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「政界」,20巻2号,政界出版社

「政界」
20巻2号
政界出版社




対談 インターネット時代の医療の在り方
日本医科大学掲げる

21世紀へ向けての医療学園都市構想

赫 彰郎氏
(学校法人 日本医科大学常務理事)

畑 恵氏
(参議院議員)

千葉県印旛。この水と緑の豊かな丘陵を利用し、82・5ヘクタール(25万坪)の広々こした医療学園都市を建設する構想(INBA‐H-TEC)が日本医科大学の手により進められている。今回は日本医科大学常務理事の赫彰郎氏と参議院議員で自民党広報本部インターネット委員会副委員長などを務める畑恵氏に、将来の医療について語っていただいた。

医療分野における情報通信革命

 実は、先日、総理官邸にて橋本首相に「情報通信政策に関する緊急提言」を提出いたしました。この半年余り、有権者の方々から多くの御意見を頂戴し、私個人がまとめてきたものですが、世界的に進展を続ける昨今の情報通信革命に適切に対応
し、また十分な活用を行うにはどうしたらよいか、何が問題なのかを具体的に述べさせて頂きました。
 中でも、各政策を実行していく上で、各省庁の縦割り意識が非常に強いものですから、やはり一番の課題はどう省庁間で連携を取り調整を図っていくか、ということです。その一方で、総合調整という問題以前に、進行するグローバリズムと加速する変化のスピードに対応するためには、国家戦略的に明確なビジョンを持って、様々な政策を進めていかなければなりませんが、日本にはその戦略を策定する組織がありません。
 提言では、行革に伴い内閣機能が強化される中「内閣官房」が国家戦略を策定する機関になる予定ですので、そこに「国家情報戦略本部」を置き、また総合調整につきましては内閣府の中に「総合情報通信政策会議」を設置し、省庁間の連携を図ることを訴えています。

 日本医科大学は去年の8月に、LANが全学に整備されまして、いまはインターネットを利用した大学の紹介や研究発表のオープン化、それと最近では教育用の教材としても活用されています。

 いま、おっしゃられたようなことを各分野で目指して行動しなければいけないわけですが、いずれにも共通する最大のポイントは「情報公開ということです。ただ、それを先取りしていらっしゃるのは、本当にすばらしいことだと思います。

 ただ、そうしたインターネットなりを利用した教育ですが、どういう教授方法にするか、どうすれば評価することができるのか、といったことがまだまだ研究段階でして、満足するものができていないのが現状です。ですが、いずれは大学医学部でも、インターネットを利用した教育ができる人、というのが教授の選定項目の一つになってくるのではないかと思っています。
 いまの医療診療では画像診断が非常に重要視されているわけですが、東北大学ではインターネットを利用して、画像解析装置がないところでも画像が使えるようにするシステムを開発しています。実用化すれば、これまで解析装置のなかったところは非常に助かると思いますよ。

 日本ではインターネットの活用の先駆者は「国立がんセンター」だと聞いていますが、やはり“命を救うインターネット”になって、はじめてマルチメディアの有効活用がなされたと言えると思います。
ボケ予防のための10カ条を作成

ボケ予防のための10カ条を作成

 私は神経内科が専門でして、とくに神経内科のなかでも脳卒中を主に、最近では痴呆性疾患の診療や研究をライフワークとしております。ご存知のように高齢化時代を迎えた今、痴呆性疾患の患者さんの数は年々増えて、現在はおよそ130万人くらいいると言われています。
 これが2000年には160万人近くになり、2010年にはなんと230万〜240万人に急増する危険性があるというので、もはや単に医学の分野にとどまらず、社会的な問題になりつつあるわけです。そのため各都道府県等で、いわゆる痴呆病棟の数を増やしているわけですが、まだまだ足りないというのが現状だと思います。
 日本人に多い痴呆といいますと、一つは脳卒中から起こる脳血管性痴呆、それといわゆるアルツハイマー型といわれるものがあります。
 このうち脳血管性痴呆は、我々、脳卒中治療に携わってきたものが懸命に診療してきたことで、徐々に、有病率は少なくなっております。ところが反対にアルツハイマーの患者さんは、だんだん増えつつある傾向にあるのです。
 脳卒中は、食生活の問題や住宅環境の問題などを改害することで、その発症を予防することができますし、脳血管性痴呆は治療もある程度の効果をみせます。しかし、アルツハイマーだけは、いまもって原因がわからず予防も非常に困難です。
 そこで、どうすればアルツハイマーなり脳血管性痴呆を予防できるかということで、私ども専門家が集まってボケ予防の10カ条を作成しまして、このあいだ毎日新聞紙上に掲載していただきました。

 (提示された10カ条を見て)こうして拝見しますと、意外とシンプルと申しましょうか、普段から心掛けなければいけないな、と思うことが書かれていますね。ただ、頭では理解していても、なかなか実行には移していないわけですが、やはり、いつも目に触れるところに張っておくとか、お互いに確認し合ったりしないとダメなようですね。この10カ条を決められるうえでは、どのような話し合いが行われたのですか。

