経済産業委員会(平成12年3月14日)

質問のテーマ

[知恵の時代にふさわしい経済社会の構築]通産大臣・経企庁長官所信演説に対する質疑

質問のポイント

1. 中小・ベンチャー企業振興策

(1)ベンチャー税制

  • エンジェル税制の抜本拡充がなされ、 個人が投資したベンチャー企業の株式について、 株式公開後一年以内に売却した場合は、 譲渡益を四分の一に圧縮して税負担を軽減すること(つまり譲渡益の四分の三が非課税)となった。
     この措置は世界にも例を見ない税制と言えるが、マザーズやナスダック・ジャパンという新たなベンチャー向け市場の動向と合わせ、今後どのような効果が期待されるか。
  • 現行では株式譲渡損失については、 翌年以降3年間繰り越して他の株式譲渡益とのみ通算できるが、 個人投資家の裾野を広げるためには、「所得との損益通算」を認め、 損失が出た時のリスクヘッジを厚くしておく必要があると思うが、 この点についてはどのように考えているのか。
  • 既に大多数のケースで時代に適応していない留保金課税に対し、 このたび全面的な停止措置が採られたことは、誠に喜ばしい。しかし停止となると、 将来的にまた留保金課税が復活する可能性を残しているわけだが、 この際、恒久的に廃止してしまえないのか。

(2)ベンチャー市場形成

  • IT関連企業を中心とした昨今のベンチャーブームは、 わが国でもかなり過熱気味で、バブルと言っても過言ではない状況までに至っている。 このままでは今後数多くのジャンク・ディールが生まれ、 その結果かつてのバブル崩壊時に伴う混乱のように、 優良企業も含めベンチャー企業や株式市場そのものへの不信感が一挙に高まってしまうことも危惧される。
     市場の信頼感を維持した上でのベンチャー振興策が必要となるわけだが、現状をどのように受け止め、またどのような対策を実行しているのか。

2. 情報化政策(ミレニアム・プロジェクト推進の一環として)

(1)電子政府の早期実現

  • 先般の省庁のHP改ざん事件でも問題点を指摘された通り、 政府の情報セキュリティは極めて未整備。セキュリティが不十分だと、 安心して重要な情報を伝達し合うことができず、 その結果としてせっかく構築した霞ヶ関WANもインターネット並にしか活用されていない (つまり重要情報は交換されない)ような状況を引き起こしている。 一日も早い政府としての「セキュリティ・ポリシー」の策定が何にも増して肝要ではないのか。

(2)教育の情報化

  • インフラの整備もさることながら、 情報教育の現場に於いて今後より重要となってくるのは、 コンテンツ制作や指導者の養成・確保といった問題。 情報教育のコンテンツ(教材)制作にあたる企業を支援したり、 現在各企業の中に存在しているエンジニアが学校での指導に柔軟にあたれるような制度改革がなされるべきだと思うが、いかがか。

(3)ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダリー)

  • 顧客企業の業務に必要な様々なソフトをネットで期間貸しする他、 システムの保守・運用まで手掛けるASP。このサービスが発展することにより、 これまでコスト的な余裕がなく情報化が遅れていた中小・零細企業の情報武装が飛躍的に高まることが期待される。
     ASP利用企業・供給企業双方の発展の為に、 日本としてもASP促進に向けての環境整備を怠りなく実施すべきだと考えるが、 どのような取り組みを現在実施し、また将来的に予定しているのか。

3. 知的財産権

(1)ビジネス・モデル特許

  • Priceline.comの「逆オークション」やシグニチャー社の「ハブ&スポークス方式」 をはじめ、昨今ビジネスモデルの特許申請が相次ぎ、論争を巻き起こしている。
     ただこの論争、他者に先を越されてビジネスチャンスを逃さぬために、 わが国でもビジネスモデルについて積極的に特許申請を行うべきだとする説と、 米国に追い立てられるようにしていたずらに知的財産権の囲い込みの如き特許合戦を進めると、 バイオ産業に見られるように、遺伝子情報という人類共通の財産にまで一個人や企業の権利が声高に主張されることとなり、 結果的に公共の福祉を阻害する状況を招く上、 他社から権利侵害と訴えられる危険を助長しかねないとする説の二説が拮抗している。
     通産省全体としてまた特許庁として、 国家戦略的見地からこの問題に今後どのような姿勢で臨むつもりか、示されたい。

