「政界」19巻12号, 政界出版社(平成9年12月1日)

政治評論家・本澤二郎の次代を担う若手政治家に聞く

世界の生産性を10の5乗倍も向上させる情報通信革命

驚くべき変化のスピードと世界的な広がりで、いま情報通信分野の発達が世の中を根こそぎ変えようとしている。その情報通信革命を前にしながら国家戦略を持ちあわせず、世界に遅れをとる日本の現状を憂うる参議院議員・畑恵氏。だが、それだけやりがいもあると前向きな姿勢を見せる畑氏にエールを送りたい。

新進党離党の原因は政策決定の不透明さ

本澤

 新進党から自由民主党に移られた経緯というのは、身近な人は理解しているでしょうけど、支持者や一般国民のなかにはまだ怪訝な目で見ている人もおります。そこで、そこのところを少し説明していただきたいのですが。


 ここに至るまでの政治活動、理由といったものは、すべてインターネットを通じて、私のホームページに掲載してありますので、それを読んでいただくのが一番いいのですが、ここで簡単にご説明しますと、まず第一の問題は、新進党という党の、政策を決定するまでの過程というものが、あらゆる面で非常に不明瞭であったという点でした。どこで、いつ、誰が、何を決めているのか、ほとんどわからず、一つの政党としての組織を成しているのか、と疑問を持たざるをえませんでした。

本澤

 民主主義政党と言えるのかな、という疑問はどうしても湧きますよね。僕はそういうところを一生懸命批判していたんですよ。最初は、ずいぶん恨まれもしましたけど、最近は僕の言っていたことを理解してきた人が増えているようです。


 去年の年明け早々でしたが、突然、党所属の代議士全員に、衆議院を解散に追い込むために議員バッジを外しなさい、という命令書が届いたことがありました。

 議員バッジは個人の持ち物ではありません。国民の代表として、責務を託されて付けているのであって、党から命じられて外すとか外さないとかいう問題ではないはずです。もっとも、さすがにあまりにも唐突な話でしたので、この件はすぐに雲散霧消しましたけれど。

本澤

 そのことは新聞記事になりましたか?僕はあまり印象に残っていないんですが。


 出してすぐ引っ込められてしまいましたので、あまり活字になっていなかったのかもしれませんね。

 次に住専の問題ですが、最初の党の方針は「税金投入」でした。それが一部議員の反対などもありまして、途中で2回ほど政策が変わって、最終的には「税金投入絶対反対」―と180度変わって、あの座り込みになったわけです。

 この時も、どこで誰が政策を決めているのか、何故変わってしまった
のか、よくわかりませんでした。

 そして総選挙にあたっては、小沢先生はご自分の本に消費税を10%に引き上げると書かれていたにもかかわらず、消費税3%据え置きを新進党の方針にされました。

 ですから、どこで誰が、いつどのように物事を決めているのか、その過程を明らかにして透明性の高い党運営をした方が結果的に党のためにもなるのではと進言しても、執行部からすると、そうした言動はすべて造反とみなされてしまいまして。

本澤

 しかし、もっとも当たり前の疑問ではあるし、当たり前の注文ですよね。


 そして、党と自分の政策のギャップが決定的になったのが例の18兆円減税です。事前の連絡も相談も何もなく、総選挙の前日にファクスでいきなり通告されました。

 しかも、その紙には、どういうところを財源として考えて費用を捻出するのか、そして捻出するにあたってのシナリオといった、具体的な実現へのプロセスについては何も書かれていなかったわけです。

本澤

 そういう意味では、高市(早苗)さんの理由とほとんど共通しているわけですか。新進党を抜けた人に共通する思いなのでしょうね。


 180度政策を変えてしまい、しかも、そうした決定がどこでどうなされているかわからない政党に、そのまま留まることのほうが、新進党を介して私に1票を投じて下さった国民の方々の期待を裏切ることではないかと思ったのです。

