域的な管轄がないということから、 消費者契約に関する紛争についてはまさにこのセンターの活用の余地は大きいものであると思っている。
 経済企画庁としては、この弁護士会仲裁センターに対して、 岡田参考人のように消費生活相談員の皆様方から高い期待があることに対応して、 できる限り広範な地域の消費者にとってその利用が可能となるよう御努力いただくことを弁護士会に大きく期待しているところである。
 一方、弁護士以外の専門家についてだが、 原則として訴訟の代理権は認められていない。また、法律相談についても、 弁護士法の第72条に抵触するので、 現行制度上問題とされることがあると承知している。
 さきの3月31日に閣議決定された規制緩和推進三カ年計画の再改定文において、 業務独占資格者の業務のうち司法書士も含む隣接職種の資格者にも取り扱わせることが適当なもの、 すなわち訴訟への関与などについて資格制度の垣根を低くするため、 他の職種の参入を認めることを検討するとされている。
 現在行われている司法制度改革の審議の中でも、 こうした論点を含めて消費者である国民にとって利用しやすい司法という観点からの議論も十分行われることを期待しているところである。

畑 議員

 先日、当委員会で弁理士法の改正を審議したが、 訴訟代理というのは非常に難しい問題で、まだ積み残しているところがある。 ただ、日本というのは裁判になじまない風土や司法体制を多く残しているが、 一人でも多くの人が救われるような体制をつくり上げていけるよう、 私どもも努力していきたいと思う。
 次に、消費生活センターについて伺いたい。
 今法案が成立すれば、 裁判に至るまでのあらゆる身近な紛争の相談や処理に当たる消費生活センターは、 その重要性をさらに増すことになるのは明らかである。
 にもかかわらず、昨今は各自治体とも財政逼迫の折から、 消費者行政をリストラの対象にするところが目立つ。朝日新聞社の調査によると、 各自治体において1999年度は平均で前年度より1割以上予算が減っている。 中でも神奈川県では半減に近い48%減、愛知県でも31%減という数値が出ている。
 予算の減額が実際現場にどのような影響を及ぼしているかというと、 例えば静岡県では、これまで県内に9カ所の行政センターで消費者相談を行ってきたが、 今年度からは消費者生活専門相談員の資格を持つ相談員のいるセンターを3つに集約し、 残り6カ所では県職員OBの県民相談員が消費者相談も兼ねて受けることになると聞く。
 先ほど経企庁長官から、これから拡充をするという話があったPIO-NETだが、 ここに収集された苦情・相談件数もこの十年間に3倍近くに増加し、 しかも契約トラブルの内容はより高度化している。 専門的知識や経験を持った相談員が各市町村に一定数確保できているということは、 消費者保護行政の必要最低条件ではないか。
 また、このような視点から、 各自治体の消費者行政における予算・人員の削減状況を、 経済企画庁としてはどのように受けとめているのか。

堺屋 経済企画庁長官

 御指摘のとおり、消費者トラブルが非常に複雑化、多様化しており、 苦情相談の処理には専門家の対応が必要な場合が多くなっている。 しかし、市町村という規模になると、 人口が1000人未満の村もあれば300万人を超える政令指定都市もあって、 小規模な自治体まで何人の相談員を置かなければならないと規定することはなかなか困難である。
 こうした点を考慮して経済企画庁としては、苦情相談が適切に処理されるよう、 都道府県及び市町村の対応について、委員会を設けて検討しているところである。
 また、消費者契約法が施行されれば消費生活センターの役割は一層高まるものと思われるが、 市町村での消費生活センターの拡充や行政の効率化、財政事情を背景に、 一部の都道府県では消費生活センターを縮小するという動きがある。
 都道府県の消費生活センターのあり方は都道府県自身が決めることだが、 経済企画庁としては、こうした消費生活センターの縮小の動きが適切な苦情処理に対応できないものになってはいけないので、 地方自治体に適切な規模を維持するように要請していきたいと考えている。
 また、国民生活センターであるが、センターの相談員の研修、 相談業務に関する情報提供等により、 消費生活センターの苦情処理が適切に行われるように今後も努めていきたいと考えている。
 私も、大阪の消費生活センターや相模原と目黒の国民生活センターに視察に行ったことがあるが、 なかなか難しいことも多々あるが、 これから制度の充実をどのようにしていけばよいのか、 目下、委員会のもとで非常に真剣に討論しているところである。
 地方財政との関係で非常に難しい問題ではあるが、 当法案成立を機会に全国で充実した苦情相談に応じられるような体制を整えたいと考えている。

