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安全保障高度情報ネットワーク化研究会 第一回(平成9年6月11日)
米軍情報通信システムの動向
- 米軍通信システムはストーブパイプ型からシームレス型に移行しつつある。 10車線を有する高速道路があったとして、指定された車線以外は走行できな いのがストーブパイプ、自分の走行車線が渋滞している時には、空いている車 線を自由に走行できるのがシームレスと考えれば理解しやすい。従来、情報通 信システムは通信インフラの上に交換機、コンピュータを連接した専用システ ムであった。その中に流れる情報はシステム独自のプロトコル等を採用してい ることから、開発と維持に膨大な費用を必要とし、他システムとの相互運用性 に乏しいシステムである。現在は、ジョイントビジョン2010を背景としD II(防衛情報インフラ)、COE(共通オペレーション環境)を基本とする シームレスな統合の情報通信システムを構築中である。その為には、民間のテ クニカルアーキテクチュアをはじめとする情報テクノロジーを利用し、コスト、 開発期間、保守期間を低減し、相互運用性の実現を目指している。このことは、 ゴア大統領の提言したスーパーハイウェイ構想のミリタリー版と理解すれば分 かりやすい。
- ジョイントビジョン2010の実現に向けて統合参謀本部、4軍それぞれに C4Iコンセプトを発表している。 C4Iとは、4つの“C”はコマンド(指揮)、コントロール(管制)、コミ ュニケーション(通信)、コンピュータであり、1つの“I”はインテリジェ ントである。コマンドとコントロールで部隊展開を、コミュニケーションとコ ンピュータで情報管理を、インテリジェントで意志決定を意味する。 C4Iコンセプトはそれぞれ統合参謀本部が「C4I For The Warrier」、陸軍が 「Enterprise」、海軍が「Copernicus」、空軍が「Horizon」、海兵隊が「Sea Dragon」である。一番早かったのがコペルニクスで、1990年にできている。 コペルニクスとは地動説のコペルニクスであり、従来は技術を中心とした円周 上をオペレータが回っていたのを、オペレータを中心とした円周上を技術が回 るように発想転換したコンセプトである。4軍のそれぞれのコンセプトは統合 参謀本部の「C4I For The Warrier」とリンクしており、情報の共有化による統 合運用が目的である。
- 米軍の従来の情報通信システムはパケット通信であったが、現在はインター ネット通信に転換している真っ最中である。背景の一つには、1960年代に 作られたテレタイプの通信網の滞留、システムの陳腐化による維持整備費用の 増大。一方では電子メールの氾濫があり、DISN(防衛情報システムネット ワーク)と呼ばれるイントラネットでのメッセージシステムの再構築が必須で あったからである。
- 情報通信システムで忘れてならないのがセキュリティの問題である。米軍で は、イントラネットでの情報電送の規格化を進めている。そこでは、コンピュ ータ、ネットワーク、セキュリティの役割が明確になっている。ここでは、優 れた民間技術を積極的に採用している。セキュリティにも民間技術を採用して いるが、MISSI(マルチレベル情報システムセキュリティ構想)のもとに 採用している。
- 米本土の通信インフラは民間回線を借用していると言われているが、軍用通 信衛星があることも忘れてはならない。また、米軍のやり方を日本にそのまま 導入するのは疑問である。なぜなら、彼らは「米本土での戦いはない」という ことを前提に通信インフラを構築しているからである。
- インターネットで使われるTCP/IPプロトコルは、米軍が1980年代 に開発し世の中に広がっていったものであり、現在はインターネット全盛の時 代である。こうしたことからも、米軍の情報通信の動向に注目することは大切 なことである。彼らのコンセプトをうまく取り入れ、これからの高度情報化に 対応していくことがよいかと思う。
国会議員よりの質問・意見
- 米軍の場合は一般の兵士まで情報を流すと言うが、 情報が敵に流れる恐れがあるのにかかわらず、 一兵士まで情報を流すということはどういうメリットがあるのか。
- 世界の暗号の鍵を米軍が管理するという話があるが、それはどういうこか。
- NATOは戦場になる可能性があるが、そこはどのように解決しようとしているのか。
- では、日本の自衛隊の中にNATOレベルの米軍のシステムとインターフェイスなどを作って、 接触していかなければならないということになる。 しかし、それが30年遅れているという事か?
- 市ヶ谷の情報本部ができた。しかし日本は縦割りの組織構造で、 情報化に向けて壁があると聞いている。そういうことは米軍では経験がなかったのか。
- 説明によると米軍の通信システムは、 同じハイウェイで軍用車と民間の車が一緒に走っているという状況である。 平時ならそれでいいが、いざウォータイムになれば、 軍用車を優先させるようなプロトコルなどがあるのか。
- 民間の衛星を利用する場合でも、全く同じなのか。 情報に関する有事法制というのがあるのか。
- 米軍は今、四軍あるが、 それを統合しようという意図があってこれをやっているのか。
- 霞ヶ関もWANでつながっているが、実際は何も情報を出さない。 日本の場合は線はつながるが、情報は共有化されない。 アメリカで「情報が共有化されなければならないんだ」と、 みんなが認識しているというのはなぜなのか。
- 日本はセキュリティ・システムに対する認識が低いということか。
- 日本は、 暗号化の技術レベルなどが世界的に見ても高いと聞いているが、実際はどうなのか。
- シームレスな通信網を作るということだが、 ハードはそれぞれ分野別にメーカーも違えば規格も違う。 これは日本に置き換えたときどうなるのか。 例えば一つのメーカーが全部やらなければならないということはないのか。 独占企業にならないのか。