4. NPO税制

  • NPO振興策の主眼は何と言っても、税制優遇。 現在、国会議員が超党派で「NPO議員連盟」を結成して活動支援しているのと平行して、 自民党でも「NPOに関する特別委員会」を政務調査会に設け、 先般の税制改正の折に具体的な要望書を提出した。 その結果、平成12年度税制改正大綱に検討することが明記された。
     NPO法人に対する税制優遇措置をぜひ実行していただきたいと思うが、 経企庁長官としてはどのような考えをお持ちで、 この要望書についてどのように評価されているか伺いたい。
  • わが党のNPO特別委員会の税制改正要望に関して、 税制優遇がなされる認定NPO法人(仮称)の認定基準や、 NPOに対する寄付の損金算入に関する限度額などについて、 経企庁長官はどのように評価なさっているか。 また、次期税制改正に向けて意気込みを述べていただきたい。

質疑要旨

畑 議員

 まず、深谷通産大臣も所信表明演説の中で、 最初に掲げていた、「中小・ベンチャー企業の振興策」について伺いたい。 特にベンチャー税制について伺っていくが、昨年の暮れの税制改正の際、 私自身も昼夜を問わず尽力したつもりだが、 各議員ならびに多くの関係者の方々の御努力のおかげでエンジェル税制の抜本改正がなされた。
 個人が投資したベンチャー企業の株式について、 株式公開後1年以内に売却した場合は譲渡益を4分の1に圧縮して税負担を軽減する。 つまり、譲渡益の4分の3が非課税になるという非常に画期的な制度であり、 ベンチャー先進国である米国にも勝るとも劣らない税制であると思う。 こうした税制ができる一方、株式市場の方でも「マザーズ」がスタートし、 「ナスダック・ジャパン」もこれから立ち上がろうとしている。 このように新たなベンチャー向け市場も活気づいてきているが、 こうした動向と合わせて、 今回のエンジェル税制の拡充によってどのような効果が期待されるか通産大臣に伺いたい。

深谷 通産大臣

 畑委員がエンジェル税制に関して自民党内の税制調査会等で尽力されていることに敬意を表する。
 昨年の臨時国会で、与野党問わず皆様方の御協力をいただいて、 中小企業政策の各般にわたって実現をしたわけだが、 その中の一つとして、「創業・ベンチャー企業の育成」ということを一つの柱として立たせていた。
 我が国では廃業率が高くて創業率が低いということが、 経済の活力を生み出さない背景になっているのではないか。 そういう意味では、新しいことに挑戦するベンチャー企業の育成等は極めて大事である。 制度や予算や税制面で支援していくことは当然のことであり、 その手法の一つとして「エンジェル税制」があったわけである。
 米国では、国民的にベンチャー企業というものが認知されているので、 リスクを承知で直接金融という形で資金を提供し、 その代わりに税制優遇がされるという方法でベンチャー企業に対する投資を促進している。
 我が国においてもエンジェル税制を創設したが、 株式譲渡損失に対して税制措置を講じるというものであった。 「投資してくれたお金が損失したら、エンジェル税制で少しは補填されますよ」 ということでは勧誘することもなかなか難しいわけであるが、今回の改正で、 利益があがったらそれを4分の1に圧縮して税負担を軽減するということにしたので、 私はこの両面からエンジェル税制が活用されていけば、 創業・ベンチャー企業に対する直接資金手当ても活発になっていくのではないかと思う。 また、マザーズ等ベンチャー向け市場の創設も資金供給の円滑化に資するものであると思う。
 このような状況の中で色々な施策を進めていけば、 ベンチャー企業が次々と生まれていく背景をつくりあげることになり、 恐らく新規株式公開企業数は大幅に増加していくのではないかと期待している。 通産省としても、より一層ベンチャー企業の育成あるいは創出について支援をしていきたいと考えている。

