行政改革に欠かせない二つの視点(平成9年3月9日)

 大分暖かくなって、東京でも固かった桜の蕾が急に膨らみ出し、 見る見る赤く色づいて来ました。 本格的に春到来かと日本列島も軒並気温が上昇する中、 ここ永田町の自民党本部でも行政改革に関する意見の第一次取りまとめ作業がいよいよ佳境に入り、 規制緩和、公共投資、 地方分権などなど分野毎に別れた各委員会ではこれまでにも増して熱い舌戦が繰り広げられています。

 私のような一年生議員が参加できる委員会だけでも、 毎朝8時から夕方までぎっしりとしかも大抵重複してセットされ、 意見が尽きるまで徹底的に討議されます。 こうした場での論議を踏まえて、役員クラスの議員によるより高度で実務的な作業が進められるわけですが、 それらと平行して有識者による行革会議も開かれ、 そちらの意見も合わせて具体策を打ち出す事になるのですから、 佐藤孝行本部長を筆頭に「行政改革推進本部」の主要メンバーの議員達は、 おそらく寝る間も無いような激務の日々を送っている事と思います。

 私も出来る限りそうした会議には参加し意見を述べるよう努めていますが、 今後の行政改革の進め方について一定の結論が出されようとしている今、 一つ不安に思っている事があります。

 それは行政のスリム化を行うに当たり、 どの分野もとりあえず“一律にカット”してしまうという裁定が下される恐れがある事です。 ご存知の通り、行革を断行するという事はイコール無駄を省き効率を高める為に、 人員や予算を減らして行こうという事ですから、 当然既存の省庁や特殊・公益法人などの各セクションからは、総論としては賛成でも、 各論として自分の所だけはそうした対象とはなりたくないという必死の抵抗が相次ぎ、 それを受けていわゆる族議員達による様々な運動が展開されることとなります。 そうした中でどこかを切ってどこかを残すということになると抵抗も大きく、 後に恨みを残す事にもなるので、 ここは一つ皆に一様に痛みを負ってもらおうかという裁きが為される可能性は決して少なくは無いのです。

 しかしもし本当にそんなことをしてしまったら、 日本は21世紀に向かってよりボーダレス化する世界の荒波を乗り越えて行く力を完全に失うと、 私は確信しています。 なぜならすべてを一律横並びに保護し規制してきた護送船団方式をはじめとする 「ジャパン・システム」そのものが遂に制度疲労を起しており、 即刻そこから脱却しない限り日本の未来は無いというところから そもそもこの行革論議が始まったわけですから、 将来に対し日本が描くビジョンに基づいてメリハリの効いた予算や人員の配分を一日も早く実現することが、 国際社会を生き残ってゆく上での必須条件であるからです。

 しかしここで難しいのは、何を伸ばし何を整理すべきかを決定する上での、 判断基準の設定です。 私は次の二つのキーワードに、集約されるのではないかと考えています。

 一つは「グローバル・スタンダード」。 国際的な基準や常識にどこまで日本が合わせて行けるかということで、 規制緩和や情報開示など既に法改正に着手し始めているものから、 集団的自衛権の行使や過去の歴史認識、 あるいは昨今の民法改正論議に見られるような人権問題まで、 グローバル・スタンダードに照らしてはずれたものとならないよう社会環境を整備して行く必要があると思います。

 しかしその一方で平行して精力を傾けて取り組まねばならない課題が 「アイデンティティ」の形成です。 国際的に社会がボーダレスになるほど、 そこではより自己の存在を主張しアピールすることが生き残りの為に必要となります。 経済的にも文化的にも、 あの国はこのような特徴を持った国でこうした点から尊重に値すると、 他の国から認識してもらえるだけの強い個性と魅力を持たなければならないのです。 戦後50年で日本が最も怠って来たことだけに、 真剣でかつ早急な取り組みが望まれます。

 グローバル・スタンダードとアイデンティティ―― これからの日本はこの二つのキーワードを無視しては生きられないでしょう。 が、その一方でこの二つを尊重しようとする時しばしば両者が拮抗し合う事もまた真実です。 それを凌駕して行くには、 一にも二にも政党や政治家がめざすべき明確な国家ビジョンや有るべき姿を国民に示し、 それらを国民の共通認識とした上で、 その基準に照らして物事の是非を判断して行くことが肝要なのだと思います。 そういう意味で、 国のビジョンが些か漠然としたまま進められている現在の行革の作業が、 今後益々困難な道のりを乗り越えて行かねばならないのは必至です。

 それでもこの日本の行方を誤らせることが無いようにと、 多くの議員達がわが身を削って既得権益の壁を打ち崩すべく体当たりしている姿を、 私は日々目の当りにしています。 日本の明日は決して暗くはないのです。 今後とも皆さんからの叱咤激励をお待ちしています。