 最近の新進党の支持率を見てもわかりますように、私が当選させていただいた当時党を支持して下さった方の中で、特定の団体に属さない人のほとんどは、いまの新進党を支持していません。私はもちろん特定団体の推せんを受けていたわけではないですから、新進党が新たな保守政党として世の中を変えてくれそうだ、と期待した一般の方の票によって議員になったわけです。だとすれば、その期待を実現させるためにも変貌してしまった党を離れ、他の方法を取ることこそ国民への誠意だと判断したわけです。

本澤

 さて、そうして自由民主党に入ったわけですが、実際に自由民主党に入ってみて、新進党とはだいぶ違っていますか。


 正直、ここまで違うとは思いませんでした。

 自民党では党の政策を決定する際には、まず議案を部会にかけ、そこで1年生議員を含め、すべての党所属議員の意見を完全な平場で取りまとめた後、その結果を政調の審議会にかけ、さらにその後、総務会にかけ、というように討議をしていくうえでの民主的な情報伝達経路が完全にできあがっているわけです。

 小さい党であれば、組織ができあがっていなくても、全員で集まって、その場で合議の上決めていくことができますけれど、大所帯ですと、そうはいきません。しかもそれぞれがもとは異なる政党に属し、独自のやり方を持っているわけですから、そう簡単に一つの新しい組織を作ることはできません。ですから、あれだけの人数が急に集まってしまったことが、かえって新進党の不幸ではなかったかと思います。

日本の情報通信革命は危機的状況にある

本澤

 ところで、実際に永田町に足を踏み入れてみて、しかも、女性議員であるという目から見て、どのような感じがしましたか。入った時と今とでは所属する政党も違っていますし、多少印象は変わっていると思いますが。


 私がこの世界に入るのが2年早かったら、もっといろいろと不満や壁を感じて、何も自分はできないと失望することが数多くあったのではないかと思います。ところが幸いなことに、これから日本、と言うより人間社会を根底から覆すような情報通信革命がやって来ます。現在、それに向けた様々な整備に携わっているので、大変やり甲斐がありますし、充実しきっています。

 情報通信革命というのは、単に情報通信の技術が革命的に変わるだけではなくて、組織やライフスタイル、意識など、人の営みのすべてが情報通信の発達によって革命的に変わることを意味します。

 これまでも農業革命や産業革命が世界を変えてきましたが、それに次ぐ変化が情報通信革命です。ただでさえ制度疲労を起こしているジャパンシステムは、今後の情報化社会に対応していくため根本から変わっていかざるをえないでしょうね。

本澤

 専門外なものですから、わかりやすく説明をお願いします。


 まずこれまでの社会との一番の違いは、物事の処理スピードが、格段に速まることです。すると、いまの日本社会のように、上から下へ、下から上へと、重層構造になっていては、決定までに多くの人の理解と決済を必要とするので、日本は世界 のスピードから取り残されてしまいます。インターネットを利用して電子決済なども本格的にスタートしますし、産業界ではEDIやCALSなども導入されてきています。

 ただ既存の組織や慣習に引っ張られて、世界と足並みが揃わないと、日本は世界の“落ちこぼれ”となってしまうでしょう。

本澤

 たとえば、アメリカではそうなっているわけですか。


 アメリカはまさに先頭をきって整備を進めた結果、現在の好況を獲得したわけですし、さらに情報世界の覇権を握ろうと着々と歩を進めています。欧州も連合して必死にそれに対抗しようししていますし、アジア諸国でも、シンガポールがシンガ ポールワンという情報通信に特化した政策を打ち出しています。

 一番有名なのはマレーシアのマハティール首相による、マルチメディア、スーパーコリドー計画ですね。サイバー政府とサイバー都市、それにハブになる空港、港を近くに造るなどして、すでに21世紀型の未来都市を建設中です。それらのアジア諸国に比べても、日本は後塵を拝していると言えます。