畑 議員

 ぜひ頑張っていただきたいと思うが、今の答弁の中にもあったように、 今回の税制改正によって、利益が出たときに大きく減税されることとなった。 これまでにも株式譲渡益と損失との通算はでき、 損失した際のリスクヘッジは為されているので、 これで利益が出たときと損失が出たときの両方において措置が講じられたというロジックは確かにそのとおりだと思うが、 ただやはり、税制改正の当初に目指していたものは、 米国のように譲渡損失と「所得」を通算して処理できるようにするということであった。 両輪そろえるということであるならば、 株式譲渡益だけではなく所得との損益通算も是非認めていただきたい。
 私は株の売買を行ったことはないが、 日本人のメンタリティーとして楽観的に物事を考えない傾向が強いように思われるので、 「株の売買をやってみたいのだが、失敗したらどうしよう」と不安に駆られて、 踏み切れない人が多くいるような気がする。個人投資家の裾野を広げるためには、 所得との損益通算を認め、 損失が出た時のリスクヘッジを厚くしておく必要があると思うが、 この点についてはいかがか。

細田 通産総括政務次官

 一昨年以来、畑委員の言われることは通産省でも非常に強い意識をもって要求している。 日本人の国民性からして、リスクマネーに投資する人はなかなか少なく、 預貯金にお金が流れてしまって、 21世紀に必要なベンチャービジネスにリスクマネーが行かない。 最近ようやく、新たなベンチャー向け市場において、 ベンチャー企業の人気がどんどん出てきているという状況にもなってきているので、 譲渡損失と所得との通算ができることは理想的な税制であると思う。
 ただ、損失発生した場合の優遇措置だけではなく利益が発生したときにも恩典が受けられるようになる今回の税制改正に関する法案を速やかに成立させていただき、 そしてさらに、今後の税制改正で投資環境がより良くなるように工夫をしていかなければならないと考えている。

畑 議員

 確かにまだ法案が成立していないうちから、 次のステップについて言及するのは気が早過ぎるかもしれないが、 ぜひ次期税制改正にむけて今から頑張っていただきたい。
 昨年、日米欧の主要七カ国にデンマーク、イスラエル 、フィンランドを加えた十カ国のベンチャービジネス研究者らがグローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)という研究調査組織を設けた。 そこの調査によれば、ベンチャーを支援する場合、補助金という形で支援するよりも、 税制優遇措置による支援の方がインセンティブとしてより効果的であるということが、 客観的な数値を挙げて報告されている。 ぜひもう一段、税制についての優遇措置を御勘案いただきたい。
 次に、留保金課税の一部停止について伺いたい。 留保金課税はちょうど私が生まれた頃につくられた大変古い制度で、 同族会社を家族で小規模に営んでいたような企業の税金逃れを防ぐためにできた税制。 時代状況に鑑みてもはや撤廃すべきであるとの意見が、 特にベンチャー関連の企業から非常に多く出されており、 今日もそういう意見を反映しての措置であると思う。
 「ベンチャーつぶし」とまで言われた留保金課税の撤廃は、 私にとっても積年の悲願であったので、大変喜ばしい措置ではあるが、 あくまでも「停止措置」であるので、 将来的にまた留保金課税が復活する可能性を残しているわけである。 留保金課税の対象となっている一部の大手企業については何かしらの措置が必要であると思うが、 そうでない企業については留保金課税を恒久的に撤廃してしまってはいかがか。

細田 通産総括政務次官

 まず留保金課税の制度について申し上げると、 同族会社について各事業年度の所得のうちの留保金額から留保控除額を差し引いた残額に対して、 10ないし20%の税率で追加的に課税するという制度である。
 これは中小・ベンチャー企業の自己資本の充実を妨げ、 成長の足かせとなるのではないかと大議論が行われたわけであるが、 来年度税制改正においては、創業10年以内の中小企業および新事業創出促進法の認定を受けたベンチャー企業については留保金課税を適用しない特例を設けることを提案しているところである。 これは昭和36年の制度創設以来の抜本改正である。 また中小企業の数としては、当委員会で審議した中小企業の定義の拡大によって、 全法人五百数十万のうちの99%以上をカバーするものとなっている。
 「これではまだ不十分で恒久的措置にしてもっといい制度にすべきである」との御指摘だが、 これは今後の制度改正の問題として取り組ませていただくこととして、現在審議中の法案が成立することを願っている。