畑 議員

 真摯に検討を行っているとのことだが、 直接何人置けという指導ができなくても、 現状の数値をアンケート調査して公表するということはできると思う。俗に言えば、 各自治体の通信簿のようなものを作って公表することはできないだろうか。
 日本は横並び意識が強いので、情報公開によって、 「あの県がやっているのならうちの県も頑張ろう、 あの町がやっているのならうちの市も頑張ろう」というような競争意識が生じる。 行政というのはそのままにしておくとなかなか競争原理が働かないので、 そうした情報公開という措置をある意味で一つの競争システム原理として活用することも考えいただきたい。
 消費生活センターなど消費者相談を行っている現場での実態については、 参考人質疑で私も岡田参考人にいくつか質問を行ったが、その中で、 問題点として次のような御指摘をいただいた。
 一つは、相談員の定年制度である。自治体ごとに異なるようだが、 通常5年間に設定されており、 これでは知識以上に現場での経験が何よりも必要とされる相談業務がとても十分に行える体制とは言えない。 せめて、10年以上にしてもらえないかというような、率直な御意見、御要望であった。
 二点目は、PIO-NETの入力費用について。 岡田参考人もPIO-NETに対しては今以上の開示と活用によって消費者救済や消費者政策に大きく貢献するシステムになると高く評価されていたが、 何分費用がかさむ。昨今の相談件数の増加と相俟って、入力費用が高額となり、 中には相談や啓発の予算を削って入力予算を捻出している、 本末転倒と言うか苦肉の策を強いられている自治体もあるとのことだった。
 この二点について、それぞれ自治体の問題なので国としては難しいということは何度も伺ってはいるが、 経済企画庁としてはどのように受けとめ、 何か改善の手を差し伸べることはできないのか。

小池 経済企画庁政務次官

 生活相談員のさまざまな待遇についてだが、 基本的に雇用の問題は各地方自治体が自主的に決めているので、 経済企画庁としてということで答えることはできないが、 御指摘のように、相談員というのは、 消費者からの苦情相談の対応をするために専門的な知識や経験が大変必要であり、 またそれが消費者にとっての利便性につながってくる。 また、専門的な知識、経験を得るためには相当の期間を要するものと認識をしている。
 雇用期間や契約更新の制限などによって、 相談業務に精通した相談員が雇用されない場合、 また適切な苦情相談の処理に齟齬を来すことのないように、 しっかりと地方自治体の方にも要請をしていきたいとは思っている。
 PIO-NETの件は、国としては、 システム全体の運用に係るホストコンピューターの経費等を負担している。 さらに地方に対して、PIO-NETの整備・運用に関する経費を交付金として交付している。 また、端末機の借料、相談情報の電送料、そして情報入力のための経費も交付対象といたしている。

畑 議員

 PIO-NETについてそれだけの配慮がなされていながらも、 岡田参考人から先程のような要望があったということは、相談件数、 苦情件数そのものが増えているという結果なのかもしれないが、 ぜひ現状に見合ったサポートをお願いしたい。
 各相談員の処遇が各自治体に任されていることは当然のことと思う。 しかし、岡田参考人から、「相談員になるには4つの資格があり、 それを取ればみんな一律に相談員としてみなされる」という話しがあったが、 そうではなく、ある程度経験を積んだらキャリアアップのための試験を受ける。 そのような各自治体共通のスタンダードをつくり、 キャリアが評価されて報酬にもきちんとはね返るというような制度を整えることができるのではないかと思う。
 昼夜も問わず土日もなく、 御自身の家族にまで負担をかけてしまうことを遺憾としながら一生懸命力を尽くしていただいているという岡田参考人のお話を伺ったが、 岡田参考人だけでなく、 多くの相談員の方々に支えられている消費者相談だと思うので、 ぜひ制度整備を重ねてお願いしたい。
 次に、高齢者対策について伺いたい。
 高齢化に伴って、判断能力が不十分な高齢者が契約トラブルの当事者となるケースが急増している。 PIO-NETに入力された60歳以上の方からの相談件数は、 1995年度から97年度の間に約3万件から5万件へと急増し、 また97年度には契約当事者が60歳以上である相談が、5万5千件近くにまで達している。
 高齢者は在宅率が高いため、 訪問販売や電話勧誘など問題のある商法の被害を受ける可能性が高い上、 耳が遠い、目が悪い、判断能力が鈍っている、物忘れがひどいなど、 加齢に伴う高齢者の心身の能力の低下につけ入る悪質商法も依然後を絶たない。
 医師から老人性痴呆症という診断書が出ると、 それが契約を解除するときや裁判に役立つという措置があるとは聞いているが、 診断書が出るほど深刻ではないが一般の消費者と同等には責任能力を問えない高齢者は、 非常に多く存在していると思う。
 こうした診断書が出るほど重病ではないけれど、 明らかに心身の能力低下があらわれている高齢者に対して、 特別な保護措置や何らかの救済措置は考えられないのか。

