NTT接続料金問題はわが国にとって、いまや一通商テーマの域を越えて、 とても象徴的な意味を持つ政策課題となってしまった。
すなわち、この問題への取り組みの曖昧さや不透明さをもって、 競争促進に消極的な日本、閉鎖的で透明性が欠如した日本市場というイメージが、 世界に対し声高に喧伝されてしまった。
オープンで透明性の高い$公正な競争が行われる市場の創設こそ、 日本の真の国益に資するというポリシーのもと、 これまでわが国の競争政策を強力に推進してきた一政治家としては、 まさに臍をかむ思いである。
しかし残念ながら、国会議員として八方手を尽くしたにもかかわらず、 私はいま米国からの幾つかの問いかけに対し明確に答え得る、 あるいは批判に対し反論し得るために必要な、 具体的かつ客観的な資料をほとんど持ち合わせていない。なぜならそのような資料は、 すべてNTTの会計実績にまつわる事柄であり、現在の日本の体制でその真偽は、 NTTにしかわからないからである。
日本の政府には(誠に遺憾なことであるが)、米国のFCCや英国のOFTELにあたる、 通信事業者に対して公正な競争環境が整備されているかをチェックし、 必要な規制をおこなう専門機関が存在していない。
また通信事業全般を所管する郵政省にも、 NTTの財務分析を行える専門官はあまりに少なく、 実際、今回の接続料金問題をめぐっても10人に満たない郵政官僚が、 省内の小部屋で昼夜を徹して担当していた。
「競争環境の整備」が、通信政策の根幹をなす必須条件であることは、 誰しも異論が無い事実である。にもかかわらず日本政府はこれまで、 その重要な任務に対し十分な予算や人員を充ててこなかったことを、 今回の接続料金問題は世界に向け露呈させてしまった。
日本政府はただちに、 通信行政に関する監視および規制を公正な立場から行える機関(日本版FCC)を設置し、 NTTの経営実態をはじめとした事実関係を明らかにした上で、 現在、米国やNCCから投げかけられている幾つかの疑問に誠実に答えて行かねばならない。
特に今後NTT法の改正を進めるにあたっては、通信政策の根幹である 「競争促進」がより一層前進するようオープンな形で徹底した議論を行い、 独占事業者に対する公正競争ルールの導入を実現しなければならない。
具体的には、NTTの業務範囲の拡大を認める際には、 まずNTTグループの資本の完全分離・分割を前提とし、 更にはユニバーサルサービスについてもNTT一社にその負担を負わせることなく、 通信事業者全体でその負担を分担するなど適正なあり方を検討し、 また通信の安全保障を担保した上で、政府のNTT株式保有についても見直すべきである。
今、熾烈な国際競争の荒波をわが国が21世紀に向かって乗り切るために、 真の国益とは何か、真に国民にとって豊かな将来のために決断すべきことは何か、 勇気を持って考え声をあげる最後の機会ではないだろうか。