畑 議員

 税制についてはここまでとし、 次にベンチャー向け関連市場の動きについて伺いたい。
 マザーズやナスダック・ジャパンなどの新興企業向け株式市場ができること自体は、 リスクマネーの供給を円滑に行うという意味で大変すばらしいことであり評価している。 ただ、最近の動向を見ていると、 特にIT関連企業を中心としたベンチャーブームがかなり過熱気味で、 「バブル」と言っても過言ではない状況までに至っている。
 私もビットバレーなどの企業が集まる情報交換会などに出席するが、 このままだと今後数多くのジャンクディールが生まれてくると思われる。 日本人は熱しやすく冷めやすい気質なので、バブル崩壊時に伴う混乱のように、 優良企業も含めベンチャー企業や株式市場そのものへの不信感が一挙に高まってしまうことも懸念される。
 市場の信頼感を維持しつつ、 投資家がある程度安全に投資が行える状況を作っていくためには、 どのような措置が必要か。またどのような対策を現在実行しているか。

深谷 通産大臣

 昨今のベンチャー企業への投資の活況には本当に驚かされる。 ある種の「ネットのバブル」と感じるくらいである。 情報関連への投資の増大、インターネットの利用者の増加、 新市場の創設等が一気に進んだことなどが原因であるが、 この状況を一過性のものとしないよう、 むしろ根付かせていくことが大事なことであると考えている。 根付かせていくために大事なことは、 投資家の自己責任原則を大前提とすることは当然であるが、 株式市場の透明性と効率性をきちんと整備していくことが市場への信頼に繋がっていくのではないかと思う。
 マザーズ等の新市場では情報開示の充実を通して市場の信頼性の確保に努めているとは思うが、 通産省としても、ベンチャー企業への円滑な資金供給を進める観点から、 透明性や信頼性の確保のために努力していかなければいけないと思っている。

畑 議員

 今大臣がおっしゃられたように、 自己責任でリスクを判断しなくてはいけないということを、 日本人一人一人の心構えとして定着させていくことが一番大事であると思う。
 さはさりながら、先ほどのマザーズ、ナスダックジャパン、 ビットバレー関連の企業が主催する交流会などに出席すると、 大手証券会社がウラに存在しているとしか思えない形で、 お薦め銘柄などの宣伝がされている。 これまでも果たして証券会社の値決めがきちんと行われていたかどうか疑問であるが、 例えば米国では引き受け時に証券会社が値決めをした金額が三倍になれば会社側が訴えるし、 三分の一になれば投資側が訴えるという明確なルールがある。 一方日本の場合は盛り上げるだけ盛り上げたその結果、「証券会社栄えて、 ベンチャー及びベンチャー投資家滅ぶ」となってしまう危険性がある。 大臣、政務次官はお忙しいとは思うが、 ベンチャー交流会などに足を運ばれて実態を調査し、御指導いただきたいと思う。
 次に、大臣の所信の中に振興していくと謳われている情報化政策について伺いたい。 一点目は、大臣も早期実現に向けて力を尽くすと言われている電子政府、 特にセキュリティー問題について伺いたい。
 先般の省庁のホームページ改ざん事件で問題点はいろいろと露呈し、 指摘されたとは思うが、 やはり政府の情報セキュリティーはまだまだ未整備であると言っても過言ではないと思う。 セキュリティーが不十分であると、 安心してそのネットワークには重要な情報を流せなくなるので、 せっかく苦労して作った霞ヶ関WANも、 どうも一般のインターネットとさほど変わらない形でしか使われておらず、 重要な情報の交換はなされていないという話も聞く。
 一番肝要なことは、どの情報が重要であるか、その優先順位を見きわめ、 よってそこにはどれくらいの秘匿をかけていかなくてはいけないかという政府全体としての「セキュリティーポリシー」を策定し、 それに基づいて予算措置を講じ、ガイドラインを策定することである。 従って、一日も早くセキュリティーポリシーを策定しなければいけないと思うが、 この点について大臣のお考えを伺いたい。