本澤

 ちょうど、そういう時期にバッジを付けられて、しかも政策的に関与できたということで非常にタイムリーだった、ということですか。しかし、どういうことが起こるのか、よくわかりませんね。僕はワープロも使えませんから。


 私も手書きのほうが好きですけど、キーボードをどれだけ華麗に打てるかということは、情報化とは直接関係ありません。事の本質は、世界中リアルタイムで情報が共有化できる環境ができ上がりつつあるということですから。日本がこれから完全に鎖国をして、情報も物もいりません、自給自足でやっていきますというなら、そうした環境を作ることはなく、社会を変える必要もありませんが、それは不可能です。

 ただ、変えるとなると日本は基本的に村社会ですから、情報公開に抵抗がありますし、個よりも組織を重んじ集団で動きますよね。これでは情報化社会は進展しないんです。

本澤

 そうなりますと、やはり政策の決定者にその重要性を理解してもらわないといけないわけですが、その点について、どのように実行していくつもりですか。


 おっしゃる通り、政策決定に重大な影響を与える、いわゆる政界の重鎮といわれる方々に理解していただかなければ、どうにもならないわけです。現在、そのための勉強会を複数作っているんですが、一つは参議院マルチメディア化推進議員懇話会という、国会のなかにコンピュータ・ネットワークを作りまして、それをみんなで活用できるように力を合わせていきましょうという会で、私が事務局長をしています。

 そして自民党のほうでは、広報本部のなかにインターネット委員会という組織がありますが、その副委員長をさせていただいています。先日も党の情報公開を進めるため、パソコンを25台も導入していただきました。具体的に何をするかといいますと、各部会でなされた討議のサマリーを“政策速報”という形でインターネットのホームページにどんどん出していくわけです。

 いままでは政策といいますと法案になりかけた時点、つまり閣議に上がった時点で、一般の国民の方々の目に触れるようになっていましたが、これでは、そこに至るまでの政策の決定過程がわかりません。情報公開の一環として、インターネット上に政策速報を出していくことで、その透明性を高めていこうと……。

本澤

 たとえば、議員連盟がやった朝飯会のサマリーがパッとその中に入り、誰でもそれを見られるようになっているわけですね。


 部会でしたらアクセスしていただければ、すでに情報が出ていますし、疑問がありましたら電子メールで質問を送っていただければ、お答えするようになっています。

本澤

 特殊な人たちの情報の独占を開放するわけですか。


 その通りです。また、党の機関である「安全保障調査会」の中にも、安全保障という面から情報化政策を検討する研究会も作らせていただき、事務局長を担当しています。ここでは、官邸を核とした情報ネットワークの整備と、情報化社会時代の危機管理、たとえばコンピュータ・ウイルスが撒かれたり、あるいはコンピュータに不正に侵入されて、中の内容を盗まれたり、書き替えられたりする危険へのセキュリテイ対策を取りまとめています。

 それから「テレコム・ブレーンストーミング」という会を主催していまして、各分野での情報通信のエキスパートの方々に集まっていただき政策全般の討議をして、この取りまとめを「情報通信政策に関する緊急提言」として、11月末に官邸に向け提出することになっています。

本澤

 そういったことを畑さんは、いつ勉強されたんですか。NHK時代にはもうすでに……。


 いえ、本格的にやりだしたのは議員になってからです。私自身は文系で、技術的な部分はよくわかりませんが、たまたま家族にエンジニアがいましたので始めることができたんです。そのうちにだんだんと、これは21世紀の日本を考える上で、もっとも重要な政策分野だと思うようになったんです。

 それで、いまのような仕事を始めることになったわけですが、すると情報通信の世界では世界的な大家といわれる方々が、まったくの手弁当で協力してくださるようになったわけです。私のような駆け出しの議員の要請にもかかわらず、朝8時からの朝食会にご自分の足でいらっしゃって、長いと3~4時間、真剣に話してくださるんです。それだけ、日本が危機に陥っているあらわれだと思いますが……。