堺屋 経済企画庁長官

 高齢化に伴い、様々な社会問題が拡大しているということは、 日本にとってもこれからますます大きな問題になると思う。 高齢者が様々な契約を結ぶ機会が多くなることに伴い、 高齢者の被害を救済する制度の枠組みをどう構築していくかというのは重要な問題である。
 例えば、本年4月から介護保険制度が実施されているが、これに基づく介護サービス、 あるいは今国会で関連法案が議論されている社会福祉サービスなどについても、 従来はいわゆる行政処分によってサービスを決定する措置制度であったが、 利用者が事業者と対等な関係で契約を結ぶというように、サービスを選択できる制度、 いわゆる利用制度に転換した。 そうすると、高齢者が契約当事者になるということがますます増え、 一定の説明義務あるいは苦情処理の仕組みなども導入されることになっている。
 本年4月より民法の一部が改正され、その関連4法律が施行された。 その中で、痴呆性高齢者の判断能力が不十分な者の保護を図るために、 従来からの禁治産、準禁治産の制度の「後見」に加えて、 「保佐」と「補助」という制度ができた。
 「後見」の場合は、精神上の障害により判断能力を欠く常況、 そういう人が対象になる。「保佐」の方は、 精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者、「補助」は、痴呆症、知的障害、 自閉症などにより判断能力が、法律的に言うと事理弁識能力が、 不十分な者のうちで「後見」、「保佐」に至らない軽度な者を対象とする。
 本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に、 自分はだんだんぼけそうだということになると、 自己判断能力が不十分な状況における後見人を、 まだ自分がぼける前でも選定できる新たな制度、 すなわち任意後見制度を創設するなどの内容で、 新しい成年後見制度が実施されることになっている。
 この新しい成年後見制度によって、 高齢者は痴呆になる前に財産管理を担当する後見人を選択できるとともに、 痴呆高齢者本人のみならず、後見人、保佐人、補助人にも取り消し権が付与され、 従来に比べて柔軟かつ弾力的な取り消しができることになった。
 消費者契約法案は、まさにこうした社会的要請に沿ったもので、 制度的枠組みの構築に伴う取り組みの一つであると考えている。
 この消費者契約法により、 消費者である高齢者が事業者の不当な勧誘によって締結した契約から離脱することを容易にすること、 つまり取り消しができるとともに、消費者の立証負担を軽くすること、 さらには信義則違反、 公序良俗違反といった抽象的な要件で判断されていた無効とすべき条項をより具体的に規定し、 不当な条項の効果を否定することをより容易なものにしている。
 高齢化社会の急速な進展が見込まれている中、この法律の制定は、 高齢者を含む消費者と事業者とのトラブルの公正かつ円滑な解決に資するものと期待している。 ぜひとも本法案を速やかに成立させ、高齢者救済にも役立てていきたいと考えている。