深谷 通産大臣

 2003年度までに電子政府を構築することを目途として努力をしている最中に、 今般のような一連の政府機関のホームページ改ざん事件が起こったことは、 まことに残念であり、ある種の重大な警告、警鐘であると私は受け止めている。
 高度情報通信社会の実現のためには情報セキュリティーは最も大事なことであり、 これを確保するためにいろいろな角度から努力をしていかなくてはいけない。 適切な情報セキュリティー対策を講じていくに当たっては、 今ご指摘のあった情報セキュリティーポリシーをいかにするかが大事であり、 あらかじめ明確にそれを定め、 組織内部で徹底した上で進めていくことが必要であると認識している。
 政府は先般、「ハッカー対策等の基盤整備に係る行動計画」を策定した。 また、畑議員も参加されている自民党の「ハッカーサイバーテロ防止対策プロジェクトチーム」でも緊急提言が出され、 この点についての重要性が指摘されているところである。 各省庁の参考となる情報セキュリティーポリシーガイドラインを早期に確立していきたいと思う。
 先日外部の機関が調査したところ、 通産省の情報セキュリティーはまぁまぁ良好とのことであったので、 少しほっとしているところであるが、これまでの知見を生かしながら、 通産省が先頭に立って情報セキュリティーポリシーを率先してまとめていくために、 プロジェクトチームを省内に作ったばかりである。 畑議員御指摘の点は大変重要なので、頑張るつもりでいる。

畑 議員

 今、大臣がおっしゃられたとおり、 通産省はIPAやJPCERTという外部団体を通じて、 まさに日本の情報セキュリティーをリードしてきた省であるので、 既にこれまでにも様々なデータや経験の蓄積があることと思うので、 ぜひ政府全体を引っ張っていっていただきたいと期待している。
 次に教育の情報化について伺いたい。本来教育現場の話であるにもかかわらず、 これまでに100校プロジェクトなど先駆的な試みを通産省は行ってきているので、 その積み重ねに基づいて伺いたい。
 まだまだ十全とは言えないが、インフラの整備は整ってきており、 少なくとも先進国並みの計画はできた。いよいよ、 そのインフラを使ってそれぞれの教室、 教育現場で何をどのようにして教えていくのかということに問題の焦点は移りつつあると思う。 しかし、実際どのようなコンテンツを教材として使うのか、 あるいはどのような形で指導者を育成、確保するのかという問題になると、 どうもまだまだ全体のスケジュールにのっていない気がする。 このままだと、せっかくインターネットに接続しても、 教える人、教えるものがないという状況になってしまうのではないかと危惧している。
 例えば、情報教育の教材を制作している企業を支援したり、 あるいは教員にいきなり専門家になれといっても無理な話なので、 現在各企業の中にいるエンジニアが学校での指導に柔軟に当たれるように制度改革を行ったりという措置がなされるべきである。 これまでにも幾つかの措置を講じてきているとは思うが、 それも含めて今後どのような施策を考えているか伺いたい。

茂木敏充 通商産業政務次官

 教育の情報化においては、畑議員御指摘のとおり、 コンピューターやインターネットなどのハードインフラの整備もさることながら、 ソフト面での取り組みも大変重要である。
 例えば、日本と米国の学校を調べてみると、 インターネットに接続している学校は米国の89%に対し日本は35.6%である。 ただ、この件に関しては、 2001年には日本においても全ての学校がインターネットに接続するという明確な目標を作っている。
 しかし、ソフト面においてはこれからの取り組みということで、 通産省としても文部省を初めとした関係省庁と連携をとりつつ積極的に取り組んでいるところである。
 例えば、教育用のポータルサイトを考えてみると、 そこにいかにコンテンツを入れるか、 あるいは他からのコンテンツをどのようにして引っ張ってくるかということが非常に重要になってくる。 御指摘のあった、コンテンツを制作する企業に対する支援措置に関しては、 平成11年度の補正予算において8億円を計上しており、 現在、教育用の画像素材の作成支援を行っているほか、 平成12年度予算においても先進的な情報教育の実験等を支援するため約10億円の予算を国会に提出しているところである。
 また、専門家による教育について考えてみると、 現在学校でコンピューターを使って指導に当たれる教員の割合は約26%であり、 すぐに学校の先生がコンピューターを使えるようになるというわけにはいかないので、 畑議員御指摘のように、教育の現場からのニーズを踏まえて、 学校に企業のシステムエンジニアを派遣して支援していく事業を文部省と協力して引き続き推進していきたいと考えている。