 専門家が7〜8人集まりまして、それぞれ10個くらいずつ選んできたテーマをディスカッションしながら、とくに重要なものを残して解説を付け加えたものが、この10カ条です。もちろん、単に感覚的に選んだわけではなく、自分が診察した患者さんの経験など、そういった統計的なデータに基づいて作っています。
 千葉県の印旛に日本医科大学が購入した25万坪の土地があるのですが、ここを三つの区画に分けて、それぞれ医療施設ゾーン、教育施設ゾーン、将来計画ゾーンというふうに呼んでおります。
 このうち医療施設ゾーンにはすでに病院が完成しておりまして、教育施設ゾーンには日本医科大学の、医学部のみの単科大学から総合大学への転換を視野に入れた学校施設が造られることになっています。そして将来計画ゾーンに、いずれ特別養護老人ホームのような施設を、将来の高齢化社会、福祉社会に備えて建設していく計画があります。
 同時に、先生のインターネットのホームページに「学との連携」ということが書かれていましたけれど、私どものほうで「INBA MEDICAL COMPLEX」と言いまして、日本医科大学の研究でなかなか日の目を見ないものを、「産学共同」ということで産業界の人に話を持ち掛けて、なんとか発展させていこうという計画があります。今、三菱総研等にあいだに入っていただきまして、勉強会を重ねながら、どこから着手しようかと徐々に話を進めている段階です。

印旛で構想される大規模な医療活動

 産学共同といいますと、スタンフォード大とシリコンバレーの関係が有名ですが、あそこがあれだけ活性化して、常に世界の最先端であり続けられるのは、やはり、そこでシーズとニーズを融合させる環境が整備されているからなんです。

 産と結び付くことによって、一般の人たちも恩恵を被るのではないかと考えております。

 私は科学技術特別委員会の理事を拝命しておりますこともあって、関心をもって勉強しているんですが、日本は研究開発の段階では相当な水準に達しているのですが、その後特許を取ったり、更にはその発明を実用化しようとなると、システムが整っていなくて非常に時間と手間がかかってしまうんですね。印旛での試みは、是非、医療のシリコンバレーような次元にまで高めていただきたいと思います。

 地理的に成田に近いということもありまして、現在、成田の新東京国際空港に、日本医科大学付属千葉北総病院の分院という形で、比較的大きなスペースを取った日本医科大学空港クリニックを開設しました。海外に行かれるときは、ぜひ寄ってみてください。

 以前、ドイツで体調を崩して、空港の中のクリニックで診療を受けたことがあるのですが、保健室のようなものだと思って行ったら、非常に立派な施設だったので驚いたことがあります。日本でもそのような施設ができつつあるわけですね。

 今、空港災害が非常に問題になっていますけれど、そうした災害が起きたときには、長さ145メートル、幅6メートルのホスピタルストリートと呼ばれる通路に、長さ2メートルの簡易ベッドを2台ずつ並べて、多数の患者の手当てが可能になっています。
 また、空港災害のみならず南関東大震災も千葉北総病院は想定しておりまして、千葉県の災害拠点病院に指定されており、実は病院のすぐそばにヘリポートや備蓄用の倉庫も造っています。東京が壊滅して、東京では医療が施せないようなときには、ヘリコプターで搬送できるようになっているわけです。もちろん、ここの病院が崩れてしまってはどうしようもないわけですから、関東大震災クラスの地震でも壊れないように頑丈に造っております。またリスクを分散するため発電、受水槽などのライフラインも分散化され、周辺地域や東京都からの被災者の受け入れができるようになっています。

 それは防衛庁ですとか消防庁などと、連携をとられていらっしゃるんですか。

 消防庁とは非常に深く連携いたしておりますが、防衛庁とはまだ関係はできておりません。

 アメリカですと“フィーマ(FEMA)”のように、有事のときの危機管理システムがしっかり整っていますよね。活動のための訓練などもなさってらっしゃるのでしょうか。

 成田空港で飛行機災害が起きたときのための訓練は、うちの医者や看護婦も動員して参加しております。また、病院独自でも大震災に対応した訓練をいたしております。東南アジアから患者が成田に来たあとヘリコプターで私どもの千葉北総病院に運んだりと、そういうこともそろそろ始まっておりまして、もう少し宣伝して国際的な地位にまで高めたいと思っています。

評価システムの構築が最重要課題

 医学のみならず学術研究全般に亘って、今一番重要な問題は評価システムをどう構築するかということだと思います。インターネットという、非常に簡便かつ安価に情報公開ができるテクノロジーは、この問題を解決していく上で、今後大きな力になると思うのですが……。

 そうは思いますが、それ以前の課題も山積しています。教育に利用するにしても、これから研究していかなければ、どのように評価すればいいのか、私にも正直なところわかりません。

 今、科学技術振興費として5年間で17兆円という予算がついていますが、せっかくの予算を無駄にしないためにも、それが適切に使われているかどうか評価して、適切でない部分は大胆かつこまめに見直していかなければ、大きな成果は望めないと思います。
 もちろん、湯水のように予算があれば、いくらでも使っていただきたいのですが、これだけの緊縮財政ですとそれは難しいですから。やはり実績を上げている、世のため人のためになるような研究には厚く、なかなか成果が出ないところには我慢して頂くといったメリハリをつけなければならないと思います。