畑 議員

 確かに高齢者も消費者の一員として、 今回の法律によってより救われるようになる場面というのは数多くあると思う。
 ただ、冒頭の話に戻るが、消費者にも一定の“自己責任”“自立した消費者たれ” ということを求めている法案なので、高齢者にもそれを求めていくのが原則である。 しかし、私自身も両親がだんだん高齢化し心身能力が低下していくのを見るにつれ、 お年寄りをねらうSF商法などがいきなり来て訳のわからないことをわっと話されると、 とっさの判断がなかなかできなくなってしまうのも、 むべなることかなと思えてしまう。青年後見制度の対象にはあたらず、 目や耳が悪くなっているという程度の高齢者に対しての措置というのがこれから必要なのではないのかと、 私は実感を込めて認識している。
 では具体的に何をすればいいのかというのは難しい話で、先日の参考人質疑の際、 岡田参考人からは、消費生活センターの存在を高齢者の方々、 特にひとり暮らしのお年寄りの方々に知らせるだけでも効果があるので、 お年寄りのいるお宅にパンフレットなどを配って広報に努めているとのことだったが、 高齢者の方々向けの消費者教育を国の施策として、 もっときめ細かく実施すべきではないか。
 例えばひとり暮らしの方だけではなく65歳以上ぐらいの方々のところには、 最寄りの消費生活センターと国民生活センターの連絡先が入ったステッカーなどを電話の近くに張っておくというようなことでもできれば大分違うのではないか。
 また、高齢者なりの諸課題が契約や商取引をめぐって様々に存在していることと思うが、 御高齢の方々は非常に誇り高いと言うか、 古き良き日本人を保っていらっしゃる方が多いので、 自分の心身能力が低下してきたということを非常に恥じて、 自分から積極的に困っていることやわからないことを言わない人が多いと聞く。 むしろ、近くで介護をしている方、御家族、 高齢者の方々が集うところでお世話をされている方々から、 警視庁などが随時ヒアリングをして、 どういう具体的な問題点があるのかというのをリサーチし、 分析することが必要な措置ではないかと思うのだが、 そのようなことは行われているか。

小池 経済企画庁政務次官

 消費者教育啓発事業については、当然高齢者も対象に含めており、 消費者教育用の副読本の作成と配布について、 やはりそれぞれの世代に合ったような形でつくるという工夫も必要であろうと思う。
 それから、消費者教育のための研究会、研修会も実施しており、さらには、 シンポジウムの開催なども行っている。 例えば、高齢者の方々に対してはパンフレットの字を少し大き目にするなど、 できるだけわかりやすいものにするという工夫を凝らしていきたいと思っている。
 また、高齢者からの苦情相談のヒアリングをしたらどうかという質問だが、 実は、PIO-NETというのはヒアリングシステムとして大変な威力がある。 全国の消費生活センターからPIO-NETを通じて40万件の苦情相談のうち、 16%が60歳以上である。年齢別のいろいろな分析等もこれによって行えるので、 このPIO-NETはさらに大きな役割を果たすものと認識している。
 それから、高齢者のみならず消費者という大きな括りの中で言うと、 各省庁に消費者行政を担当している部署があり、 縦割りをなくすという意味も含めて各関係の行政機関と協力していきたい。 また、内閣総理大臣を会長として関係閣僚から成る「消費者保護会議」というのがあり、 その下部組織が今申し上げた「消費者行政担当課長会議」である。 この消費者契約法施行の折には、できるだけ広く活用され、 また消費者の苦情の救済に資するようにやっていきたいと思っている。

畑 議員

 ぜひ様々な面から幅広いサポートをお願いしたい。 この高齢者対策について若い経企庁の方と話をしていたところ、 複数の勉強会を私的に催されていて、どうすれば高齢者の方々にアピールし、 理解できるような広報手段があるだろうか、紙芝居をやったらどうかなど、 いろいろな考えを皆さんが出し合っているということを伺った。 そういう御努力というのはすばらしいことであり、 有識者の方々が総理大臣のもとでお話しなさるのもすばらしいとは思うが、 やはり現場の「声にならない声」をきめ細かく拾い、有識者、政府の官僚の方々、 経企庁長官までそういう話がネットによって伝わり、 それがすぐに政策に反映されるような体制がつくれれば理想的ではないのかなと思う。
 自治体とのかかわり合いもあって難しいことだとは思うが、 情報化の中での高齢化という大変難しい時代を迎えて、 消費者相談における高齢者対策に対してぜひ今後とも一層力を入れていただきたいと思う。