畑 議員

 ぜひ、量的、規模的拡充を今後も図っていただきたいと思う。
 情報化の政策についてもう一点伺いたい。 最近ようやく人口に膾炙し始めたかなという言葉、ASP、アプリケーション・サービス・プロバイダー。 今年のキーワードになるのではないかと思うくらい、日本の情報化にとって、 ある意味で起爆剤になるのではないかと期待している。
 説明するまでもないが、ASPとは顧客企業の業務に必要な様々なソフトをネットで配信し、 期間貸しするというサービスであり、 しかもそのシステムの保守・運用まで手掛けている。 いわゆるソリューションを全て丸抱えで任せた上に、 マネジメントもやってもらえるという時代に入りつつある。 このASPというサービスが普及することによって、 これまでコスト的な余裕がなくて情報化投資が遅れていた中小・零細企業が、 情報武装をより容易にできるようになるのではないかと、 私自身はその点に一番期待を寄せている。
 一方、いま様々な企業が生き残りをかけて、 自分が主眼とする分野以外はどんどんアウトソーシングしている時代なので、 当然このASP市場は今後非常に拡大することが予想される。
 ちなみに、米国のデータクエスト社の調査によると、 ASPの世界市場規模は98年に約8億9千万ドルだったものが、99年には27億ドル、 2003年には一気に227億ドルへ急拡大すると予想している。 日本がこの分野で世界に伍していくという必要性は非常に大きいものと思う。
 ASPを利用する企業と供給する企業双方の発展のために、 日本もASP促進に向けて様々な環境整備を怠りなく実施すべきであると考えるが、 現在どのような取り組みを実施しているか、また今後どのような施策を予定しているか。

茂木 政務次官

 畑議員御指摘のとおり、ASPは産業の情報化、 情報の産業化の両面から現在急速な成長が見込まれているところである。
 ASPを利用すると、 中小零細企業のようにハードに係る情報化投資が比較的重荷となる事業者でも、 より安価に最新のサービスを受けることが可能となる。また、大企業においても、 最近はコアコンピタンス、集中と選択という中で、業種によって違いはあるが、 自分が得意とする分野には投資をするけれどもそれ以外はアウトソーシングで対応しようという動きが大変強まっており、 ASP市場の振興は政府としても大変重要であると考えている。
 ASPにおいては、他の電子商取引等も同様であるが、 ネットワーク上の取引の信頼性の確保が大変重要であり、 これに関わる問題点について調査を行っていきたいと考えている。
 また特に中小企業を念頭に置いて、経営の効率化支援を目的としたASP等の技術開発を促進するために、 平成11年度補正予算に基づき、 提案公募方式による技術開発支援を約70億円の規模で行っている。

