「OA INFORMATION」79号, 大塚商会(平成10年2月1日)

情報環境の整備―それは日本のシステムを変革するための、軽くて透明な「革命」。そう思って取り組んでいきたい

私にとってコンピュ一タはネットワークとイコールなんです

 日本文化の底流にあるのが、神社仏閣。散策すると気持ちが落ち着きますよね。参議院議員会館の私の事務所を訪れた方はみなさん驚かれるんですが、神棚とパソコン、そしてフランスの現代アートが同居しています。いわば、これが私の「三種の神器」ですね。

 コンピュータネットワークのような技術の根底には、必ずそれを使う人間の基盤……文化の裏付けが必要だと思うんです。文化的な伝統が脈々と流れているヨーロッパなどと比較して、情報化社会へ向かう日本の姿勢はそのあたりがもうひとつ弱いように感じますね。

 自分でパソコンを本格的に使うようになったのは1995年に議員になってからです。ワープロで文章を書くようになったのもその直前のフランス留学のとき。もともと機械がそんなに好きじゃない、根っからの文系人間でしたから。

 そんな私が、党の「安全保障高度情報ネットワーク化研究会」や、国会内の「マルチメディア化推進議員懇談会」の事務局長などを務めているというと、奇異に感じられるかもしれません。ただ私の場合、パソコンを使うことについて、当初からはっきりとした目的を持っていました。まず第一に、インターネット。私がパソコンを始めた時期は、奇しくもインターネットが世界的に拡大した時期に重なっています。私は、パソコンを「世界に張り巡らされたネットワークを使うために必要な機器」と意識して使い始めたんです。

 もうひとつは、一年生議員として自分も何か専門分野を持ちたいという思いですね。では自分は何をすべきかと考えたときに「情報通信」という分野が見えてきました。これからは政治や社会のあらゆる部門・分野で情報化が進んでいきます。経済、教育、安全保障に至るまで、すべてをー変させてしまうかもしれない「革命」なのに、日本の行政の中ではそれほどの重要性も危機感ももって受け止められていないように感じられたんです。それに、こういう新しい分野ならベテランという方はいらっしゃいませんし、むしろ若手のほうが柔軟に動けるのではないかという“政治的戦略”も少し意識したかもしれませんね(笑)。

自分の考えを自分の言葉で人々に伝える場としてのホームべージ

 ですから、議員になってまずインターネットに接続、自分のホームページもすぐに立ち上げました。
 当時はパソコン初心者ですから、技術的なことは何もわかりません。でも、幸いにも家族にコンピュータ技術者がいたものですから、それはもう厳しい指導を受け著した(笑)。

 自分の政治活動やふだん考えていることを、自分自身の言葉によるメッセージとして発信まできる。しかも、正確に、迅速に、安価に伝えられる。みなさんのお考えも、ホームページに寄せられるメールを通してリアルタイムで受け取ることができる。これは素晴らしいことですよ。メールは平均して毎日20~30通ほどでしょうか、必ず目を適して、ほとんど自分で返信するようにしています。

 政治は見えにくいもの、そういう側面は確かにありますね。だから、政治家の側からそれをもっと見えやすくしていく必要があると思います。たとえば、ある法案が国会に提出されるとして、国民のみなさんにその内容が「見える」のは法案ができてしまってから。でも実際には、法案として固まるまでに、部会レベルでの検討やさまざまな経緯があるわけです。私はホームページで、そうした「過程」の部分をできるだけ国民に向けて発信しようと心がけてきました。

 「マルチメディア化推進」の懇談会も、参議院内にLANを構築して各種の情報交換ができるようにしようというのが活動の目的です。すでにネットワ一クが整備されている“霞ヶ関WAN”に比べ、政治家自身の情報環境はまだまだ遅れていますね。年配の議員の方にも、とにかくパソコンに触れていただこうと努力して、少しずつ周囲の意識も変わってきています。

コンピュータは主体性をもって使ってこそ生きるツール

 最近、総理に提出した「情報通信政策に関する緊急提言」は、慶応大学の村井純先年や建築家の隈研吾氏、デジタルガレージの伊藤穣ー氏といった方々と討論してきた成熟がもとになっています。対話の詳細は『軽やかな革命“情報通信”(仮題)』と題して出版する予定でいますが、そこに日本の情熱化社会が抱えているさまざまな問題があぶりだされる結果となりました。

 特に小・中学校レベルでのコンピュータ教育のハードソフト整備の遅れと指導者不足は、早急に手を打つべき議題ですね。で、次に教育の中身ということになるんですけれど。コンピュータというのは、自分から、主体的な使い方をしてこそ、価値を生み出すツールですよね。情報を受け取るだけでなく、自ら使いこなし発信してこそ、ネットワークという新しい環境も生きてくるはずです。そのためには、問題発見・解決能力や論理的な思考力に重点をおいた情報教育を進めていくべきでしょう。キーボードを打てるようにしただけではダメなんです。

 教育の問題にしろ、セキュリティの問題にしろ、日本ではまだまだシリアスな危機感をもって受け止められていないのが現実です。でも、ここで誰かが警鐘を鳴らさないと。おおげさでなく、これまでのジャパン・システムでは対応しきれないところまで、世の中が変わってきているわけですから。新しい「国」としてのシステム確立に向けて「情報環境」をどこまで整備していけるか。自分で選んだ仕事として、これからもこのテーマに積極的に取り組んでいきたいと思っています。