本澤

 そのためにも、情報通信革命に全力投球すると。


 私自身は、これは無血の革命だと思っています。私のような若輩が言うとあまり真実味を持たないかもしれませんが、農業革命の時に生産性が10の2乗、つまり1OO倍に向上しました。産業革命で10の3乗、そして、情報通信革命では10の5乗になるだろうと言われています。

本澤

 つまり、10万倍ですか。


 そうなったときに何が起きるか。おそらく天と地がひっくり返るくらいのことが、もう起き始めていて、各部署ではそれぞれ対応策はそれなりに取ってらっしゃるんですけれど、“国家戦略”として方向性を示し、各官庁の取り組みを統括するところがないんです。私としては「緊急提言」を持っていくなかで、結論として、内閣官房に国家情報戦略本部を設置することを要望して、その実現を目指しています。

女性は本質的に男性より乱世に強い

本澤

 ところで、この永田町は一方で男社会である部分が非常に強いわけですが、そういったことで仕事がやりにくいことはありますか。


 ことさらに、政治の世界が男社会だとは思いませんね。むしろ、いまの私は、国民の代表として選ばれた議員ですから、男性議員とまったく同じに秘書が3人支給されて、部屋も貸与されて、国会での1票は1票です。そういうことが基本的にありますから、他の分野からすれば、男性と比べて、きわめて公平な権限 が議員として保証されていると思います。たしかに、役職に就かないと自分の政策を国政に反映できないとか、党の方針と自分の考えが違った時にはどうするのかといった問題は多々ありますが、それは女性だからとか、若いからとかいうこととはあまり関係がありませんから。

本澤

 そうですか。ところで政治に興味を持って、この世界に入ったと思いますが、尊敬できる政治家というのはどなたかいますか。外国の政治家でも構いませんが。


 やはり、サッチャー(元英首相)というのはすごいと思いますね。

本澤

 いま、サッチャーの名前がいみじくも出ましたが、通常我々は、とくに私は女性議員に対して、男性議員に対するものとは違う期待があるわけです。女性というのは、だいたい心がやさしいですよね。


 そうですか?私はあまりその意見には賛成できませんが。サッチャーがいい、と言ったのも厳しいところが好きなわけでして、男の方のほうが、概してずっとやさしいと思います。

本澤

 女性というと鳩のイメージがあるんですよね。平和のイメージが非常に強いわけですよ。ところが実際は永田町も含めて、世界でも、本来女性が持っているような、そういう特性を発揮している女性政治家がきわめて少ない。むしろ、サッチャーさんのように、いざとなったら大砲をぶっ放しそうな、そういう感じの強さを持っている女性が多くて、僕が女性の議員に期待している、本来女性が持っているやさしさを発揮していないと思うのですが。


 考え方が根本的に違って申し訳ありませんが、私はサッチャーが女だから、あれだけの強さを持ちえたと思います。たしかに女性には、母性で包み込む暖かさだとか、やさしさがあると思いますけれど、危機に際して、いざ自分の子供を守らなければならない状況になった場合には、社会的な和合とかそういった事は全部なぎ倒して、子供を生き延びさせるため、ある意味で竜にも虎にもなると思いますよ。
 これは私論ですけれど、平時のほうが男性の政治家が活躍しやすいと思いますね、和が大事ですから。社会的生き物である男性のほうが、互いに気を使い合うので、これまでの日本ではそのほうが良かったわけです。しかし、有事の際でもそのままだと国が潰れてしまいます。

 たとえば、これ以上景気が悪くなって、このまま日本型の組織やシステムを温存していては情報通信社会に対応できない、ここはなんとしても革命的な変化を起こさなければいけない、という時には、男性ではあまりにも周囲に細かい気遣いをしすぎて、うまくいかないのではないかと思います。

 サッチャーさんの言葉に「私はコンセンサスを求めない。私のビジョンについて来てほしい」というのがありましたけれど、あれはやはり女性でないと言えないでしょうね。

本澤

 だいぶ勉強になりました。どうもお忙しいところを有難うございました。