畑 議員

 まさにこれからの事業であり、今後どのように発展していくか見えにくいので、 支援の仕方が難しいとは思うが、ぜひ引き続き支援をお願いしたい。
 先日、館林にある富士通のデータベースセンターを視察し、 その際に指摘されたことだが、電気代が非常にかかるとのことである。 物をつくる場合には軽減措置があるが、ソフトにはない。 目に見えるハードからソフトへと世の中が移行していく中で、 ソフトを生産する側にも何かしらインセンティブを与える措置を考えていく必要があるのではないか。
 また、せっかく中央のデータベースセンターが最新のソフトを配信しようとしても、 受信側の個々の端末が古くて受け付けることができないということでは意味がないので、 語られて長い話だが、次期税制改正ではコンピュータの耐用年数の短縮について実現をぜひお願いしたい。
 情報化に関してはこの程度にとどめ、次に知的財産権の問題に移りたい。
 知的財産権についても、所信表明からかなり力を入れている様子が伝わってきたが、 本日はビジネスモデル特許について伺いたい。
 ビジネスモデル特許はまだ余り耳なじみの無い言葉ではあるが、 最近では新聞紙上のどこかに必ず記事が掲載されているというぐらいかなり話題になっている。 例えば、Priceline.com(プライスライン・ドット・コム)の「逆オークション」 やシグニチャー社の「ハブ&スポークス方式」 といった新たなビジネスモデルの特許申請が相次ぎ、論争を巻き起こしている。
 ただこの論争、他者に先を越されてビジネスチャンスを逃さぬために、 わが国でもビジネスモデルについて積極的に特許申請を行うべきだとする説と、 米国に追い立てられるようにしていたずらに知的財産権の囲い込みの如き特許合戦を進めると、 バイオ産業に見られるように、 遺伝子情報という人類共通の財産にまで一個人や企業の権利が声高に主張されることとなり、 結果的に公共の福祉を阻害する状況を招く上、 他社から権利侵害と訴えられる危険を助長しかねないので慎重に考えるべきだ、 という二説が拮抗している。
 通産省としての見解も所管する産業によって各局各課ごとに、 若干ニュアンスが異なるようであるが、通産省全体としてまた特許庁として、 国家戦略的見地からこの問題に今後どのような姿勢で臨むつもりか伺いたい。

近藤隆彦 特許庁長官

 ビジネスモデル特許は、確かに今大変注目されており、 また広範な影響があるのではないかという懸念も持たれているということは十分承知している。
 例を挙げていただいたとおり、 インターネットを活用した電子的商取引やコンピューターを使った資産の管理などは技術そのものを見ると一種のソフトウェアの技術であり、 従来からソフトウェアを特許制度で保護するということは定着しており、 1970年代初めからいろいろな形でソフトウェアを特許制度で保護してきている。
 このように考えると、ビジネスモデル特許は非常に新しい形態ではあるが、 これもソフトの一形態と見て、 ソフトウェアのいわば権利と技術に対する特許という観点から審査をすべきであると考えている。
 それから、実際のビジネスに非常に応用が効くという点で、 大変関心を持っている日本の企業も多いが、ご指摘のとおり懸念すべき点もある。 特に、いろいろなところが次々に特許申請を出して特許合戦になって収拾がつかなくなるのではないかという懸念がある。 これから国としてぜひともすべきことは、 現在まで積み重ねてきたソフトウェアに関する技術の審査を十分踏まえた上で、 新しい技術をさらに勘案しながら、 国際的な調和を図りつつ運用基準を明確に示していくことではないかと思っている。
 何が特許となり何がならないかということを、 できるだけ運用例のような形で明らかにしていくことによって、 関連する企業の方が不必要に不安に陥ることのないようにする、 こういったことが一番よいのではないかと考えている。 この点に関しては、幸い日米とも同じ考えである。
 昨年の秋に、日米欧の特許庁長官会合を行った。 それまでの専門家のいろいろな議論を踏まえた上で、 日本が積極的に働きかけて国際的な事例研究をしようということをまとめている。 この事例研究を行って、アメリカとか日本の審査の状況を比べてみて、 できるだけオープンにしていこうという方針で、 ハードウェアとソフトウェアのいろいろな組み合わせをいろいろな事例を立てて、 それを審査してみてどう違うのかということを現在専門家の間で研究しているところである。
 このようなことを踏まえて、国際的な調和を図り運用の明確化を示すことによって、 産業界の方々にできるだけ御理解を得ていきたいと考えている。

