国際基準に即した民法改正の実現を(平成9年3月20日)

 選択的夫婦別姓制度の導入や非嫡出子の相続差別の撤廃などの内容を盛り込んだ民法改正に関する法案の提出が、 先国会に続いて今国会でも見送られる事が決まったことは皆さんマスコミを通じてご存知の通りです。 そこで今回のトピックスでは、 この決着に至るまでに自民党の中でどのような議論が行われたかについて、 ご報告しようと思います。

 私は新進党に在籍していた当時から一貫して、 この民法改正を積極的に推進して来ました。 何故なら、夫婦が別の姓を名乗れるという「選択」の幅を社会に一つ増やすことも、 又たまたま入籍をしていない両親の下に生まれた子供が、 入籍している子供の半額しか財産を分与されないという法的差別を取り除くことも、 基本的人権の尊重という観点から至極当然のことだと考えたからです。 反対にこの民法改正をまかりならんとするならば、 それは国家が国民全員に夫婦同姓を強要する事となり、 また両親の都合で非嫡出子として生まれた何の罪も無い子供たちを国自身があからさまに差別する事となってしまいます。

 事実、国際的な常識に照らしても、 夫婦別姓を選択的に認めていない国はインドやタイなどごく少数で、 先進国では日本以外に見当たりません。また非嫡出子差別の撤廃に関しても、 国連の規約人権委員会で日本政府に対し速やかに法改正を行うよう勧告がなされています。
しかしながら、どうも日本では人権意識が希薄なことに加え、 選択的夫婦別姓制度の「選択」の文字がいつのまにか落ちて伝わってしまって、 多くの人たちが民法改正されたらその翌日から自分達夫婦も別々の姓を名乗らなければならないように誤解して受け留めてしまっているようです。

 さてそこで肝心な自民党内の論議ですが、 この問題については党内の「法務部会・家族法に関する小委員会」 でずっとヒヤリングと討議が繰り返されて来ました。 ただ議題となるのは専ら選択的夫婦別姓についてで、 非嫡出子の差別撤廃については私が出席した限り残念ながら俎上にも乗りませんでした。 選択的別姓については巷間言われているように確かに推進派は少数ではありましたが、 現実に97パーセントが結婚によって姓を変えざるを負えない女性にとって、 同姓を強要される事がいかに不都合や不利益を生じさせているかという点については、 全体的に一定の理解が示されていたようではありました。またこの民法改正案を、 民主党が社民党や新党さきがけにも呼びかけて国会に共同提出しようという動きもありましたので、 社・さへの気配りから一部の強硬な反対派の議員達も先国会のような徹底した論陣は張らなかったようです。

 と言うわけで今年の同小委員会は始めから、 婚姻前の姓を結婚後も使用する事を認める、 いわゆる通称使用を容認する代わり別姓は認めないという落とし所が反対派の議員から示され、その線に沿って論議が展開して行った感があります。 ただこの通称使用を推し進めてゆくと、 結局は戸籍の書類に同姓である旨が記載されているだけで、 実生活上は別姓の夫婦と何ら変わらなくなってしまいます。 つまり銀行口座もパスポートも旧姓を使用するとしたなら当然郵便物などは旧姓宛てに送られて来ますので、 玄関には2枚の表札が掛かることになります。 これでは別姓に反対する人たちが必ずその理由として掲げる、 同姓でなければ家族の絆や一体感は保てないというロジックは成り立たなくなるでしょうし、 とすれば恐らくたとえ通称使用が認められてもその範囲はかなり限定されたものとなり、 かえって二つの姓を使い分けねばならないことにより手続きはより複雑になり日常生活にも多くの混乱や支障をきたすことになってしまいます。 もちろん私自身は夫婦が同姓であろうがなかろうが、 そのような事は家族の結びつきの強弱には関係の無いことだと思っていますし、 第一同姓でなければ家族の絆にひびが入ると思うような人は初めから別姓など選びはしないでしょう。 反対派の方はよく「蟻の一穴」と言って、 別姓選択の自由を与えたらじきに皆がバラバラの姓を名乗るようになり、 家族は崩壊し、やがて国家も滅亡するような事をおっしゃいますが、 姓の違いなどによって家族の絆は揺るがないという確固たる信念の持ち主のみが別姓を選ぶのですから、 選択的別姓の容認が国家を崩壊させるなどそれこそ文字どおり天が落ちてくることを憂う「杞憂」そのものではないでしょうか。 その証拠に世界中見渡したところで、 同姓を強要しなかったから国家が危機に瀕した国などひとつもありません。

 結局3月4日、自民党としての取りまとめが部会で示され、 夫婦の氏については選択的夫婦別姓制度ではなく 「旧姓続称制度」(いわゆる通称制度)を導入することとし、 又非嫡出子の相続分については現行通りで改正はしないことなどを内容とした案が了承されました。 そしてその後の自社さ3党の話し合いを経て、 やはり今国会でも政府による法案の提出は見送られたわけです。

 今後は民主党が議員立法で法務省提案とほぼ同様の内容の法案を国会に提出する事も 考えられますが、 その場合は是非とも党議拘束をはずしてもらえるよう、 民法改正を支持する議員達は党に働きかけています。 自民党と言うと全員が改正に反対しているのではと思われがちですが、 自分自身が別姓に挑戦した経験を持つ議員や娘さんが現在夫婦別姓を実行している議員など人権意識の極めて高い人も数多くいますし、 又その旨を堂々と部会で主張し持論を展開したからといって、 その後その発言によって不利益を被るような事は一切ありません。 今後も開かれた自民党にふさわしく大いにこの問題について論議を深め、 国際基準に適応した民法を一日も早く我が国のものとする為力を尽くして参ります。 宜しくご支援下さい。