 そういうことも必要だと思います。ただ、医学の研究でも、たとえばオタマジャクシの血液を研究している人もいるわけですが、こういう研究の価値が劣るのかというと、必ずしもそうではなく、いずれすばらしい研究発展をする場合もありますので、このへんが問題の難しいところではありますな

 たしかに、なんでも偏差値のように単一のモノサシを当てて評価するのは、一番危険だと思います。ですから、長期的視野で広さと深さを併せ持った評価システムを、なんとかして構築していくことが肝心なんですね。
 少し話がズレますけれど、「コンタクト」という映画が話題となりましたが、あの主人公の女性科学者は地球外生物は必ず存在して、こちらにコンタクトしてくるはずだと信じて、相次ぐ研究費の打ち切りにもめげず、その結果、宇宙からのメッセージを受け取るんです。これを観た時には、科学の評価の難しさを、つくづく痛感させられました。

コンピュータ時代の弊害と利点

 先生のホームページに、これからは五感のうち、視覚と聴覚は発達するけれども、残りの嗅覚・味覚・触覚は衰えていくのではないか、と書かれていましたが、非常に興味深く読ませていただきました。

 実際にそうなっては困るので、警鐘を鳴らす意味で書いたのですが文部省では先日、「ワープロ時代に伴って、これからは漢字は書けることより、読めることを重視する」という方針を出されたようですが、この考え方には反対しているんです。むしろ逆で、普段、手で書く機会が少なくなるからこそ、初等教育では徹底して漢字書き取りを教えるべきではないかと。
 漢字は中国から伝わってきたものではありますが、日本の重要な文化の一つです。しかも漢字というのは多くの場合、頭でなくて手で覚えているものなんです。視覚的にはっきり覚えていなくても、いざ書いてみると、勝手に手が動いて不思議と難しい漢字が書けたりしますからね。
 もっとも、コンピュータの専門家の方の話では、匂いの出るパソコンもできるようですし、また触感のほうも、どういう形でかは具体的には存じませんが、やはり感じられるパソコンを開発しているようです。

 触覚はたしかに、こうキーを押すだけでも、脳の運動野は必ず活発になっていますから、かなりカバーできるでしようね。

 あと、日本語は漢字かな交じり文ですから、それだけアルファベットに比べて入力が遅くなりますので、中には、それが今の日米の経済格差にも表れていると、かなり短絡的な御意見をおっしゃる方もいます。
 ですが、編集工学研究所の松岡正剛氏によれば、アメリカの最先端の研究室では、漢字の持つ表意性を利用して、その文章が全体として何を言わんとしているのかを、アルファベットで書かれた文章より速く読み取る研究をしているところもあるそうですね。

 実際のところ、日本の情報化はアメリカに比べて、どのくらい遅れているんでしょうか。

 それこそ評価の仕方によっても大きく違ってきますが、たとえば、私が一番危倶している教育分野ですと、情報教育のハード面だけ見ても、米国より7年遅れていると言われています。ただ、そのような危機的状況も危機と認識していないということが、最大の危機なのだと思います。
 最近は金融破綻などの実態が表にあらわれてきて、自分たちの生活に危機意識を持つ人たちもだいぶ増えてきているようですが、情報化への対応の遅れや誤りが21世紀の自分たちの暮らしを危うくする、と認識している人はまだまだ少ないですね。

 コンピュータを利用した教育で一番助かっているのは、いままで黒板に書いたり、スライドに映したりしていたものが、ソフトで供給されていることでしょうか。なかには、解剖の様子などを取り扱っているものもあります。これからの学生たちは我々から教わるだけでなく、そういうもののなかから興味のあるものを自分で選び出して学んでいく時代になっていくかもしれませんね。

 今後はますます回線の容量も増えてまいりますので、サーバー上で世界中の講義を聞いて、それが単位として認められるようになると、本当にインターナショナルな教育環境が生まれますね。もちろん、これから少子高齢化社会の中でのマルチメ
ディアの活用にも真剣に取り組んでいかなければと思いますが。
 それから透明性が高く、ビジョンと戦略に富んだ、社会変化に即応できるシステムを……私どもも政策面でそのように心掛けるつもりですので、医療の分野でも構築していっていただきたいと思います。


赫彰郎(てらし・あきら): 昭和38年日本医科大学を卒業。同50年12月助教授。同56年4月教授、内科学第二講座主任、付属第一病院内科部長。平成8年4月法人評議員。同年に12月法人理事。同4年5月付属第一病院長に併任。同9年4月1日学校法人日本医科大学常務理事に就任。

畑恵(はた・けい):昭和37年生まれ。同59年早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、NHK入局。平成元年NHKを退局し、フリーランスに。同3年EC(現EU)の招聘でパリ留学。同7年参院選に立候補し初当選。現在は自民党広報本部インターネット委員会副委員長等を務める。



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