畑 議員

 今の答弁の中で特に重要だと思うのは、「国際的な調和」ということだと思う。 国際協調を保ちつつも、やはり国益にフォーカスして考えた場合、 どのように政策を打ち出していくかという問題になると思う。
 要するに、ビジネスモデル特許を「攻め」として考えるか、 「守り」として考えるか。両方だと言われるかもしれないが、 次々に訴訟を起こしてそれに勝っていくということは、 これまでの日本のカルチャーからすると余り考えられないことのように思える。 しかし、中にはビジネスモデルを次々に創出していくような新たなコンセプトのベンチャー企業を立ち上げようとしている企業家が日本にもいると聞く。 やはり、「攻め」と「守り」の両面を考えていかなければならない大変難しい問題であるとは思うが、 引き続きウォッチし、アメリカとヨーロッパ双方の動向を見比べながら、 ぜひ日本の国益にかなった政策を実行していただきたいと思う。
 最後に、NPO税制について経企庁長官に伺いたい。 現在、国会議員が超党派で「NPO議員連盟」を結成して活動支援しているのと並行して、 自民党内でも「NPOに関する特別委員会」を政務調査会に設け、 先般の税制改正の折に具体的な要望書を提出した。 その結果、平成12年度税制改正大綱に検討することが明記された。
 この要望書の中で、公益法人や特定公益増進法人に対する寄附と、 一般の寄附という分け方とは別に「認定NPO法人」をつくってはどうか。 幾つか条件はあるが、これに認定されれば法人、 個人ともかなりの税制優遇が受けられることになるという提案を、 具体的な数値なども記載した上で行った。
 ぜひ、これに類する形でのNPO法人に対する税制優遇措置を実行していただきたいと思うが、 経企庁長官としては、税制優遇措置についてどのような考えをお持ちで、 またこの要望書をどのように評価されているか伺いたい。

堺屋太一 経済企画庁長官

 一般的に言って、寄附税制というものはもっと広がってもいいものだと、 私は長官になる前の税制調査会の委員であったときには思っていた。 人々が善意で判断して寄附をし、それが世の中のためになる。 寄付者の意思がもっと尊重されてもよいのではないかという個人的な意見は持っていた。 NPO法人については、議員立法で法律をつくり、 二年後に見直すと言う規定も盛り込まれている。
 私どもとしては、国民生活審議会の中で立法府の判断に役立つような調査をしていきたいと思っているが、 最終的には立法府の方で判断していただくことになると思っている。
 これから社会が多様化するにつれて、善意の活動が重きをなしてくるので、 ぜひ寄附活動あるいは善意の活動ということについて日本社会全体として考えていくことが大切であると思っている。

畑 議員

 理念としては今長官が言われたことに尽きると思うが、 そうした高邁な精神だけではなく、同じ金額のお金をいかに効率的に使うか、 つまりバリュー・フォー・マネーを上げるかという意味でも、 すべてお上がお金を税金として召し上げてそれをまた割り振るということではなく、 それぞれの現場を一番よく知っている者が、 「ここに使ったら世の中のため、公益のためになる」ということを判断し、 それに基づいてお金が直接そこに投入されるという誠に効率的なシステムもあると思うので、 ぜひそのような面からもNPOへの税制優遇を評価していただきたいと思う。
 その精神を形にするために、私どもが提案した認定NPO法人の認定基準の中に、 「パブリック・サポートがあること」という要件がある。 要するに、大きな一企業や一団体からサポートを受けているのではなくて、 広く浅く多くの方々から支持されていることが一つの認定基準となっている。 これはアメリカ方式に準拠しているが、もしこのようなパブリック・サポートを含め、 それから先ほどのバリュー・フォー・マネーを高めるという意味で何か御所見があれば、 ぜひ税制について前向きな答弁とともに、長官からお言葉をいただきたい。

堺屋 経企庁長官

 日本では民法によって公益法人を政府が認定する、認可することになっている。 アメリカ、イギリスなどは、市民が決めて、 後から調べて特に不審なところがなければ認める。 寄附の範囲、善意の範囲を非常に大きくとっている。 しかし日本では、寄附をするときには、 広告にならないかとか関係者の利益にならないか、 例えば学校法人に寄附するとそれが入学のための運動ではないかというように厳しく判断される。
 これから知恵の時代になってくると、一人一人の判断が大事になってくると思う。 よって、方向としては畑議員の言われるように考えるべきであり、 寄附を善意のNPOなどに大いに認めるような方向で考えるべきだろうと思う。 ただ認定ということなると、 その基準についていろいろと議論すべきところがあるので、 この法律を立法府の方で見直しをするときには、事例などの調査、 協力は存分にさせていただくので、ぜひ十分に検討していただきたいと思う。

畑 議員

 長官から一言やるべきだという力強い言葉を発して頂けると、 世の中に対する波及効果が絶大なので、多少答弁を無理強いしてしまったが、 今後も御支援のほどよろしくお願いしたい。